投稿者: Pernille Rudlin

  • スコットランドの独立とEU ― 理知と感情

    スコットランドの独立とEU ― 理知と感情

    この記事が発行されるまでには、スコットランドが独立を選んでいるかもしれません。そうなれば、さしづめ「感情が理知を制した」と言えるでしょう。投票1週間前の世論調査では、独立に「イエス」の支持派と「ノー」の反対派がほぼ同数で、迷っている人が多数いました。この決められずにいるという人は、「頭」では独立すべきでないと思っているけれども、「心」が揺るがされている人たちです。グレートブリテン王国となって300年。今また独立して運命を自ら支配するという展望に、心躍るものを覚えている人たちです。

    スコットランドとイングランドの企業も、ついに黙っていられない状況になりました。ほとんどは「ノー・サンキュー」の立場ですが、「ノー」は耳障りの良い言葉ではありませんし、その理由は脅迫のようにも聞こえます。独立国スコットランドの未来は不透明です。通貨ポンドを使い続けられるのか、使い続けるとすればどう統制するのかについて、難しい交渉が始まります。EUに加盟できるのか、いつ加盟できるのかに関しても、EUとの交渉を始めなければなりません。

    イギリスも来年5月に総選挙を控えていて、保守党はEU離脱か残留かを国民投票にかけると公約しています。EU離脱を唱える独立党が最近の地方選と欧州議会選で躍進したことから、保守党が次期与党となるのであれば、イギリス国民がEU離脱に票を投じる可能性もかなり現実味が増します。

    日本のビジネス関係者にとっては、自国の政治経済の安定を覆しかねない行動を国民が支持するとは不思議に見えることでしょう。政治経済の安定があったからこそ、外国投資がイギリスに流入してきたのです。けれども、この安定の歴史こそが、スコットランド人や他のイギリス国民に「なんとかなる」という自信をもたらしています。イギリス人は実利主義を誇りにしていて、最後はどうにか切り抜けられると思っているのです。

    スコットランド独立の可能性に備えて、企業は緊急計画を練り始めました。「BREXIT」(British exit of the EU)の可能性にも備えていることは、疑いの余地がありません。スコットランドの首都エジンバラはロンドンに次ぐイギリス第2の金融ハブですが、ロイヤルバンク・オブ・スコットランドですら、スコットランドが独立を選ぶのであればイングランドへの本社移転を考えると表明しました。スコットランドのもうひとつの主要産業、石油業界も、民族主義の波で国有化が起こり得るという展望に戦々恐々としています。民族主義国家の進歩的な政策を支えるための法人税引き上げや信用低下の可能性は、どのセクターも恐れています。

    日系企業(と他の外資系企業)がこの問題について立場を表明していないのは驚きではありません。意見を表明しても生産的なことは何もないからです。とはいえ、日系の銀行や建設・土木会社は、スコットランドと他のイギリス各地で社会基盤プロジェクトに投資してきました。スコットランド人の心が独立を選ぶとしても、如才ない合理主義で知られるスコットランド人の頭が最後は打ち勝ち、さらにイギリス人の実利主義がEUとの再交渉で頭角を現して、天変地異は回避できることを望んでいるはずです。

    Pernille Rudlinによるこの記事は、2014611日の帝国データバンクニュースに日本語で最初に掲載されまし

    パニラ・ラドリン著「ユーロビジョン: 変わりゆくヨーロッパで日系企業が信頼を構築するには」Kindleペーパーバックはamazon.co.jpでご注文できます。

  • ものづくりとマーケティング

    ものづくりとマーケティング

    日本語の言葉の中には、そのまま英語に訳せないものがあり、同様に英単語にも日本語に置き換えられず、そのままカタカナで表記されることがあります。これは文化の違いから生じるのですが、日本語の「ものづくり」そして英語の「マーケティング」等は文化的な観点からなかなか上手く訳せない言葉の一例ではないでしょうか。

    ただこの二つの言葉は、実は概念的にはどこかでつながっているように思えるのです。このことは先月私が主催したセミナーに参加した幾人かのヨーロッパ人が「フラストレーション」をこめて次のように発言したことからもうかがえます。

