投稿者: Pernille Rudlin

  • ブランド名が知られていても、ヨーロッパで日系企業のことはよく知られていないケース

    ブランド名が知られていても、ヨーロッパで日系企業のことはよく知られていないケース

    イギリスの「ミツビシ・コーポレーション」で求人があるという話を聞いた時、私は最初、自動車メーカーだと勘違いしました。日本で育って日本の大学に1年通ったのですから、ミツビシ・コーポレーションは三菱商事であって、ミツビシ・モーターズが三菱自動車であることぐらい、知っているべきだったにもかかわらずです。

    ロンドンの三菱商事に就職して2年ほど、イギリス製の陶器や靴の日本への輸出に携わった後、私は東京の建材営業チームに転勤になりました。日本で会社が用意してくれたアパートは、家具がいっさい付いていませんでした。日本ではごく当たり前のことです。そこで私は、デパートのマルイで必要なものを買うことにしました。マルイならクレジットカードを作れると聞いたためです。必要なベッドやソファ、冷蔵庫を買い揃えるほどの貯金は私にはありませんでした。

    クレジットカードの申し込みカウンターに近付いていくと、店員さんの顔にパニックの表情が走りました。若い外国人の女性は、良い信用リスクとは思われていないためです。私は日本語が話せるから大丈夫だと説明しましたが、なおも彼は、申込書を記入するのに十分な読み書きができるかどうかを心配している様子でした。

    ところが、会社の住所を見ようとして私が名刺を取り出すと、そこに印刷されていた3つの菱形のロゴを見るなり、店員さんの表情がパッと明るくなりました。「三菱商事にお勤めなんですね! 上司の方にお電話して、お勤めの状況を確認させていただいてもよろしいでしょうか」。その電話から戻ってきた店員さんは、満面の笑みを浮かべて、テレビ2台と高級な冷蔵庫を売り込もうとしました。

    三菱に勤めている間に、もう一度、三菱の名前が魔法を働いたことがありました。ある時、私は、うかつにもパスポートを持たずにロンドンからフランクフルトへ行ってしまったのです。ドイツの国境警察は、決して温かくは迎えてくれませんでした。免許証やクレジットカードなど、身分証明書になりそうな物をいっさい持っていなかったのですから、当然と言えば当然です。でも私は、会社のセキュリティパスを持っていることを思い出しました。

    またしても、その場のムードはガラリと変わりました。警察官の一人が冗談すら言うほどでした。「ショウグンをくれたら、通してあげますよ」。当時、三菱のSUV「パジェロ」はヨーロッパで「ショウグン」と呼ばれていました。

    三菱自動車と三菱商事は別の会社だなどと説明している場合でないことは明らかでした。わずか数年前に私自身が勘違いして面接に行ってしまったほどなのですから、無理もありません。今考えてみると、三菱のブランドが何を意味するかをよく知らないドイツの警察官にすら、たちまち信頼感を呼び起こしたこの一件は、きわめて興味深い経験でした。

    これは20年前の出来事ですが、今でも日本企業がヨーロッパで人材採用する際に、この矛盾が存在していることは否定できないのではないでしょうか。日本企業は一般に好意的に受け止められていますが、何をしている会社かはよく知られておらず、それゆえに、日本企業の社員になることがキャリアの選択として良いことかどうかについて、疑念を抱く人がたくさんいます。

    最近になって、ヨーロッパで事業展開している大手日本企業が単に製品の広告ではなく全般的なコーポレート・コミュニケーションに力を入れるようになっているのは、決して驚きではありません。優秀な人材を引き付けるための努力と考えることができます。

    パニラ・ラドリン著 The Nikkei Weekly 2013年6月10日号より

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  • 買収した外国企業を「下宿人」ではなく「婿養子」として扱ってみては?

    買収した外国企業を「下宿人」ではなく「婿養子」として扱ってみては?

