専門知識と経験のある社員の雇用

shutterstock_122908360日系物流企業の駐在員のマネジャーから、イギリスの物流は日本より進んでいると思っていたと最近聞き、意外に思いました。私は90年代のおわりの4 年間、日本に働いていましたが、帰国した当初、日本の宅配便のようなサービスに大きいな商機があると思ったのです。当時ロンドンのアパートに住んでいまし たが、19世紀に造られた狭い路地を巨大なコンテナ車が恐る恐る通行して小さな肘掛椅子一脚を配達しに来た時、これを実感しました。日本なら、はるかに小 さなバンで配達し、所要時間もずっと短かったことでしょう。私が日がな1日、家で配達を待つ必要もなかったはずです。

オンラインショッピングが人気を博し(イギリスはヨーロッパで最大のオンラインショッピング市場となています)、また郵便が自由化されたのを受けて、イギ リスにもMyHermesをはじめとする宅配便のようなサービスが登場しました。荷物を発送する際は自宅に引き取りに来てくれて、オンラインで翌日引き取 りの時間帯を指定できるうえ、重たい荷物の場合は送料も郵便局に持っていくより格安です。

日本の宅配便でも同様のサービスがあるはずですから、日本の物流会社のマネジャーが言っていたのは大規模運送、例えばヨーロッパ全土に大量の自動車部品を運送するといった類の物流サービスを指していたと思われます。

イギリスには物流の資格が存在し、物流学で大学の学位をとることもできますが、そのマネジャーの会社に勤めるイギリス人社員は皆、物流の専門知識は教室で 最新の理論を学ぶのではなく、実務を通じて培っていくものだと考えています。つまり、オン・ザ・ジョブ・トレーニングを重視していて、いわば日本の見習い 式のアプローチに賛同していることを意味します。

この日本のマネジャーいわく、彼の会社の社員はほとんどが生粋のイギリス人です。私がイギリスで研修の講師を務めている金融業界や通商業界の日系企業で は、社員の半数以上がイギリス以外の国籍者です。こうした会社では、学習姿勢や学習能力のほうが、現地市場の知識やスキル、経験よりも重要かもしれませ ん。でも、物流をはじめ、エンジニアリングなど熟練を要するほかの伝統的な業界では、これから育てる人よりも、経験からくる現地市場の理解や専門知識やス キルを持っている人のほうが採用候補者として魅力的に見えるものです。

専門知識・スキルを持つ人材の獲得
ただし、そうした人材は、イギリスのみならず他のヨーロッパでも簡単には見つかりません。一方で若年層の失業率は相変わらず高く、体を使う仕事やオフィス 勤務以外の仕事に就く気持ちはあっても、研究を受けたことがない、経験がないという若者は、安定した仕事を見つけられずにいるのです。

こうした現状をかんがえると、日立の鉄道システム事業部が他者と手を組んで、イングランド北部ユニバーシティ・テクニカル・カレッジを新設したというもの頷ける話です。そうでもしない限り、近くにある日産から社員を引き抜かなければならなくなると思ったのでしょう

Pernille Rudlin著 帝国ニュースより

 

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世界の最大の社会人SNS, LinkedIn

linkedin-naviパナソニック、三菱地所レジデンス、楽天がソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のLinkedInをヨーロッパほか日本国外での人材採用に 活用するという話を、日経新聞で読みました。LinkedInは、世界最大の社会人向けSNSです。本社はカリフォルニア州にあり、世界中で2億 7,000万人以上のユーザーを有しています。人材を見つけて引き付けるうえで効果的な方法であることは間違いありません。

私自身は10年以上前からこのサイトを使っていますが、仕事を見つけるためではなく、在ヨーロッパの日系企業に勤める社員の連絡先を見つけたり調べたりす るのが目的です。ただし、日本人社員や日系企業は概してLinkedInをあまりアクティブに使用していません。日本語バージョンも開設されていて、東京 にも2011年以来オフィスが置かれているにもかかわらずです。

その理由は主にLinkedInが中途採用や転職のために使われていて、それ自体が日本ではまだあまり主流ではないからだろうと思います。実際、ヨーロッ パでも、自分のスキルや経験を公開して、いかにも「就活中」のように見えてしまうことを嫌う人はたくさんいます。私が見たところでは、イギリス人とオラン ダ人はあまり抵抗感がないようですが、プライバシーを気にする(そしておそらくは英語でのコミュニケーションがあまり得意でない)ドイツ人とフランス人は やや消極的です。