    参加者の中にいた、3名のシニア営業職の方々は、それぞれ銀行、電子、セラミックの日系企業で働いているのですが、3名が口を揃えて言うのが、特に競争が激化している環境で、自分達の会社がマーケティングを理解していないのではないかと。

    彼らの会社は、業界営業経験と実績を持った営業社員を採用し、欧州に最初に営業拠点を設けました。ところがこれらの営業社員は会社による営業サポートを充分に受けていないと感じていたのです。「私の銀行ではピッチブックすら無いんですよ。」と参加者の一人はこぼしていました。ピッチブックとは、あらゆる欧州金融機関が金融商品を市場に出すときに使うマーケティング分析資料で、顧客となる相手先のプロファイル、商品の持つ優位性、顧客のニーズの分析情報等が記されています。先述の電子会社の営業社員も「私たちの商品がいかなる点で他社製品より優れているか等を分析した書類を見たことが無いんですよ。」と話をしてくれました。

    ひょっとしたらこれは単にコミュニケーションの問題で、彼らは今後必要に応じて独自のマーケティングツールを開発するのかもしれません。とは言え、ここには直視すべき根本的な問題があるのではないかと思います。今回例に挙げた3社はいずれも日本では業界トップで、誰もが知るほどの有名な会社です。ところが一歩日本の外に出てみれば、その名前は殆ど知られていません。極端な言い方をすれば、日本市場では会社の名前だけで、商品の優位性とか高いサービスを言及しなくても商売はできるのでしょう。つまり、マーケティングという概念そのものが営業とは別ものとして日本の会社に存在していないのかも知れません。

    日本の製造業では「ものづくり=創造の美の追求」の精神が先行するように思えます。つまり、高品質のものを製造することに焦点を絞れば、いずれはその商品が必ず売れるという信念。最近、日本のビジネス評論家が、日本の製造業はマーケティング戦略とは何かを自問すべきとコメントしているのを耳にしました。つまり、何故他でなくこの製品であるべきなのか。どうやって自社製品の差別化を図り、優位性を持たせるのか?又、その製品を一体作り続ける意味があるのだろうか?もしこれら全てに明確な答えを出した上で、ヨーロッパのお客様のニーズが求めているものを掘り下げることが出来れば、ヨーロッパ人の営業社員は自信を持ってさらに営業成績を上げる事ができるようになるのではないでしょうか。

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  • 高齢化する労働力への対応

    高齢化する労働力への対応

    昨年12月、1年半ぶりに日本へ行ってきました。通常は年に1度は日本へ行き、微妙な変化を観察するようにしています。日本に住んでいた期間を含め、過去40年にわってこのような観察を続けてきました。

    今回は、日本が少し「元気さ」を取り戻しているように感じられました。2011年と2012年に訪れた時は、全体として陰うつなムードが漂っているように見えたものです。しかし同時に、東京が「スロー」になったようにも感じられました。高齢者の割合が高まっているのは見た目にも明らかでしたが、若者も歩き方が遅くなっていました。スマートフォンを見ながら歩いていることも一因だったかもしれません。

    日本の「やさしさ」や文化的な豊かさは、年を取る場所として理想的な国を作り上げています。もちろん、今の高齢者が幸運な時代の高齢者であることは事実です。年金をそこそこもらえて、健康でもあり、長生きを楽しめるからです。

    一方、私の世代は、日本だけでなくヨーロッパの多くの国でも、70歳まで引退できないのではないかという見通しに直面しています。少なくともあと20年は働くことになるのです。今やヨーロッパでは、年齢を理由に従業員を差別することは違法です。このため、65歳で自動的に定年退職になるという制度は、イギリスでは廃止されつつあります。

    現在50代に差しかかりつつあるヨーロッパの世代は、前の世代のように引退する余裕を持てないでしょう。でも、会社に勤め続ければ、若い世代の行く手を阻んでいるような罪悪感を感じさせられるうえ、リストラの対象になる可能性も多々あります。50歳を過ぎた社員にとって、転職先を見つけるのは容易ではありません。それに、意欲の問題もあります。これから先20年にわたって同じ仕事をし続けるという展望は、特にプレッシャーのきつい、いわゆる現場タイプの職種では魅力的とは言えません。仕事人としての人生の後半は、習得したノウハウや知識について熟考し、次の世代に引き継いでいくことが中心になるべきです。