    今年第1四半期、日本企業による外国企業の買収件数が前年同期比33%減となりました。円安の影響を受けた一時的な落ち込みだと、私は考えています。とは いえ、最近発表された企業再編を見ていると、外国企業の大型買収を成功させられなかったと見なされた上級幹部が引責辞職を求められている様子がうかがえま す。このことから、必ずしも円安だけではなく、「一度痛い目にあって二度目は臆病になる」の心理が作用している可能性もあります。

    日経新聞が大手日本企業148社を対象に行った今四半期の調査では、買収意欲が依然として高い状況が報告されました。回答した企業幹部の42.6%は、国内と国外の両方で買収をしたいと答え、国外では北米とヨーロッパの企業が好まれていました。

    日本企業が外国企業の買収を成功させるために1つ気を付けるべき点があるとすれば、日本企業は伝統的な日本の家族のように行動し、買収・統合のプロセスに も家族のように順応するという事実を自覚することでしょう。例えば、日本の家族制度には今でも婿養子という縁組のあり方があり、夫が妻の姓を名乗り、妻の 親の相続人となることがあります。特に家業がある場合に、このような養子縁組が選ばれます。

    ただし、日本企業は、買収した外国企業に対して「婿養子」モデルを適用することには消極的です。時には買収は、結婚のようでもあります。外国の大手企業の 株式を保有する長い求愛期間を経て、数年後にようやく完全買収に踏み切るというパターンです。そして、やはり結婚と同様に、このアプローチには両側の努力 とコミットメントが求められます。様々な努力を講じて、新しい価値感と習慣を持った新しい家族を作っていく必要があります。

    日本企業による外国企業の買収で比較的よくあるのは、買収した企業を家族の一員としてではなく、下宿人のように処遇するモデルのように見受けられます。下 宿人が品行方正に暮らしていて、深夜に大音量で音楽をかけたり家賃を滞納したりしないかぎりは、自由気ままに暮らすことができます。

    北米やヨーロッパの企業は、当初はこのアプローチを歓迎するかもしれません。今までどおりの事業運営が許され、あまり干渉もなく、十分に自治が認められる からです。けれども、下宿人と同様に、いずれは家族の団らんから阻害されていると感じ始め、別の良い下宿先を探すべきだろうかと考えるようになります。あ るいは、金銭問題に直面して家賃を払わなくなり、日本の大家が厳しく処遇する可能性もあります。

    北米やヨーロッパの企業が他の企業を買収する際、文化的な側面に少なくとも最低限の注意は払われますが、主な関心はシステム、組織編制、ポリシー、目標数 値の統廃合に置かれます。通常、買収された企業が、新しい親会社にどのように順応しなければならないかを知らないまま放置されることはありません。買収合 意のかなり前に、そのことは明確にされるためです。

    このドライなアプローチを日本企業が好まないのであれば、外国子会社とどのようにして婿養子のような関係、あるいは配偶者のような関係を構築するかについて、はるかに多くの思案をめぐらせる必要があるでしょう。

    パニラ・ラドリン著 The Nikkei Weekly 2013年4月22日号より

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  • 欧州サプライ・チェーンにおける失望と期待

    欧州サプライ・チェーンにおける失望と期待

    馬との関係が深い英国の友人に馬刺しを食べることを話すと、かつて彼らは、あまりの野蛮さから恐怖におののいたものだ。しかし、近年スーパーで販売されているハンバーガーやラザニアなどに入っている牛肉が馬肉混合である事実を知った時、気付かずに食べてしまった嫌悪感よりも、食品の中に何が含まれているかを把握していないことへの恐れの方が遥かに強かった。

    英国人は一般的に馬肉を食べないが、他の欧州諸国の多くでは食品として認識されている。英国人の中流階級者は、ここ十年で、食品の質に高い関心を抱くようになった。料理に関するテレビ番組も多数(日本ほど多くないが)放映され、レストランのクオリティも向上している。問題なのは、サプライ・チェーンが複雑化したことで、食品に含まれる成分(材料)が何で、どこから調達したのかを把握できなくなっている点にある。