私の知り合いのドイツ人の多くは、ドイツのSNSのXingを使っています。とはいえ、ヨーロッパの人(さらにはトルコなどの新興市場にある多国籍企業に勤める人)はみんなLinkedInのことを知っていますので、転職を模索する際にはチェックするでしょう。

つまり、雇用主にしてみれば、スキルや経験に基づいて人材を探すだけでなく、魅力的な会社であると訴求するうえでも良いツールになるということです。

LinkedInに自社のページを開設しようとする日系企業は、まず第一に「公式」ページであることをはっきりとさせる必要があります(個人が運営してい るOB・OGのページなどと区別するためです)。そして、社員が自分のLinkedInのプロフィールを会社の公式ページにリンクするよう奨励します。

ほとんどの場合、日系企業のページはすでに複数存在していることでしょう。これらを整理して、本社のページや各地にあるグループ会社のページなどをそれぞ れ明確に示す必要があります。各地のグループ会社のページと本社のページを相互にリンクして、1つのグループであることを示すことができます。

これらの公式ページは、本社および各地の子会社のマーケティングまたは人事担当者が管理すべきです。会社の規模や事業内容などを含んだ紹介文を作成して、 さらに自社のウェブサイトへのリンクも表示します。また、会社のイメージを反映した魅力的な視覚要素を使って「ブランド」を統一し、製品やサービスの説 明、新着情報やニュースも追加して、使いやすく見せる必要があります。

会社のページが正しく運営されれば、「フォロー」する人が瞬く間に増え、新たな人材を引き付けるのに役立ちます。そればかりか、既存の社員も自分の会社が LinkedInで明確かつ魅力的なメッセージを訴求していることに共感して、今までよりもずっと満足度や忠誠度を高めてくれることでしょう。

(帝国ニューズ・2014年4月9日・パニラ・ラドリン著)

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日系企業の欧州本社はどこへ

bike dad
近年ではオランダも人気の拠点国となりました

最近、弊社の顧客データベースをクラウド・ベースのサービスプロバイダに移行したことで、LinkedInなどのソーシャル・ネットワークとクロス検証できるようになりました。この更新作業を通じて、日系企業の顧客が欧州でどのように組織を編成し、どこに本社を設置しているかに注目してみました。

私の分析は決して統計的なものではありません。また、私自身がイギリスで勤務しているため、イギリス拠点の企業が多いと思います。それを考慮しても、日系企業の欧州本社はイギリスに最も多く、先のデータベースで本社企業96社の例を挙げると、イギリス(53社)、ドイツ(24社)、オランダ(10社)、ベルギー(5社)、フランス(2社)、スイスとポーランド(各1社)と続きます。

もちろん、欧州本社を設置しない日系企業も多数ありますが、欧州で長く事業を展開してきた企業は、財務や調達系の業務や人的資源を欧州に統合する傾向にあります。この流れはイギリスにとっても優位に働いており、ビッグバン以降のロンドンは、金融のみならず、マーケティング・法務・コンサルティングや人材面において確実に欧州のトップ、あるいは世界でも有数なサービスレベルを誇ります。

古くからイギリスは日本からの直接投資を受けてきました。英語、ゴルフ、開放経済などの影響など、その理由は多々あります。一方、ドイツも人気の地で、特に技術系の会社は、ドイツ流のプロセス志向とリスク回避体質に親近感を感じています。また、富士通とシーメンス、デンソーとボッシュのような提携が古くからあったこともプラス要因で、なかでもノルトライン・ヴェストファーレン州は、60年代から日系企業を積極的に誘致してきました。例外的にソニーは当初、ベルリンに拠点を開設しましたが、これは、初代社長の大賀典雄氏がベルリン国立芸術大学を卒業したことから、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団に近い場所を選んだと噂されています。