    日本で1990年代から使われてきたやり方、例えば肩たたきや窓際族などの処遇が、この状況に真に対応できていたとは思えません。こうした処遇は、受ける本人にとって苛酷なだけでなく、その反応としてリスクを嫌うようになった若い世代にとっても、好ましいやり方ではありません。若い世代は終身雇用を望んでいますが、野心的な目標を追求したり、外国で働くなどのリスクを取ったりすることには、あまり意義を感じていません。

    むしろ好ましいやり方は、仕事人生の後半に突入した従業員が、蓄積したノウハウやスキルを集大成としてまとめあげ、管理職としてではなく教育や研修の機会を通じて日本の若い世代に伝えていく方法を見つけられるよう、サポートすることではないでしょうか。海外で買収した企業の現地採用社員や現地採用管理職も、日本の本社との強力なつながりを感じさせてくれるメンターを付けてもらい、会社の文化や業務手順の理解を導いてもらえるのであれば、歓迎するはずです。先輩・後輩の人間関係や見習い制度といった伝統を21世紀に応用することができれば、日本は、人にやさしく、かつ生産性の高い高齢化社会を創造するパイオニアになれると、私は考えています。
    パニラ・ラドリン著 Teikoku Databank News 2014年1月15日号より

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  • オフィスの場所

    オフィスの場所

    8月、ヨーロッパではほとんどの人が2週間から4週間の夏休みを取ります。そこでビジネスが少し静かになるこの時期を利用して、私はオフィスを移転することにしました。といっても、今までのホームオフィスを、自宅の庭の反対側にある建物に移しただけのことですが。この引っ越しは、初めての社員を雇うための準備です。現在オフィスとして使っている自宅内の一室は、2人でシェアするには狭すぎるためです。

    このようなオフィスの形態は、日本では珍しいかもしれませんが、イギリスでは最近とみに増えています。イギリスの中小企業の約半数以上(250万社)が、オーナーの自宅で営まれているのです。 オフィスの賃貸料がかからないことはもちろん、もろもろの付帯経費を節約できるメリットがあります。人事の観点からも、スタッフが社員ではなく全員フリーランスとして自宅で仕事をしていれば、はるかに管理が容易で安上がりです。とはいえ私は、右腕になってくれるスタッフが物理的に同じ部屋にいない状態でどこまで事業を成長させられるかという点で、本当に限界に達したという気がしています。

    イギリスに進出する日本企業のほとんどは、バーチャルではなく物理的な事業拠点の開設を望んでいます。ロケーションとしては、製造業であれば、顧客の工場や物流センターの近くかどうかが重要な検討要因となります。イギリスのサービス業であれば、ロンドンへの至便なアクセスがとりわけ重要です。ロンドンには多くの顧客がいるうえ、人脈作りの機会やサポート組織なども多数あるためです。

    ロンドン中心部はオフィスの賃貸料がとても高いため、プレステージの高い住所にあることが顧客や社員から期待されている会社(金融業界はこのパターンに当てはまる典型的な企業と言えるでしょう)でもないかぎり、ロンドン郊外かロンドン南東部を取り囲む様々な町に拠点を置くのがおそらく得策でしょう。

    幸いなことに、私はすでに南東部に住んでいて、私の町にはユニリーバやエクソンをはじめ多国籍企業が数社存在しています。この辺りの町にはサービス付きのオフィスもあり、使用料は1人につき月200ポンド前後からです。この使用料には、光熱費、家具、受付など、ほとんどの経費が含まれています。

    ただし、こうしたオフィスはほとんどがオープンなフロアプランの共有スペースになっていて、産業パークの中にあります。私は、自分自身の生産性にとって良い雰囲気ではないと感じたこと、それに社員になってくれる人にとってもあまり魅力的ではないように思えたことから、この選択肢は選びませんでした。

    実際、オフィスの様子やロケーションに対して社員が魅力を感じるか、幻滅するかは、オフィス選びの際のもうひとつの重要な要素です。産業パークは多くの場合、お店やレストランから遠い場所にあって、通勤に車が必要です。イギリス南東部で働く人の多くは電車か車で1時間以上かけてこれらの産業パークに通勤していますが、人気企業はほとんどが、隔離された立地の短所を補うため、レストランやジムなどのすばらしい設備を提供しています。

    私の会社では、庭の反対側のオフィスでジムやレストランを提供することはできませんが、せめて本格的なコーヒーメーカーぐらいは用意しようと思っています!