    このサプライ・チェーン問題は、オランダからルーマニアまでほぼEU全諸国にまたがっており、食べ物の季節感や質の高さにこだわるフランス人やイタリア人を悩ませている。評論家はこの問題を、低価格指向の低所得者層を問題の根源であると非難、また、スーパー間の熾烈な価格競争が、サプライ・チェーンへのプレッシャーへとつながり、品質管理がおろそかになってしまったとしている。スーパー側は自己防衛の手段として、単に顧客の要望するものを提供しただけだと主張し、サプライヤーを非難。

    低所得者でも、スーパー側は顧客を裏切りたくないのだ。このためスーパーは農場と卸売間の仲介業者を排除したり、肉類の加工を店内で行うなどの手段を講じている。

    日本の自動車メーカーとサプライヤー この流れは、80年代の米国自動車産業に酷似している。米国自動車メーカーは価格競争のため、サプライヤーへ一方的に値下げを強要、結果として品質を妥協した。一方、日本の自動車メーカーは、サプライヤーと相互に協力し手頃な価格で上質な自動車を生産し市場を独占していった。

    欧州市場に参入した際も日本の自動車メーカーは自社サプライ・チェーンを欧州に再現した。地元サプライヤーを日本と同レベルに引き上げ、日本国内と同様の生産体制を築いた。それは彼らが品質がもたらす自社ブランドの重みを認識し、それを顧客への責任と考える企業精神にまで及んでいた。

    とりわけ、品質の問題が発生すると、日本の自動車メーカーは、顧客に向け公に謝罪を行い、製品をリコールする。問題の根本的な原因がサプライヤーの欠陥であっても、サプライヤーの名前を公に出すことはない。ブランドの所有者である各メーカーが、すべての責任を取る。顧客は誰かに責任を押し付けるような言い訳を聞きたくないことを十分理解しているからだ。日本は独自の食品汚染スキャンダルを経験してきたが、沈静化させてきた。日本企業はサプライ・チェーンをとても上手に管理している。

    頻繁に欧州ブランドを買収している小売・食品や、グローバル化を目指して躍進する次世代の日本企業が、信頼のおけるサプライ・チェーンを欧州に築けるか、いまここで試されている。牛肉問題で消費者が商品購入に慎重になっている欧州市場において、それは同時に期待でもある。

    パニラ・ラドリン著

    日刊帝国ニューズ2013年3月13日より

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  • アイ・コンタクト

    アイ・コンタクト

    異文化間の壁は日本と英国だけで起きるのではなく、英国とフランスとか、質は違いますが必ず出てまいります。最近の出来事を一例としてご紹介しましょう。

    日本でも「目は心の窓」とか「目は口ほどにものを言う」といった表現がありますが、このような言い方からしても、はある種のコミュニケーションの方法として大切な役割を担っています。

    しかしながら、日本では人と人との会話の中でのアイコンタクトが少ないような気がします。英国でも同様の表現があり、たとえ「Eyes are windows to the soul」 とか「Your eyes give you away.」の様に、アイコンタクトをコミュニケーションの大切な手段と捉えています。それゆえ、英国では皆さんご存知のように、会話をしているときのアイコンタクトを大切にしているというか、むしろごく自然にしています。

    つづきを読む(PDF)Eye contact

  • ヨーロッパで現地採用の社員と地位

    ヨーロッパで現地採用の社員と地位

    最 近、英系の小規模な会計事務所のパートナーにこんなことを聞いてみました。大手会計事務所で人員削減に遭った会計士の方から、多くの仕事の問合せが来るの ではないですか?と。彼曰く、確かに多くの応募が来るのですが、大手の企業で経験した人の採用にあたっては、より慎重に検討しないと、ということでした。 要は、中小企業では、大企業のようなキャリアパスを提供できないからだそうです。晴れて入社しても、自分の昇進や将来性の可能性が会社に見られないとなる と、フラストレーションとなって退職する羽目になってしまうそうです。

    これを聞いて、在欧州の日系企業によく聞く話だな、と改めて感じました。欧州はアメリカのような大国と違い、多くの国々で成り立っていることから、日本企業はそれぞれの国に1人か2人 の日本人駐在員でオフィス運営する事がビジネス上の最善策と考える傾向があります。必然的に現地採用の社員は小さい組織ゆえ、任される職務も多岐に渡りそ れなりの面白みもあったりするのですが、いざマネジャーへの昇進があっても、このような規模では縦型の組織構成が無いので、実際に監督すべき部下がいな い、という問題が起こります。