また、近年ではオランダも人気の拠点国となりました。優遇税制に加え、ベルギーと同様に欧州の物流拠点であることが、その理由です。ただし最近は、これら本社はイギリスに拠点を移す傾向にあるように見えます。キヤノンは、オランダからロンドン近郊のアックスブリッジへ移転しました。最近ボッシュとの資本関係を解消したデンソーも、本社は今もオランダにありますが、欧州事業のキーマンはイギリスをベースに活動していると見受けられます。2009年にシーメンスと袂を分けた富士通の欧州事業は現在、欧州大陸、ノルディック、イギリスとアイルランドの3つに分散しています。

ソニーはベルリンの本社ビルを2008年に売却し、現在は欧州全域の営業・マーケティング業務をロンドン南西のウェイブリッジに統合しつつあります。ただし、ソニーの場合は、欧州の組織を「バーチャル」構造にしようとしているようです。人事の共通業務部門は現在トルコにあり、欧州事業の上級幹部は、各自の希望で拠点を選ぶそうです。この流れは、NTTデータをはじめ情報通信業界の他企業でも顕著に見られます。

このような欧州組織のバーチャル化も、イギリス経済に多大な恩恵をもたらします。あらゆる国籍の上級幹部が、ロンドンとその近郊に住んでいるか、住んでも良いと考えているからです。人口の40%以上が非イギリス出身者で占められているロンドンは、真に世界の首都、グローバルなキャリア発展の地となっているのです。

(帝国ニューズ・2013年4月10日・パニラ・ラドリン著)

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近代日本の建国を率いたエリート

history-mitsubishi-corporation-in-london-1915-present-day-pernille-rudlin-hardcover-cover-artロンドンの三菱商事に就職した時、同社が1915年にロンドン事務所を開設していたことを知り、私はとても興味を引かれました。ほとんどのイギリス人は、日本企業がイギリスに進出するようになったのは第2次世界大戦後しばらく経ってからだと思っているはずです。しかし実際には、三菱商事は総合商社のなかではロンドン進出の後発組でした。創始者の岩崎一族は1915年よりもはるか前にイギリスとの結び付きを持っていたにもかかわらずです。

この結び付きについて、最近あらためて学習する機会を得ました。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)眼科学研究所の大沼信一教授がロンドン在住の日本人ビジネスピープルを対象に行った講演で、明治時代にUCLに留学した日本の将来のエリートたちのスライドを次々と見せてくれたのです。そこには、1865年に薩摩藩から渡英した14人の学生に始まり、1901年にUCLで応用化学を勉強した岩崎俊彌氏までの名前がありました。

大沼教授は、これらのスライドを見せながら、近代日本の建国と興業を率いた偉人たちが、いかに勇敢に外国へ飛び出し、そこで暮らしたかを説明しました。そして講演後には、このチャレンジ精神を今の日本の若い人たちの間にどうすれば蘇らせられるかについて、熱い議論が交わされました。

大沼教授が提案した点のひとつが、外国での仕事経験が有利に働くことを日本企業が示し、海外経験を積んだ社員が日本帰国後に重要な役割を果たせるようにする、というものでした。

三菱商事では、経営トップは必ず海外経験があることが暗黙のルールとなっています。このため、三菱商事や他の商社に入社する新入社員のほとんどが、海外転勤となることを期待して入社してきます。けれども、むしろ国内事業をルーツとする他の大手日本企業では、このようなルールをそのまま適用するのは難しく、実際、現職の経営幹部に海外経験のある人がきわめて少ないという現実があります。

ただし、比較的規模が小さい会社では、そのような基準を導入できる可能性が高いかもしれません。経営者自身が旗振り役となって、社風を形成できるためです。その手本は、1963年のソニーの盛田昭夫氏に見ることができます。周囲の反対をよそに盛田氏が家族共々ニューヨークに引っ越した時、米国市場をもっとよく理解する必要があるという姿勢が明らかに打ち出されました。

ソニー現社長の平井一夫氏が幼少期から海外で暮らし、ソニーの海外法人で働いた経験を持っていることは、決して偶然ではないはずです。日本マイクロソフトの社長を務めた成毛眞氏は、インターナショナル・スクールの卒業者が成功した例はないと言いましたが、平井氏は東京のアメリカン・スクール出身です。
ソニーは現在、困難な状況に直面しているかもしれませんが、私は、その再生計画の成功を願ってやみません。創業者が自らの行動で示した起業家精神、日本の外の世界に目を向ける姿勢、変化に対する順応性といった伝統が、これからも生き続けてほしいと思うからです。