    (帝国ニューズ・2013年9月11日・パニラ・ラドリン著)

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  • マーガレット・サッチャーが遺したもの

    マーガレット・サッチャーが遺したもの

    マーガレット・サッチャーの死がイギリス人の間でなぜあんなにも強烈な憤怒と称賛の感情を巻き起こしたかは、日本の人には理解しにくいかもしれません。首相の地位を退いてからもう23年になるというのにです。

    私の世代(1960年代生まれ)は彼女の政権下で育ったため、「サッチャーズ・チルドレン」と呼ばれることがあります。1971年、当時教育相だったサッチャー氏が、711歳の児童に無償で支給されていた学校の牛乳を廃止したことを、私の世代はよく覚えています。私も含めて多くの子供が、学校の牛乳は大嫌いでした。毎日午前中の休み時間に支給されていたのですが、飲む頃までには生温かくなっていて、匂いがしたからです。

    私は7歳までには日本に引っ越していましたが、牛乳から逃れられたわけではありませんでした。日本の学校でも牛乳が出たからです。しかも、日本の牛乳は低温殺菌牛乳ではなくホモ牛乳だったため、私にはなおさら嫌な味でした。

    当時、日本のような異国へ引っ越すなんてとんでもないと言う人はたくさんいました。でも、1972年のイギリスも、決して住み心地の良い場所とは思えませんでした。炭鉱労働者や港湾労働者のストが相次ぎ、非常事態宣言も発せられていたからです。賃金と物価の凍結が発表され、失業者数は1930年代以来初めて100万人を上回っていました。

    日本にも、経済問題はありました。オイルショック時のトイレットペーパーの買い付け騒動は、今も記憶に鮮明です。でも、この危機が日本の自動車製造の技術革新を促したことは、今では周知の事実です。私たちが日本へ発つ直前に、ホンダがイギリスへの輸出を開始していました。そして1977年にイギリスに帰ってきた我が家が買った車は、「ダットサン・サニー120Y」でした。

    私の祖父母は、論外だと思ったようです。祖父母は戦争のことを強烈に覚えていて、私たちが日本に引っ越すことにも反対でした。なぜイギリス製の車を買わないかが理解できなかったのです。彼らが乗っていた「トライアンフ・ドロマイト」のメーカー、ブリティッシュ・レイランドは、相次ぐストで打撃を受けていました。

    サッチャー氏は大変な愛国主義者でしたが、一方で、勤勉を重んじる自分の価値観を共有する外国投資家に対しては、大きく門戸を開放しました。私たちの世代は、炭鉱の町を破壊し、教育予算を削減し、戦争を挑発したサッチャー氏の批判に明け暮れましたが、その間にも彼女の政権は、日産の初の工場開設を奨励しました。この工場が造られたサンダーランドは、炭鉱と造船所が閉鎖された後、絶望的なまでに新規雇用を必要としていました。

    それから30年、今では車を大量生産するイギリス資本企業はなくなりましたが、それでもイギリスでは昨年150万台近い車が生産されて1970年の200万台の記録に近付きつつあり、その86%は輸出されています。ただし、自動車業界の直接雇用はわずか195,000件しかなく、1970年の85万件を大きく下回っています。イングランド北部は今も失業率が高く、不況地帯です。これこそが、サッチャー氏の遺産に対する感情の深さを説明しています。彼女の政策は、ビジネスの観点からは正しい政策でしたが、人的コストの問題を未解決のまま置き去りにしたのです。

    パニラ・ラドリン著 Teikoku Databank News 2013年8月14日号より
    パニラ・ラドリン著 Teikoku Databank News 2013年8月14日号より

    パニラ・ラドリン著 Teikoku Databank News 2013年5月14日号より

    パニラ・ラドリン著「ユーロビジョン: 変わりゆくヨーロッパで日系企業が信頼を構築するには」Kindleペーパーバックはamazon.co.jpでご注文できます。

    ニラ・ラドリン著 Teikoku Databank News 2013年8月14日号より
    パニラ・ラドリン著 Teikoku Databank News 2013年8月14日号より
    パニラ・ラドリン著 Teikoku Databank News 2013年8月14日号より
  • 女性管理職が増えれば日本企業のグローバル化に役立つか

