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最 近、英系の小規模な会計事務所のパートナーにこんなことを聞いてみました。大手会計事務所で人員削減に遭った会計士の方から、多くの仕事の問合せが来るの ではないですか?と。彼曰く、確かに多くの応募が来るのですが、大手の企業で経験した人の採用にあたっては、より慎重に検討しないと、ということでした。 要は、中小企業では、大企業のようなキャリアパスを提供できないからだそうです。晴れて入社しても、自分の昇進や将来性の可能性が会社に見られないとなる と、フラストレーションとなって退職する羽目になってしまうそうです。
これを聞いて、在欧州の日系企業によく聞く話だな、と改めて感じました。欧州はアメリカのような大国と違い、多くの国々で成り立っていることから、日本企業はそれぞれの国に1人か2人 の日本人駐在員でオフィス運営する事がビジネス上の最善策と考える傾向があります。必然的に現地採用の社員は小さい組織ゆえ、任される職務も多岐に渡りそ れなりの面白みもあったりするのですが、いざマネジャーへの昇進があっても、このような規模では縦型の組織構成が無いので、実際に監督すべき部下がいな い、という問題が起こります。
で は一体、日系企業はどのように社員の高い意欲を維持させ、長期的な雇用を今後も期待できるのでしょうか。前述の会計事務所のパートナーによると、答えは充 実した給与と福利厚生、そして充分なスタッフトレーニングとのことでした。但し、これだけでは、上昇志向の強い社員には今ひとつ物足りないかも知れませ ん。在欧州の日系企業には、私の経験上、是非検討いただきたい提案が二つ程あります。
まず一つには、欧州全土を統括する汎欧州型人事組織をつくることです。 こ れにより、現地スタッフは結果的に一国だけでなく、欧州全体の組織の中で地位を得られるようになります。「欧州営業ダイレクター」などという役割はなかな か付与されにくいとしても、欧州全体会議やトレーニングを行う事により人的ネットワークを作り上げることが出来るのではないでしょうか。社員はブログ、 ウィキ等の電子手段で連絡を密にし、公私共々の情報交換も頻繁になります。こうすることで欧州全体の連帯感を高め、共有する経験の中から自ずと“出来る社員”なども明らかになってくるのです。またもう一つの利点は、欧州全体に点在する同僚達と交流を深め、それぞれの事業にも通じてくることから、いざ異動や、更なる汎欧州的業務なども、より前向きに考えるようになるでしょう。
更 にもう一つ、社員の動機付けに役立つのは、彼らの専門分野における社会的地位の向上に役立つ機会を付与することです。これは日本企業の管理側にとっては、 それは大丈夫、と思われるかもしれません。一般的に日本人は、自分の会社が有名で、広く認知されている=自分達のステータスは充分に確立、と考える傾向が あります。ところが、日本でそうであっても、一歩国外に出れば、知られていない会社なのだという事実にも目を向ける必要があるでしょう。私がここで申し上 げる「士気を維持する為の機会の提供」とは、専門家協会への加入の奨励、資格試験、産業会議でのスピーチや専門雑誌への投稿を積極的に奨めるなとが例とし て挙げられると思います。
こうして日系企業が現地採用社員の社内外の認知向上のサポート体制を提供し、社員がその産業会での専門性を高めることに積極的になれば、社員も必然的に士気の高い優秀な社員に継続して働いてもらえると思うのです。
この記事はパニラ・ラドリン著「ユーロビジョン: 変わりゆくヨーロッパで日系企業が信頼を構築するには」に出てます。Kindle版とペーパーバックはamazon.co.jpでご注文できます。
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