(帝国ニューズ・2013年7月10日・パニラ・ラドリン著)

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4月1日は出発の日、でも暗い底流にご用心

undertow日本企業のカレンダーで最も重要な日が近付きつつあります。それは4月1日。ほとんどの日本企業では、この日に新年度が始まるだけでなく、異動や再編の重大発表がすべて行われ、そしてピカピカの新入社員がプロパー採用のサラリーマン、サラリーウーマンとして初日を迎えるからです。

おかげで3月は不安に駆られる1か月となります。赤丸上昇中は誰か、衰退下降線は誰か、新社長のお気に入りとなるのは誰か、どの派閥がどのバトルに勝ちつつあるか、そんな憶測と情報のリークが飛び交うからです。

私のトレーニングに参加するヨーロッパ出身の社員が、日本企業はヨーロッパの企業に比べて社内政治が激しくないように見えて新鮮だという感想を述べるたびに、私はあまりシニカルになりすぎないようにしています。言うまでもなく、3月(やその他の季節)を覆うムードの底を流れる潮の満ち引きに気付かないまま過ごすことは、とても容易です。けれども、日系企業に長く勤めている社員は、うかつにしていると4月になってその暗い底流に足元をすくわれかねないことを、よく知っています。

日系企業で働いていた時、私はこの「クレムリン」風の政治分析のアプローチをちょっとやりすぎていたかもしれません。自分と接点のあった人たちを漏らさずスプレッドシートに記録して、入社年、役職と等級、その他の気付いた点などをすべて書き込んでいたのです。このファイルを毎年4月1日に入念に更新して、好成績を上げた人には称賛の言葉をメールで送っていました。

でも、これが必ずしも突飛な行動ではなかったことが明らかになりました。日系企業に長く勤めているイギリス人の知り合いにこの過去の秘密を打ち明けたところ、その彼も同じようなスプレッドシートを勤続20年にわたってずっと更新し続けていて、リストがあまりにも大きくなったのでプリントアウトして自宅のガレージの壁に貼ったという話をしてくれたのです!

日系企業で働く別のイギリス人のエグゼクティブから、自分の右腕となる役職に誰を選ぶべきかについてアドバイスを求められて、完全に日本の政治モードに入ってしまったこともありました。候補者の年齢、新卒入社だったかどうか、誰がスポンサーやメンターになっているか、もともとどの事業部門の出身だったかなどを、すぐさま聞いてしまったのです。そのエグゼクティブは、私の質問にほとんど答えられなかったばかりか、これらの点にはまったく関心を寄せていませんでした。彼が主な基準としていたのは、今のチームで良い業績を上げているかどうかでした。

これはかなり新鮮でした。日本企業ではしばしば、出身の部署が悪かったり、悪い派閥に属してしまったり、また過去に過ちを犯してしまうと、それがたとえ善意に基づくものであっても、取り返しがつきません。少なくとも欧米人のマネージャーは、成績の悪い社員を切る際は容赦がない一方で、多くの場合(常にではありませんが)、過去のキャリアに関係なく成績を上げた社員に報います。

日本企業が真にグローバル化して外国人幹部に人事の采配を握らせるようになれば、人脈が厚いだけで成績は振るわない社員には、はるかに居心地が悪くなることでしょう。逆に、自分のキャリアは終わったと思っていた社員に新たな活路が開かれるかもしれません。

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風にかざす指、月を指し示す指

hotei多くの日本企業では、今年度の最終四半期を迎えています。目標値に達することは言うまでもなく、現在の戦略が正しい戦略であることを裏付ける確たる証拠を示す必要があるという点においても、前の3期に比べて切迫感のある四半期となることが予想されます。現在の戦略が正しくないのであれば、年度業績を発表する4月末までに何らかの抜本的な改革案を経営トップに示す必要があるでしょう。

年間のサイクルではお決まりのことですが、2013年は今まで以上に危機感が強くなるのではないかと、私は予想しています。多くの日本企業は、世界市場における存在そのものが問われていて、現在の円安は一時的な休息を提供するものでしかないと感じているからです。
ボトムアップ方式で積み重ねるいつもどおりの中間期計画、すなわち前年の売上高と顧客のヒアリングに基づく予測、さらに「指を風にかざす」式の予測を数枚のA3紙にまとめたものでは、今年は通用しないと思われるのです。