    女性管理職が増えれば日本企業のグローバル化に役立つか

    数年前、非営利団体J-Win(ジャパン・ウィメンズ・イノベーティブ・ネットワーク)の一行がイギリスを訪れた際の夕食会に招かれて参加してきました。イギリスに1週間滞在して、ブリティッシュ・テレコムや保険大手のエーオンなど様々なイギリス企業を訪問し、グローバル・リーダーシップと多様性を学ぶのが目的のツアーでしたが、一行のうち多くの日本人女性(70人)が会社から支援されて来ていたことには感心しました。この夕食会で、女性管理職が増えれば日本企業のグローバル化に役立つかどうかという質問が上がりましたが、時間不足で十分な議論が交わせませんでした。

    この質問に対する私の見解は、「イエス」です。女性管理職(日本人)が増えれば、日本企業のグローバル化に役立ちます。その理由は2つあります。第一に、本社の管理職ポストに女性が増えれば、日本企業や日本の企業文化が西側の企業から「異質」と見られることが少なくなります。そして第二に、より多様性のある日本人の労働力を取り込むために日本企業が実践しなければならない調整によって、「非日本人」の多様なグループもより包含されるようになるためです。調整が必要な部分として私が提案するのは、残業に対する姿勢と自宅勤務です。

    ヨーロッパのほとんどの企業は、10年前と比べてもはるかに柔軟な働き方を受け入れるようになっていて、そうした新しい働き方は男性にも活用されています。私の知り合いのイギリス人男性のある管理職は、最低週3日の自宅勤務をして子供の学校の送り迎えをしています。グローバルな職種のシニアレベルの管理職の多くは、電話、ウェブ会議、メールなどを使って世界各地のチームを管理していますが、このように時間や場所を問わない仕事のあり方も、このトレンドに一役買っています。

    多くの日本企業が管理職に占める女性の割合の目標値を発表していますが、ノルウェーなどヨーロッパの一部の国では、これをさらに進めて、上場企業に対して一定人数の女性取締役を義務付ける規制を導入しています。ただし、この種のノルマに対しては、多くの企業が抵抗感を示しています。実力ではなく性別のみを理由として女性が昇進していると見られるようになれば、女性をさらに孤立させるだけだという恐れがあるためです。

    そこで多くのヨーロッパ企業は、女性管理職の割合を義務付ける代わりにメンター制度を導入して、男性と女性の間の人脈作りや女性の昇進を奨励しています。これは、日本企業にとってもメリットのあるアプローチだと思います。既存の「先輩・後輩」の関係を活かしながら、女性だけでなく外国人の社員にも恩恵をもたらせるからです。西洋文化におけるメンタリングとは、メンティー(被育成者)のキャリア開発に特化する傾向があります。でも、私自身は、より広範にわたる先輩・後輩関係のほうが好ましいと思っています。インフォーマルな関係を通じて会社内でお互いの人脈にアクセスし、メンティーが「ファミリーの一員」になったように感じられるためです。

    J-Winの女性2人とメンタリングについて話す機会がありましたが、外資系企業から参加していた1人は、アメリカ人男性にメンターになってもらうほうが、日本人男性にメンターになってもらうよりも、はるかに効果的だと感じていました。アメリカ人のメンターは、日本の女性の役割や行動について先入観がまったくないためだそうです。外国人の社員も、日本の企業文化を内側から説明してくれるメンターがいれば、同じように恩恵を受けられるのではないかと思います。

    パニラ・ラドリン著 Teikoku Databank News 2014年1月15日号より

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  • 日本にもオペア?

    日本にもオペア?