    で は一体、日系企業はどのように社員の高い意欲を維持させ、長期的な雇用を今後も期待できるのでしょうか。前述の会計事務所のパートナーによると、答えは充 実した給与と福利厚生、そして充分なスタッフトレーニングとのことでした。但し、これだけでは、上昇志向の強い社員には今ひとつ物足りないかも知れませ ん。在欧州の日系企業には、私の経験上、是非検討いただきたい提案が二つ程あります。

    まず一つには、欧州全土を統括する汎欧州型人事組織をつくることです。 こ れにより、現地スタッフは結果的に一国だけでなく、欧州全体の組織の中で地位を得られるようになります。「欧州営業ダイレクター」などという役割はなかな か付与されにくいとしても、欧州全体会議やトレーニングを行う事により人的ネットワークを作り上げることが出来るのではないでしょうか。社員はブログ、 ウィキ等の電子手段で連絡を密にし、公私共々の情報交換も頻繁になります。こうすることで欧州全体の連帯感を高め、共有する経験の中から自ずと“出来る社員”なども明らかになってくるのです。またもう一つの利点は、欧州全体に点在する同僚達と交流を深め、それぞれの事業にも通じてくることから、いざ異動や、更なる汎欧州的業務なども、より前向きに考えるようになるでしょう。

    更 にもう一つ、社員の動機付けに役立つのは、彼らの専門分野における社会的地位の向上に役立つ機会を付与することです。これは日本企業の管理側にとっては、 それは大丈夫、と思われるかもしれません。一般的に日本人は、自分の会社が有名で、広く認知されている=自分達のステータスは充分に確立、と考える傾向が あります。ところが、日本でそうであっても、一歩国外に出れば、知られていない会社なのだという事実にも目を向ける必要があるでしょう。私がここで申し上 げる「士気を維持する為の機会の提供」とは、専門家協会への加入の奨励、資格試験、産業会議でのスピーチや専門雑誌への投稿を積極的に奨めるなとが例とし て挙げられると思います。

    こうして日系企業が現地採用社員の社内外の認知向上のサポート体制を提供し、社員がその産業会での専門性を高めることに積極的になれば、社員も必然的に士気の高い優秀な社員に継続して働いてもらえると思うのです。

    この記事はパニラ・ラドリン著「ユーロビジョン: 変わりゆくヨーロッパで日系企業が信頼を構築するには」に出てます。Kindle版ペーパーバックはamazon.co.jpでご注文できます。

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  • 辞めていく社員を「卒業生」と考えること ― 門戸を閉ざさず「出戻り」も歓迎

    辞めていく社員を「卒業生」と考えること ― 門戸を閉ざさず「出戻り」も歓迎

    最 近、ビジネススクールの卒業15周年を記念した「反逆者」の同窓会に参加してきました。なぜ反逆者の同窓会などと銘打たれていたかというと、1997年の アジア通貨危機、2001年のドットコム・バブル、2008年のリーマン・ショックを経験した私たちは、とても倹約家で慎ましやかなグループだからです (億万長者になった人が1人か2人はいるという話もありましたが)。数千ドルもお金を出してどこかへ旅行したり、ホテルを予約したり、キャンパスでの公式 の同窓会に出席するための寄付を募ったりすることはしませんでした。その代わり、有志数人がロンドンのクラブで比較的お金をかけないパーティーを企画した のです。

    90人ほどの同窓生が反逆者の同窓会には出席しましたが、そのうち15年前の当時の勤め先に今も勤めている人は10%に満たないと見受けられました。当 時、私をはじめ多くの人が、会社からの支援を受けてMBA課程に来ていて、なかには卒業後2年以上は会社に勤続するといった条件を付けられている人もいま した。それが15年後に会ってみると、自分の会社を起こした人、競合他社に転職した人、なかには完全に職業を変えてしまった人もいるという状況でした。