一部の企業では、抜本的なリストラ計画が今後発表されるか、あるいはすでに発表されています。しかし、こうした計画の背後には、そもそもなぜ会社が存在するのかという巨大な問いが今も積み残されています。ほとんどの日本企業はこの問いをきわめて真剣に受け止めていますが、その理由は、単に社員を雇用し続けるだけでなく、未来の世界にポジティブなインパクトをもたらすことによって社会に貢献することが、会社の根源的な存在価値であると信じているためです。

これはすなわち、ビジョン、価値、企業文化といった厄介な領域に足を踏み入れなければならないことを意味します。日本企業はこれらのことを日本語で顧客や社員に伝えることは上手ですが、国外では決して得手でないと、私は考えています。
これらのことを伝えるには言葉や数字だけでは十分ではなく、ストーリーやヒーロー、そして芸術品が必要とされます。日本企業はこうした財産をたくさん持っていますが、問題はそれをどのようにしてグローバルに伝えるのかです。

その良い例に、カーオーディオなどを製造するアルパインがあります。現会長の石黒征三氏は、米国法人の代表を務めていた時代に、製品に不満を抱いた米国の顧客が拳銃で何度も打ち抜いたカセットデッキを送り返してきたことがあったという話を、今でもよく口にします。このカセットデッキは、今ではアルパインの博物館に展示されていて、世界市場でアルパインが生き残れたのは可能かなぎり最高の品質にこだわって顧客満足を最大の目標としたからこそであるという教訓を象徴する存在となっています。

これは非常に明確な芸術品、そしてストーリーです。これほど明確ではないけれどもやはり好例と言えるのが、出光興産の創業者、出光佐三氏が19歳の時に古美術品の売り立て会場で購入した「指月布袋画賛」です。出光氏は、「布袋の指」(細かいこと)ではなく「月」(大きなこと)を見るようにと社員にしばしば諭しました。すなわち、出光という会社は、営利のためだけでなく社会に益をもたらすために石油事業を営んでいるのだという意味でした。

この指月布袋画賛に描かれているのは、布袋の姿だけであって、月はまったく描かれていません。それはまるで、作者の仙厓義梵が絵を見る者に自分で月を見つけよと諭しているかのようです。日本企業にとっての課題は、この種の深遠な意味が外国語に転じる過程で失われないようにすることでしょう。

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真のグローバル本社が日本企業のグローバル化にとってベストの答えではないか

Passport-695x469この連載の以前の記事で、ファーストリテイリングや楽天などの日本企業が英語を社内公用語にしたことについて触れました。これに対する反応として、日本人 社員の英語に対する態度を調査した様々な結果がメディアで取り沙汰され、なかには日本人の73%が社内公用語として英語を話すことは好まないという結果も ありました。

さらに、最近発表された産業能率大学による調査では、ビジネスピープルの67%が海外で働きたくないと思っていることが報告されました。これらの調査結果 を受けて、日本の評論家の多くは、グローバル化する世界に対して日本が消極的になりつつある全体的なトレンドを映し出していると結論しています。特に若い 世代が内向きかつ慎重になっていて、これが経済にマイナスの影響を及ぼすという懸念があり、これは日本政府も指摘しています。これらの反応を見て私が感じ るのは、日本人が自分たちに関する調査結果を苦悶するのがどれだけ好きかを示しているということです。特に、日本が他の国とは異なるという結果や、何らか の暗い見通しを示す結果が出ると、高々と警鐘が鳴らされます。

私の目には、この種のトレンドは、日本社会の特異性などではなく、むしろ経済要因に関係しているように見えます。戦後の数十年のように輸出主導で日本経済 を立て直そうといった切迫した気運はありません。終身雇用が徐々に廃れつつあるのを受けて、若い人たちの会社に対する忠誠心は薄れ、ゆえに会社が行けとい うならどこへでも行くという態度も希薄になりつつあります。

日本企業は過去20年以上にわたって、グローバル環境の変化に対応してきました。高くつく先進国への海外駐在員は減らして、現地採用の管理職者を登用し、その代わり資本と人材の投資を新興国へと向けるようになりました。