    秋はヨーロッパ全域で新学年が始まる季節です。親にとっては、子供のための新しい洋服や文具、スポーツ用品などをすべて買い揃え、名札を付けるのに忙しい季節。同時に仕事のほうでも、長い夏休みから目覚めた顧客への対応で突如として忙しくなるのが、この季節です。

    我が家では、7人目のオペアを迎え入れました。「オペア」の語源はフランス語で、外国から来て通常はホストファミリーの家に滞在し、育児や家事を手伝ってくれるお手伝いさんのことです。私たちは過去5年間、オペアのお世話になってきました。息子の学校への送り迎え、宿題の手伝い、家の掃除をこなし、いつでもベビーシッター役を務めてくれるなど、オペアがいなければ夫も私も仕事と子育てを両立するのは無理だったことと思います。

    私たちのオペアのほとんどは、ドイツの出身です。EU加盟国の出身者は滞在ビザの問題がなく、違法労働を心配する必要もないため、オペアとして雇う際に最も簡単です。私たちはイギリスにいるので、選べる候補者が多いという点でも恵まれています。ほとんどのオペアは英語を学べる体験を希望しているからです。通常、オペアは18歳前後で、大学入学前に外国に1年間住んで文化を体験し、どの大学に行くか、大学で何を勉強するかを考える時間に使うというのが典型的なパターンです。
    私たち親を助けてくれることはもちろんですが、息子が外国人とのコミュニケーションに慣れ、異なる文化や行動に触れられるという点も、私は気に入っています。

    日本がグローバルな舞台でさらなる役割を担い、特に2020年のオリンピックを視野に入れて前進するにあたり、日本政府がオペアのような制度を考慮することはあるのだろうかと考えさせられます。現実問題として、日本の住宅の多くは、もう1人が住むには狭すぎるかもしれません。でも、私は18歳の時、広島のあるご家庭に住まわせてもらったことがあり、その体験を今でも良い思い出として大切にしています。そのご家庭では、私の部屋を作るために、息子さんと娘さんを同じ部屋に移さなければなりませんでした。2人にとっては決して歓迎できることではありませんでしたが、最終的には外国人が一時的に家族の一員になったことで全員にメリットがあったと感じてくれたと私は思っています。

    そのホストファミリーのお母さんは、時々英語を教える以外には仕事をしていなかったので、私は家事を手伝う必要があまりありませんでした。私がホストファミリーから報酬をもらうのではなく(私たちはオペアに週75ポンドを払っています)、私の両親が私の滞在費をホストファミリーに支払っていました。

    日本がオペア制度を導入すれば、子供と家の面倒を見てくれている人がいることに安心して、日本のお母さんが再就職のことをもっと現実的に考えられるようになるというメリットもあるのではないかと思います。これにより、子育て支援を拡大して女性の雇用を促進するという、政府のもうひとつの目標も推進できることでしょう。

  • 日本の文化とトルコの文化は似てる?

    日本の文化とトルコの文化は似てる?

    日 本研究協会の毎年恒例の会議が今年はイスタンブールで開かれるというのを口実に、この7月、初めてトルコを訪れてきました。トルコ訪問は、前々から実現し たいと思っていたことのひとつでした。イスタンブールは文字どおり西と東が交わる場所であり、ヨーロッパとアジアの境目に位置しているという地理的な魅力 もさることながら、私がコンサルティングを提供している日本企業の多くが、最近トルコに事業を拡大しつつあったためです。日本とトルコの二国間貿易は、 2012年に前年比25%増となり過去最高の46億ドルに達しました。2013年時点でトルコに事業所を開いている日本企業は120社に上っています。会議開幕の前日には、トヨタがトルコ工場で新型カローラの生産を開始しました。その晩、私は、ビジネススクール時代の同級生で、今はトルコのプライベート エクイティ会社の社長として成功しているトルコ人の友人と夕食を共にしました。この友人は、トヨタの事業展開のこともよく知っていて、また日本の企業連合 がトルコに原子力発電所を建設すると発表したことに対し、いささかの懸念を抱いていました。

    日本企業が、トルコのみならずヨーロッパの他の場所でこの種のインフラ開発プロジェクトを積極化させるのであれば、提携パートナーや地元政府との良好な関 係が不可欠です。私が最近ロンドンで目にしたかぎりでは、駐英トルコ大使と日本のビジネス界の人々の関係は今のところ友好的なように見えました。ただし、 2020年のオリンピック招致をめぐってライバル意識はあったかもしれません。