    私のように日本企業からの支援を得てビジネススクールに来ていた学生は、ごくわずかでした。残念ながら私は、日本企業の制度でビジネススクールに行かせて もらったものの、職場復帰後に会社が自分の活用方法を理解していないと感じて失望し、結局は辞めてしまった大多数の仲間入りをしました。

    同様の不満は、MBA候補生とほぼ同じ年頃の時に勤めていた日本企業から海外転勤になったことのある若い日本人の人々からも、最近耳にしました。海外赴任 中に多くのことを学び、体験し、多少の自由と責任も謳歌したものの、日本に帰国してみれば、以前と同じ国内向きの下っ端レベルの仕事に戻されたという体験 談です。海外で身につけてきた見識やスキルには、ほとんど興味を示してもらえなかったというのです。ある会社から聞いたところによると、海外経験をした若 手の80%前後は、日本の本社に戻って2、3年以内に辞めていくそうです。

    日本企業は、この状況を欧米企業のように楽観視することができません。欧米では、このコストをある意味、業界に支払う会費のようなものだと考えています。 つまり、将来の業界幹部を育てるための能力開発投資であって、その人材からいつか自社が恩恵を受けることもあると考えるのです。MBA卒業生のなかには ずっと勤続し続ける人もいれば、客先に転職して有用な人脈となる人、あるいは他社でさらに経験を積んだ後、より上級レベルの幹部として元の会社に戻る人も います。

    けれども日本企業では、海外経験者のほとんどが、日本にある外資系企業に転職していきます。つまり、そもそも彼らを海外に送り出した最大の理由であるグローバル化の目標が、かえって後退してしまうのです。

    もしかすると日本企業は、外資系企業に転職していく社員を「卒業生」と考える必要があるかもしれません。退職後も連絡を取り合い、決して門戸を閉ざさず、 数年後に彼らが戻りたいと希望した場合は、他の企業文化を経験して戻ってくる彼らを迎えられるようにするのです。それが実現して初めて、日本企業は真に多 様なグローバル企業になることができるでしょう。

    様々に異なる経験を有した人材が上級幹部レベルにいてこそ、性別や国籍、キャリアのバックグラウンドが伝統的なメインストリームとは異なる優秀な人材を、海外経験者の若手も含めて、採用・留保しやすくなるでしょう。

  • Wiggleがどのようにして日本市場を攻略したか

    Wiggleがどのようにして日本市場を攻略したか

    ロンドン・オリンピックでイギリスが自転車競技の金メダル最多獲得国となったのを受けて、数年前からイギリスで始まったサイクリング・ブームは、さらに加熱した感があります。ヘルシーなライフスタイルや環境意識の高まりを反映して、また通勤苦を回避するために、ますます多くの人が、趣味としてまたは通勤手段として、自転車に乗るようになっています。

    日本でも、自転車は人気が高まっています。特に昨年の東日本大震災の後、このローテクな乗り物がいかに信頼性が高いかが注目されるようになりました。

    自転車のアクセサリーを販売するイギリスのオンラインストア、Wiggle は、イギリスと日本で好調な売れ行きを謳歌しています。最近、私は同社のマネージャーの話を聞く機会に恵まれ、同社がこの人気の波に乗れたのは単なる幸運のめぐり合わせではなかったことに気付きました。

    日本の顧客開拓にあたって重要な役割を担っている要因として、Wiggleでは、第一に日本人のカスタマーサービス担当者、第二に世界各地へのすばやい配送、そして第三に低価格を挙げています。これらの要因それぞれが、日本市場への扉を開くカギになったというのです。

    Wiggleでは、日本に相当数の顧客がいると認識した当初、単純にGoogle Translateを使ってウェブサイトの英語を日本語に翻訳しました。その後、日本の顧客がさまざまな連絡をしてくるようになり、そのなかには訂正すべき日本語の個所を指摘するものもあったことから、日本語の話せる人を雇い始める必要があると自覚しました。