同じトレンドは、他の先進経済圏にも見られます。米国はかつて労働者の移動が盛んな国でした。仕事を求めて他州へ引っ越すことを厭わない人たちがたくさん いたのです。しかし明らかに、その傾向は薄れつつあり、失業率の問題が長引いているにもかかわらず、人口の流動性は下降気味です。一方、ヨーロッパの人 は、アメリカ人のパスポート取得率がわずか20%であることを何かと指摘したがりますが(イギリスでは70%です)、欧州内の移民の流れはほとんどが東欧 からであって、西欧からでないことは特筆に値します。

多くの日本企業は、消極的な日本人社員を海外に赴任させたり、英語を社内公用語にしたりするのではなく、アジアでの採用者を日本に転勤させ、また日本に留 学中のアジアからの学生を雇用するなどして、グローバル化を進めようとしています。おそらくこれらの社員に対しては、できるだけ日本社会に同化して、本社 の日本人社員に大きな影響を及ぼさないことが期待されているのでしょう。

とすれば、アジア以外の事業がますます日本およびアジアから切り離され、この2つの地域間で人の移動が起きることはほとんどなくなる可能性があります。急 進的かもしれませんが、それならば解決策は、日本人社員の大多数が日本国内市場に目を向けたいと思っている事実を受け入れてしまい、グローバル本社から日 本国内事業を切り離してしまうことかもしれません。このグローバル本社は世界のどこに置いても構いません。そしてもちろん、そこでの公用語はおそらく英語 になるでしょう。

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日本が「グローバル・スパナー」を歓迎すべき理由

先日、MBA課程で学ぶ日本人留学生のグループに対して、在外の日系企業で働くことについて話をする機会がありました。私はコミュニケーション問題につい て触れ、単に言葉の壁だけではなく、多くのことを暗黙の了解で進める日本のコミュニケーションスタイルが海外ではうまく伝わらないという問題があることを 説明しました。こうしたなかで、外国在住経験のある日本人のMBA取得者は、日本の親会社と外国の現地法人の異なるコミュニケーションスタイルのブロー カーとして存在価値を発揮できると、私は強調しました。

その後のディスカッションでは、なぜ日本の若者が留学や海外就職をしなくなっているかに必然的に話題が及びました。ある学生が言ったのは、外国に住んで日 系ではない会社に勤めた経験があるにもかかわらず、ひょっとするとそれゆえに、日本企業での就職ができないと感じているということでした。「私のような社 員がうまくやっていけると思ってもらえないのです」と、彼女は言いました。

会の終わりに一連の名刺交換をした際、この学生は、フェイスブックをやっているからぜひ見てくださいと言いました。これを聞いて私は、最近読んだある記事 に日本人のフェイスブック・ユーザーの多くが海外在住の日本人だと書かれていたことを思い出しました。私が思うに、欧米ではフェイスブックが友達との連絡 方法として一般的に使われているという事実もさることながら、長くにわたって母国を離れて暮らすような人は天性のネットワーカーである可能性が高く、ゆえ にソーシャルメディアにも積極的に参加する傾向にあるのではないでしょうか。

生まれ育った国を飛び出した人にとって、連絡を取り続けることは重要です。これは、母国にいる友達や親戚とだけでなく、新しい国で知り合った友達との連絡にも当てはまります。各地を転々としても、音信不通にならないようにするためです。

また、長い間外国に暮らした人は、社会学で言う「弱い紐帯」を厭わない傾向にあるのではないかと思います。弱い紐帯とは、友達でも親戚でもなく、知り合い という程度のつながりです。グリーやミクシィは日本で人気のソーシャルネットワークですが、最近の調査によると、これらのサイトのユーザーが友達としてつ ながっている相手は平均29人で、フェースブックの全ユーザーの平均130人に比べて著しく低いことが分かりました。

世界を股にかける「グローバル・スパナー」は、このような弱い紐帯をたくさん持っている一方で、緊密なグループにも所属していて、それらの間の架け橋とな ることができます。つまり、日本企業ではグローバル・スパナーが、日本の本社の同僚や海外現地法人の同僚と強い紐帯を持てる可能性があるのです。彼らの弱 い紐帯が他のグローバル・スパナーにつながっていれば、2つの内向きグループの間にコミュニケーションのラインを開くことができるでしょう。

