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在ヨーロッパの日本人駐在員のマネージャーを対象に、フィードバックとパフォーマンス評価についてトレーニングをしてほしいという依頼が、このところ急増しました。顧客企業の人事担当者と話したところ、日本人マネージャーと部下のチームがうまくいかないことが増えているとのことでした。
ヨーロッパの社員が日本人マネージャーのフィードバックの仕方に不満を抱くというのは、何も新しいことではありません。よくある不満は、フィードバックがまったくない、あるいはネガティブなフィードバックや定量的なフィードバックしかもらえない、といったものです。私は通常、フィードバックという習慣が日本の企業文化には定着していないせいだと説明しています。また、日本の社員はチームで働くのに慣れていて、個人としてパフォーマンスを評価されることはあまりありません。それに、優秀な社員というのは、人から言われなくても自分を向上させられる社員だと思われています。
1990年代に日本で働いていた頃、多くの日本企業が成果主義を導入し始めましたが、あまり成功しなかったことを覚えています。個人を評価することで、日本の職場の強みである協調的な働き方や知識を惜しまず共有する雰囲気に悪影響が及んでしまったのです。
1990年代以降に開発された日本企業の査定制度は、ヨーロッパの制度に比べてはるかに定量的です。マネージャーは、パフォーマンスや目標達成度のみならず、行動や姿勢、能力に対しても数値のスコアを付けます。しかし、ヨーロッパでは通常、行動や姿勢や能力に関しては、「期待を満たした」、「期待を上回った」、「期待を下回った」といった定性的な評価のみをします。
日本の定量的なアプローチは、より客観的で、個人的な感じがしないと言えるでしょう。数値は全社的に分析することができ、解釈の余地や言葉の壁に左右されません。 一方、ヨーロッパでは、対話を促すために定性的な評価を用います。上司が部下に対して期待することを説明したうえで、能力開発の機会について合意し、上司からのサポートやトレーニングのニーズ、今後のキャリアパスなどについて共通の理解を確立しようとします。
教育制度の違い
こうしたアプローチが用いられる背景には、教育制度の影響があります。私の経験では、日本の教育制度は、事実や方法についての知識を調べる試験を中心としていて、多くは選択式の問題です。こうした試験には、明らかな正解と不正解が存在するという前提があります。
ヨーロッパの教育では、クリティカル・シンキング(批判的思考)を重視し、物事の背後にある理由を理解しようとします。試験はたいてい論文で、理系の科目でもそうです。採点に当たっては、事実や方法論が正しいかどうかもさることながら、立論や論拠の質が問われます。
この結果、ヨーロッパの社員は、行動や姿勢や能力のスコアを黙って受け入れたりしません。マネージャーが抱いている期待を最初に明確にしたうえで、コンスタントにフィードバックを提供してくれることを求めているためです。そして、評価を付ける際には、期待に応えたかどうかを論拠を示して説明してほしいと考えます。特にミレニアル世代の社員は、このような指導を期待しています。日本人のマネージャーがフィードバックについてのトレーニングを必要とするのも無理はありません。言葉の問題だけではないのです。
帝国データバンクニューズ 2017年10月11日 より
この記事はパニラ・ラドリン著「ユーロビジョン: 変わりゆくヨーロッパで日系企業が信頼を構築するには」に出てます。Kindle版とペーパーバックはamazon.co.jpでご注文できます。
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