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イギリス政府がEU以外からの移民政策を厳しくしていることで、日系企業のコミュニティはしばらくにわたって影響を受けてきました。来年5月の総選挙に向け、連立政府はイギリスへの移民を数万人単位で削減するという公約をどう果たすのか、その説明を迫られています。政府はEU以外からの移民はコントロールできますが、EU諸国から毎年数十万人とイギリスへ流入してくる移民はコントロールできません。労働力の自由な移動はEUの原則だからです。このため日系企業は駐在員のビザ取得が非常に難しいという状況に陥っています。
EU域内の労働力の自由な移動という原則をないがしろにしようとするのであれば、連立政権は、アンゲラ・メルケル首相が示唆したようにEUを離脱しなければならないかもしれません。EU支持派やイギリス実業界の関係者のほとんどは、EUの改革をさらに押し進め、全欧州にわたる人の移動の原因に対応することを望んでいますが、これは企業と労働の規制のさらなる調和を意味します。一方のEU反対派は、統一的な規制を課すことにはあまねく反対しています。また、フランスやドイツといった国の労働組合は、組合員の雇用保護を脅かしたり国の福利厚生を削減したりする改革には反対するでしょう。
例えば、ロンドンには30万人を超えるフランス人が住んでいると見積もられていて、人口で見れば6位のフランスの都市です。これは若い人たちがフランスでは恒常的な仕事を見つけられず、起業するのも難しいと感じているためだと、通常は説明されています。イギリスのほうがチャンスがたくさんあるのです。
私自身も今年に入ってフランスに事業を拡大したことで、イギリスの制度とは驚くほど異なるフランスの官僚主義と効率化への壁を垣間見ました。例えば、フランス企業に研修コースを販売するには、フランスの登録企業であり、かつ研修提供者として認証を受けた代理人を雇う必要があります。この代理人は、顧客企業にありとあらゆる書類を提出して、顧客企業が国の研修基金から研修税の還付を受けられるようにしなければなりません。このため、私の事業にもかなりの経費と時間が追加されます。
ある日本企業の人から最近聞いた話では、倒産しかかったフランスのソフトウェア会社を買収しようとしたところ、他の企業に買収されるよりもむしろ倒産することを、その会社の社員が選びました。その会社の社員は、倒産すればもちろん失業するのですが、その後も3年間は失業保険で給与の80%を受け取れるうえ、福利厚生もあり、住宅ローンも肩代わりしてもらえるからだそうです。
雇用を創出・維持して能力開発を支援するにはこうした規制や税制が必要だとするフランス流の見方も分からないわけではありません。でも、現実にもたらす効果と言えば、外国企業によるフランスへの大型投資に歯止めをかけることでしかありません。ですから、ビザの状況が厳しくなっているとはいえ、イギリスはなおも企業や個人が好んで選ぶ欧州内の行き先となっているのです。
Pernille Rudlinによるこの記事は、2014年12月10日の帝国データバンクニュースに日本語で最初に掲載されました
2017年の「新たな目でフランスを見る」もご参照になります。
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