ただし、以前のこの連載でも申しあげたとおり、日本企業の問題は、グローバル・スパナーのようなタイプの社員をしばしばアウトサイダーとして懐疑的な目で 見て、内輪のグループに入れようとしない点にあります。これは日本だけでの問題ではありません。アメリカのオバマ大統領は即座に同意するでしょう。けれど も、日本は特にその傾向が強いように見えるのも確かです。

ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング・ヨーロッパでは、PS Englishと協力して「ビジネスのためのコミュニケーション」というコースを提供いたします。オフィスや自宅、あるいはSkypeを介して、経験豊富 な講師との毎回1時間半のセッションを、10回または20回のシリーズで受講していただけます。日本人がビジネスの場面で英語を使うことについて、それに 必要な「筋肉」と文化について、あらゆる側面を取り上げるコースです。詳しくはこちらへクリック(日本語・英語pdf)お願いします。

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英語使用の義務付け

「経営の神様」と呼ばれるピーター・ドラッカーが、 かつてこう言いました。日本のビジネスピープルは、問題点を正しくとらえる傾向にあるが、誤った答えを出すことがある。一方の欧米人は、たいていは正しい 答えを出すが、答えるべき質問が間違っていることがある、と。これは、日本人は解決策へと話を進める前に問題を定義するのに多大な時間を費やし、欧米人は きわめて迅速に、おそらくは迅速すぎるほどに、問題だと思う点を何であれ修正しようとするということを説明した発言でした。

企業のグローバル化という点では、日本企業による向こう見ずとも言える対策が導入されてきました。その目的は社員をグローバル化することにあり、たいてい は英語を話すことに特化したものです。昇進に際してTOEICの点数を条件のひとつにしたり、英語を社内公用語にしたり、あるいは一定レベルの社員全員を 海外に派遣して英語学習させるといった対策です。これはまさに問題点を正しく分析した結果だと思います。日本の多国籍企業は、今後も成長を続けていこうと 思うのであれば、グローバル化を進める必要があります。それには海外で事業開発して管理していく能力が必要とされ、これは究極的に人材開発の問題です。

でも、海外で事業を開発・管理する能力が全員に英語を話させようとする一律の規則で実現するかどうかは、私は確信できません。日本マクドナルド会長の原田泳幸氏は最近、日経ビジネスオンラインの取材で次のように語りました。 「日本語で考えているのであれば、日本語で話せばいい。英語で考えているのであれば、英語で話せばいい。日本語で考えて英語で話したり、英語で考えて日本 語で話したりすれば、相手に理解されないだろう」。私が思うに、原田氏の言いたかったことは、語学力があることが必ずしも有効にコミュニケーションするた めのバイカルチュラルな理解を意味するのではないということではないでしょうか。バイカルチュラルな理解がなければ、海外の顧客に対するマーケティング訴 求も成功しないし、本社が正しい意思決定を下すのにどのような情報を必要としているかも分からないことを意味します。

かねてから日本企業は、そのようなバイカルチュラルな理解を持つうえで必要とされる海外在住経験のある日本人の大卒者採用には積極的ではありません。しか も、海外留学を志望する日本人の学生は減っています。現在の雇用環境で留学すれば、新卒採用の就職活動のタイミングを逃し、内定をもらえなくなるという恐 怖感があるためです。

私の以前の勤め先のある日本企業は、留学経験者を対象とした別枠の採用プロセスを設けて、このハードルを乗り越えようとしました。ただし、これが正しいアプローチかどうかは分かりません。こうして採用された社員は特 別視されてしまい、日本の大手企業では、どんな意味でも「スペシャリスト」とされると、主流から外れてしまう傾向があるためです。この企業は、今では内定 を出すスケジュールを遅らせて、留学経験者かどうかにかかわらずすべての学生が、就職活動よりも本業の学問に集中できるようにしていると思います。これは 正しい方向性と言えるでしょう。全員に一律の規則をあてがうのではなく、柔軟性と多様性がグローバル企業では標準となるべきです。

ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング・ヨーロッパでは、PS Englishと協力して「ビジネスのためのコミュニケーション」というコースを提供いたします。オフィスや自宅、あるいはSkypeを介して、経験豊富 な講師との毎回1時間半のセッションを、10回または20回のシリーズで受講していただけます。日本人がビジネスの場面で英語を使うことについて、それに 必要な「筋肉」と文化について、あらゆる側面を取り上げるコースです。詳しくはこちらへクリック(日本語・英語pdf)お願いします。

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Wiggleがどのようにして日本市場を攻略したか

wiggleロ ンドン・オリンピックでイギリスが自転車競技の金メダル最多獲得国となったのを受けて、数年前からイギリスで始まったサイクリング・ブームは、さらに加熱 した感があります。ヘルシーなライフスタイルや環境意識の高まりを反映して、また通勤苦を回避するために、ますます多くの人が、趣味としてまたは通勤手段 として、自転車に乗るようになっています。

日本でも、自転車は人気が高まっています。特に昨年の東日本大震災の後、このローテクな乗り物がいかに信頼性が高いかが注目されるようになりました。

自転車のアクセサリーを販売するイギリスのオンラインストア、Wiggle は、イギリスと日本で好調な売れ行きを謳歌しています。最近、私は同社のマネージャーの話を聞く機会に恵まれ、同社がこの人気の波に乗れたのは単なる幸運のめぐり合わせではなかったことに気付きました。 日本の顧客開拓にあたって重要な役割を担っている要因として、Wiggleでは、第一に日本人のカスタマーサービス担当者、第二に世界各地へのすばやい配送、そして第三に低価格を挙げています。これらの要因それぞれが、日本市場への扉を開くカギになったというのです。

Wiggleでは、日本に相当数の顧客がいると認識した当初、単純にGoogle Translateを使ってウェブサイトの英語を日本語に翻訳しました。その後、日本の顧客がさまざまな連絡をしてくるようになり、そのなかには訂正すべ き日本語の個所を指摘するものもあったことから、日本語の話せる人を雇い始める必要があると自覚しました。 Wiggleは現在、日本語のネイティブスピーカーを5人、社員に抱えています。これらのスタッフは、ウェブサイトの文章を確認するだけでなく、電話と メールで日本の顧客に対応したり、マーケティング・キャンペーンが日本の文化的嗜好に即しているかどうかを確認したりする業務にも従事しています。

ウェブサイトに正しい日本語を記載することは、重要性が高まっています。以前に比べて日本の消費者は、海外のウェブサイトから商品を注文して PayPalなどの決済手段で支払うことに勇敢になっていますが、その一方で詐欺の被害に遭った人も多数いるためです。その結果、詐欺サイトかどうかを見 分けるポイントの1つとして、日本語がおかしいサイトが警告されるようになっています。

迅速な配送は、もちろん日本国内のサプライヤと競争するうえで欠かせません。ただし、Wiggleでは、国外への製品販売を目指す他社へのアドバ イスとして、国外配送を試みる前にイギリス国内の流通を確立することがきわめて重要だと強調しています。Wiggleのケースでは、日本に向けた相当量の 販売を始めるよりも前に、国際空港に近い便利なロケーションに高度な倉庫システムを設置していました。

低価格については、円高の恩恵があるため、一企業の力ではどうにもできない部分があります。とはいえ、日本語を話せるカスタマーサービス担当者と 配送網を確立した現在、為替が不利な方向に振れたとしても、それを乗り切るだけの忠誠な顧客がWiggleには付いているように、私には見えます。

もうひとつ、同社が日本の顧客ベースのロイヤリティを維持するうえで重要なカギを握る点として、日本人のカスタマーサービス担当者のロイヤリティ を維持することが挙げられるでしょう。イギリスの会社が、日本の「難しい」顧客に対応するために日本語の話せる社員を雇っておきながら、その社員が顧客対 応するのに必要なサポートと権限を与えないでいるというケースを、私はあまりにも多く耳にしてきました。

配送の遅れや品質の問題を「イギリスでは普通のこと」だと言って日本の顧客に納得してもらおうとするのは、たとえそのメッセージが丁寧かつ完ぺきな日本語で伝えられとしても、決して成功するアプローチではありません。

The Nikkei Weekly 2012年8月20日号より

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