    日本人との仕事経験があるトルコ人数人に話を聞いてみましたが、日本人とトルコ人は上手にコミュニケーションが取れているとのことでした。問題がないということは、私のビジネスにとっては商機があまりがないことを意味するのかもしれませんが、何はともあれ朗報です。

    トルコ語と日本語には似た部分があり、同系性を論じる説もあります。どちらも「WYSIWYG(What You See Is What You Get)」の言語、つまり書かれた文字のとおりに読むことができる言語で、各音節が明確に発音されます。英語のように、単語のスペルに発音しない文字が含 まれていたり、スペルを見ただけでは正しい発音が分からなかったりすることがありません。トルコ語は、文法的にも日本語に似ています。動詞が文末に来るこ と、かなりの度合いで曖昧さが許されること、そして主語を省略したりぼやかしたりすることなどです。

    また、トルコの人々は、教室で行われるフォーマルな研修よりも、「見習い」式の学習方法に馴染みがあり、日本人の言う「身につける」学習スタイルに似てい ることも分かりました。これらの特徴は、製造業の環境ではポジティブな要因として作用するでしょう。けれども、対等な立場の二者間で経営にかかわるコミュ ニケーションが必要になる状況、例えばインフラ開発プロジェクトの提携パートナー間などの状況では、コミュニケーション・スタイルや意思決定スタイルの違 いがより明らかになる可能性があるのではないかと思えるのです。ということは、トルコにも、やはり私のビジネスの商機があるかもしれません!

    パニラ・ラドリン著 Teikoku Databank News 2013年8月14日号より

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  • イギリスが「ノルウェーのように」なろうとすれば、日本企業が離れる恐れも

    イギリスが「ノルウェーのように」なろうとすれば、日本企業が離れる恐れも

    2016年、イギリスではEUを離脱するかどうかの国民投票が行われる可能性があります。在英日本商工会議所で講演したセンター・フォー・ヨーロピアン・リフォームのチャールズ・グラント氏の発言で、この国民投票の結果としてイギリスがEUを離脱すると予想しています。

    イギリスのEU残留派は、EU離脱派ほど資金繰りが潤沢ではありません。また、あらゆる政治的説得力を駆使してくるEU懐疑派の政治家もたくさんいます。イギリスのメディアもほとんどは、EU離脱を支持する色眼鏡をかけた報道を繰り返しています。
    EUがイギリスに残留すべきとする理論は、外国直接投資や経済への影響など、おおむね技術的な視点に立っています。一方、EU離脱派のキャンペーンは、国家としての独立を脅かすといった感情的なアピールをすることができます。

    イギリスの実業界の人々は全般的にEU残留を支持していますが、情熱に欠けるという点では、私もグラント氏と同意見です。また、イギリスがEUを離脱した場合の成り行きついて、ある種の自己満足があるようにも見受けられます。イギリスの企業は、イギリスはノルウェーのようになることができると思っています。何らかの自由貿易圏に属しながら独立を保ち、国としては繁栄できるという考え方です。しかし現実には、ノルウェーは、傍から見るほどEUの政策と無縁ではありません。にもかかわらず、EUの政策策定のプロセスに対して影響力は持たないのです。

    私の日本関係のビジネスという視点から言えば、「ノルウェーのように」というのは、イギリスに大変な悪影響を招くと思われます。過去10年間に、70社ほどの私のクライアントにもゆっくりと統廃合の流れが及んできました。そうしたなかイギリスは欧州本社をコーディネートする重要な役割を果たしていて、企業はEU加盟国の人材プールを大いに活用していますが、これはイギリスから、あるいはイギリスへの人の動きを容易にするEUの自由移動政策のおかげです。こうした人材は、日系企業の欧州本社の社員として、あるいはそれらに対して法務、財務、コンサルティングなどのサービスを提供する専門サポート会社の立場で働いています。

    日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、ヨーロッパ全域における日系企業の雇用者数は43万7,000人です。群を抜いてその恩恵を受けているのがイギリスで、日系企業に雇われている人数は14万人。ドイツの5万9,000人と比べてもいかに多いかが分かります。

    とはいえ、ドイツも日系多国籍企業にとって魅力的な土地です。特にエンジニアリング系の企業にはそれが当てはまります。イギリスが国境を閉ざし、EUへの影響力を放棄したならば、日系企業が欧州本社機能をミュンヘンかデュッセルドルフ又はアムステルダムに移し始めることは簡単に想像できます。