    Wiggleは現在、日本語のネイティブスピーカーを5人、社員に抱えています。これらのスタッフは、ウェブサイトの文章を確認するだけでなく、電話とメールで日本の顧客に対応したり、マーケティング・キャンペーンが日本の文化的嗜好に即しているかどうかを確認したりする業務にも従事しています。

    ウェブサイトに正しい日本語を記載することは、重要性が高まっています。以前に比べて日本の消費者は、海外のウェブサイトから商品を注文してPayPalなどの決済手段で支払うことに勇敢になっていますが、その一方で詐欺の被害に遭った人も多数いるためです。その結果、詐欺サイトかどうかを見分けるポイントの1つとして、日本語がおかしいサイトが警告されるようになっています。

    迅速な配送は、もちろん日本国内のサプライヤと競争するうえで欠かせません。ただし、Wiggleでは、国外への製品販売を目指す他社へのアドバイスとして、国外配送を試みる前にイギリス国内の流通を確立することがきわめて重要だと強調しています。Wiggleのケースでは、日本に向けた相当量の販売を始めるよりも前に、国際空港に近い便利なロケーションに高度な倉庫システムを設置していました。

    低価格については、円高の恩恵があるため、一企業の力ではどうにもできない部分があります。とはいえ、日本語を話せるカスタマーサービス担当者と配送網を確立した現在、為替が不利な方向に振れたとしても、それを乗り切るだけの忠誠な顧客がWiggleには付いているように、私には見えます。

    もうひとつ、同社が日本の顧客ベースのロイヤリティを維持するうえで重要なカギを握る点として、日本人のカスタマーサービス担当者のロイヤリティを維持することが挙げられるでしょう。イギリスの会社が、日本の「難しい」顧客に対応するために日本語の話せる社員を雇っておきながら、その社員が顧客対応するのに必要なサポートと権限を与えないでいるというケースを、私はあまりにも多く耳にしてきました。

    配送の遅れや品質の問題を「イギリスでは普通のこと」だと言って日本の顧客に納得してもらおうとするのは、たとえそのメッセージが丁寧かつ完ぺきな日本語で伝えられとしても、決して成功するアプローチではありません。

    The Nikkei Weekly 2012年8月20日号より

  • 先輩と後輩の絆が内部告発の有効性に影響

    先輩と後輩の絆が内部告発の有効性に影響

    日本企業のコーポレート・ガバナンス、特に内部告発に影響する重大な要因として、先輩・後輩の力学があります。先輩・後輩関係は、特に終身雇用を保っている大企業で大きく作用します。

    一般に日本の学生が大卒後すぐに国内大企業に就職すると、入社時点で即座に、自分よりも目上に当たる先輩ができます。先輩・後輩の関係は、とりわけ同じ場所から来た者、あるいは同じ場所に属する者の間で構築されます。

    つまり、同じ大学の出身者や同じ部署に配属された社員同士が、先輩と後輩の関係を持つようになるのです。あるいは、部署が違っていても、共通の知人や親戚、または同じ出身地といったつながりで、先輩・後輩の関係ができることもあります。先輩はたいていの場合、メンターとなりますが、しかしそれ以上によくあるのが、部署や事業部門の派閥に先輩と後輩が一緒に所属するようになることです。

    経営幹部レベルの指名は通常、派閥間の駆け引きや先輩からの後ろ盾に基づいて交渉されます。このため、強力な派閥の後ろ盾があれば、たとえどんなに不適材に見える人物でも、組織から単純に追放したり周辺へと追いやったりするのは非常に困難です。

    忠誠と義務を伴う強い仲間意識が先輩と後輩をつなぎとめ、約30年にわたる雇用期間を通じてしっかりと固められていくのです。

    ですから、会社の不正行為を告発するのはもとより、重大な過ちを指摘することすら、社員にとって難しいことは容易に理解できます。一般に日本や他のアジア文化では、自分のグループに所属する仲間に面目を失わなせるようなことはしません。先輩の顔を潰すなど、ほとんど考えられないのです。そのようなことが実際に起きるとすれば、先輩・後輩関係に取り返しのつかないダメージが及び、あらゆる感情の渦巻く状況が生じることは間違いありません。