    私が話した在英の日本人ビジネス関係者は皆、イギリスにEUに残留してほしいと思っています。しかし、内政干渉のように見られるという恐れから、その立場を声高に言うのは避けているようです。

    EU残留のメリットを説得する責任は、私を含め、会社の事業がEU全体にわたっているイギリス人のビジネス関係者の肩にかかってくるでしょう。これは雇用だけでなく、グローバルな舞台におけるイギリスのイメージにもかかわることです。「リトル・イングランダー」風の孤立主義によって、そのイメージにどれだけダメージが及ぶかを考えなければなりません。グローバル経済で役割を果たし、影響力を及ぼし、イニシアチブを取って率いていくことに消極的と思われれば、グローバルな企業のほうからイギリスに留まることなど願い下げだと言ってくるでしょう。

    Pernille Rudlinによるこの記事は、2013916日の日経ウイークリーに最初に掲載されました。

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  • 日本で会社のノートパソコンを紛失するとどうなるか

    日本で会社のノートパソコンを紛失するとどうなるか

    会社から支給されたノートパソコンを紛失することは、日本では大問題です。私が知っているある会社では、事の深刻さ(どのようにして起こったか、どのよう なデータが保存されていたか)によって、減給から降格までの処罰が科されます。その社員の上司も、同様の処罰対象となる可能性があります。さらに、その社 員と上司は両方とも、人事部が全社員に配布する通達書で名指しされ、不面目をあからさまに指摘されるのです。

    この会社のイギリス子会社のITサポートチームは、多少冗談交じりではありますが、このポリシーを承認しています。時おりの事故や過失は同情に値する一方 で、会社のノートパソコンを社員がいかにぞんざいに扱い、不潔な状態で使っているかを見ると唖然とさせられるというのです。ある社員は、居酒屋で会社の ノートパソコンを3回もなくしたそうです。

    このイギリス事業部門では処罰は導入しておらず、強いて言えば社会人としてのプライドが傷付き、不便を味わうことぐらいです。ノートパソコンには厳重な暗 号化技術が使われていて、紛失が報告されれば、即座にイントラネットからブロックされます。金銭的損失という意味では、ほとんどのノートパソコンがどのみ ちバランスシートですぐに減価償却されています。

    おそらく、日本で厳格なポリシーが採用される理由としては、セキュリティや金銭的損失の懸念よりも評判に傷が付くという恐怖心のほうが大きいのでしょう。 日本では、ノートパソコンをなくしても多くの場合は警察か会社に直接届け出があるからです。その過程で多くの人がその出来事について知ることになり、最悪 の場合はメディアや顧客の耳にも届きます。

    日本では、有名企業の社員というのは家族の一員のようなものです。社員が公に不品行を働けば、一族全体が子供を正しくしつけなかったとして面目を失いま す。兄や姉(直属の上司)は、弟や妹をきちんと監視しなかったことでとがめられます。象徴的なおしおきは2、3週間のお小遣いをなしにされることですが、 真の懲罰は、一族の中での評判に対するダメージです。注意の散漫なヤツ、あるいは馬鹿なヤツが一族に不名誉を与えたと見なされるのです。

    前出のイギリス子会社のIT担当者と私で、「自分のPC」を会社で使うトレンドが社員のノートパソコンの扱い方にどう影響するかを考えてみました。自分でお金を出して買ったコンピュータやタブレット、携帯電話であれば、もっと注意深く扱うかもしれません。

    でも、私の見るかぎり、日本の大手企業は自宅勤務のようなフレキシブルな働き方に消極的です。「自分のPC」のトレンドも、決して歓迎はしないのではない かと思われます。ベストのセキュリティと暗号化技術があるとしても、顧客の機密データが保存されていたかもしれないノートパソコンを社員が紛失して評判に 傷が付くというのは、あまりにもリスクが大きすぎます。

    家族の喩えを再び用いるならば、息子が自分のお小遣いで買ったサッカーボールがご近所の窓に当たれば、たとえ窓が壊れなかったとしても、そのお宅からやはり苦情が出るからです。

    パニラ・ラドリン  日経ウイークリー 2013年3月4日より