    このような世界にあって、経営コンサルティング会社や法律事務所、監査事務所など、外部からアドバイスを提供する専門サービス会社として立ち回るのは容易ではありません。職業人としての自分の行動規範に照らして明らかに修正の必要がある問題を診断したとしても、それを指摘すれば顧客から、社内の微妙な人間関係に波紋を投じることになると警告されるのです。

    私が聞いたある若手監査人の話ですが、顧客企業で長年にわたる会計帳簿の虚偽計上が分かったため監査保証の署名を拒んだところ、あなたが署名しなければ会計監査を今まで担当してきた御社の先輩の顔を潰すことになると言われたそうです。それまでその監査法人の先輩たちは、会計報告の矛盾を承知のうえで物議をかもさず署名してきたのでした。

    主義や原則に反することに立ち向かったり、正しいと信じることを貫いたりすることは、きわめて勇気のいる行動です。自分を支えてくれている人たちを傷付けると知りながらそれをするのは、愚行以外の何ものでもないと言う人もいるでしょう。

    2011年10月31日 パニラ・ラドリン著 Nikkei Weekly

  • オリンパス事件が示したガバナンスの新たな教訓

    オリンパス事件が示したガバナンスの新たな教訓

    オリンパスの粉飾決算事件の初公判が開かれ、菊川剛元社長が損失隠しの起訴内容を認めました。また、ソニーがオリンパス株式の約11%を取得することに合意し、オリンパスの未来は確保されました。これをもって、会社が崩壊して多数の社員が路頭に迷うという、菊川氏本人が恐れた最悪の事態は回避されながらも、正義が下されつつあるように見受けられます。

    オリンパスのマイケル・ウッドフォード前社長が回顧録として記した事件の全容を読むにつけ、私は、何か別の問題解決方法がなかったものかと考えずにはいられません。本に綴られたなかでも決定的な瞬間は、ウッドフォード氏の支持者であった菊川氏が、粉飾の責任を受け入れて辞職するよう事実上迫られていることに気付き、「マイケル、私のことが憎いか?」と尋ねた瞬間です。

    ウッドフォード氏にとって、この問いは、理解を超えるものでした。菊川氏に対する追及は個人的なものではなく、役員として当然の務めと考えていたからです。起きた出来事を透明にし、罪を犯した者の責任を問うことは、立場を任された者の任務の一部でしかなかったのです。

    けれども、菊川氏にとっては、粉飾が会社を救うための窮余の策であり、そこに私利私欲が介在していなかったことは、私にも想像がつきます。菊川氏には、会社の運命に対する役員としての務めと従業員に対する責任を、自分自身の運命と切り離すことができなかったのです。このため、自分の行動に対する攻撃は自分という人間に対する攻撃であって、しかも会社が存続できるかどうかなど気にかけていないかのように見える相手からの攻撃であると思えたのでした。

    この点について、ウッドフォード氏は、オリンパスの存続を誠心誠意、気にかけていることを何よりも明らかにしています。ただし、告発、処罰、贖罪という過程こそが、会社の再生を可能にすると信じていました。アングロサクソン文化圏の資本主義世界で生まれ育った多くのエグゼクティブは、これに似たマインドセットを持っています。すなわち、自分が経営する会社から自分自身を切り離し、客観的に眺めることができるのです。

    しかし、これには短所もあります。他人の築いてきた会社に乗り込んで、大胆な再編を行い、過去につながっている一部の人々を掃討して、自分の「てか」(ほぼ必ずと言っていいほど男性)を地位に就けることで、必要な結果を出そうとする傾向があることです。数字さえ良ければ株主は幸せで、犠牲者は落伍するけれども、どこかまた別の会社で新たなスタートを切れる、という考え方をしがちなのです。

    これは、日本での現実とは異なります。そして、オリンパス事件を単なるコーポレート・ガバナンスの問題ケースとして片付けているだけでは、日本にもコーポレート・ガバナンスの基準があり、それを実践することが可能かつ義務であるという事実を見落としています。しかも、日本の企業環境は、欧米のそれと同じぐらい複雑化しています。残業や多様性についての法規はもちろん、外国人エグゼクティブが無視しては落とし穴にはまり込む「パワー・ハラスメント」を統制する規則も存在しています。

    外国人エグゼクティブが日本で挫折した事例はあまりにも多く散在しています。これを見れば、日本企業はもはや、単に外国人エグゼクティブを指名すれば何やら魔法のように事業がグローバル化すると願うわけにはいかないでしょう。外国人エグゼクティブには、強力なサポートと指導が必要です。日本の役員会の仕組みについてのトレーニングから、日本人従業員の管理経験がある先輩によるコーチングまで、彼らが崩壊を巻き起こさずに好ましい変化をもたらせるようになるための手段が講じられなければなりません。

  • 真のグローバル化を目指す日本企業にはフレキシブルな勤務形態が必要

    真のグローバル化を目指す日本企業にはフレキシブルな勤務形態が必要

    2011年の東日本大震災の後、節電方法としてクリエイティブな提案が多数出されました。金曜日を休みにして土曜日に働くといったアイデアもありました。こうしたアイデアについての記事を読むにつけ、私は、フレキシブルな勤務形態がようやく日本でも普及するのではないかと希望を高めました。フレキシブルな勤務形態は、女性の再雇用を促す方策として長らく議論されてきましたが、必ずしも普及したとは言えません。職場のダイバーシティを高めるための儀礼的な取り組みとして女性だけを対象に導入するのではなく、重要な社会のニーズを感じてこの種の制度を実践的に運用する日本企業がクリティカルマスに達しないかぎり、社会に広く浸透した働き方になることは決してないと、私は常日頃思ってきました。

    自宅勤務ができれば、電力不足の状況にとって明らかにプラスの効果をもたらします。エネルギーを大量に消費する交通機関への負担が減るためです。また、災害に強い社会を作ることにもつながります。仮に日本がまたも大きな震災に見舞われたならば、社員が各所に分散していることで、1カ所のオフィスビルに全員が集まっているという弱さを緩和できます。

    長期的に社会にもたらされる恩恵は、女性の職場復帰を促すという明らかなメリット以外にもあります。同僚や会社に気を遣って長時間オフィスに居残ることを良しとする「プレゼンティーイズム」を規範とする状況が、ついに解消されるかもしれません。日本企業にとって、プレゼンティーイズムの自然消滅を受け入れるのは困難です。残業の背後にある基本的な姿勢として、集団志向があるためです。その結果、自分のその日の仕事をすべて終えるということが、決してできません。チームの誰かを手伝うことは常にできるからです。

    過去10年ほどの間にイギリスの職場で起こった大きな変化のひとつは、私が「グレーゾーン」と呼んでいる働き方です。スマートフォンのおかげで、朝晩の通勤途中に仕事のメールをチェックできるようになりました。また、小型軽量のノートパソコンや会社のサーバーにリモートからログインできる機能によって、仕事を家に持ち帰るのも簡単になりました。日本企業は、こうした働き方がもたらすセキュリティのリスクを案じています。とはいえ、データを1カ所のハードウェアにまとめておくことにもセキュリティのリスクがあることは認識されるようになっています。

    イギリスでフレキシブルな勤務形態が重用されるようになった背景には、タイムゾーンという点で理想的なロケーションにあることが影響しています。朝のうちにアジアから業務を引き継ぎ、午後には北米の同僚にバトンタッチすることができます。朝早くや夜遅くの電話も、自宅からかけられるのであれば、それほど耐え難いものではなくなります。とはいえ、同僚との交流や情報共有という点でバランスを取らなければならないことも認識されています。月曜から金曜までずっと自宅勤務をすれば、業務の効果的な遂行には役立ちません。日本には、北米からアジア経由でヨーロッパへと業務をつなぐ際の溝を埋める橋渡し役になってほしいと思います。ただし、それにはフレキシブルな勤務時間を認める必要があるでしょう。

    この記事はパニラ・ラドリン著「ユーロビジョン: 変わりゆくヨーロッパで日系企業が信頼を構築するには」に出てます。Kindle版ペーパーバックはamazon.co.jpでご注文できます。