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会社から支給されたノートパソコンを紛失することは、日本では大問題です。私が知っているある会社では、事の深刻さ(どのようにして起こったか、どのよう なデータが保存されていたか)によって、減給から降格までの処罰が科されます。その社員の上司も、同様の処罰対象となる可能性があります。さらに、その社 員と上司は両方とも、人事部が全社員に配布する通達書で名指しされ、不面目をあからさまに指摘されるのです。
この会社のイギリス子会社のITサポートチームは、多少冗談交じりではありますが、このポリシーを承認しています。時おりの事故や過失は同情に値する一方 で、会社のノートパソコンを社員がいかにぞんざいに扱い、不潔な状態で使っているかを見ると唖然とさせられるというのです。ある社員は、居酒屋で会社の ノートパソコンを3回もなくしたそうです。
このイギリス事業部門では処罰は導入しておらず、強いて言えば社会人としてのプライドが傷付き、不便を味わうことぐらいです。ノートパソコンには厳重な暗 号化技術が使われていて、紛失が報告されれば、即座にイントラネットからブロックされます。金銭的損失という意味では、ほとんどのノートパソコンがどのみ ちバランスシートですぐに減価償却されています。
おそらく、日本で厳格なポリシーが採用される理由としては、セキュリティや金銭的損失の懸念よりも評判に傷が付くという恐怖心のほうが大きいのでしょう。 日本では、ノートパソコンをなくしても多くの場合は警察か会社に直接届け出があるからです。その過程で多くの人がその出来事について知ることになり、最悪 の場合はメディアや顧客の耳にも届きます。
日本では、有名企業の社員というのは家族の一員のようなものです。社員が公に不品行を働けば、一族全体が子供を正しくしつけなかったとして面目を失いま す。兄や姉(直属の上司)は、弟や妹をきちんと監視しなかったことでとがめられます。象徴的なおしおきは2、3週間のお小遣いをなしにされることですが、 真の懲罰は、一族の中での評判に対するダメージです。注意の散漫なヤツ、あるいは馬鹿なヤツが一族に不名誉を与えたと見なされるのです。
前出のイギリス子会社のIT担当者と私で、「自分のPC」を会社で使うトレンドが社員のノートパソコンの扱い方にどう影響するかを考えてみました。自分でお金を出して買ったコンピュータやタブレット、携帯電話であれば、もっと注意深く扱うかもしれません。
でも、私の見るかぎり、日本の大手企業は自宅勤務のようなフレキシブルな働き方に消極的です。「自分のPC」のトレンドも、決して歓迎はしないのではない かと思われます。ベストのセキュリティと暗号化技術があるとしても、顧客の機密データが保存されていたかもしれないノートパソコンを社員が紛失して評判に 傷が付くというのは、あまりにもリスクが大きすぎます。
家族の喩えを再び用いるならば、息子が自分のお小遣いで買ったサッカーボールがご近所の窓に当たれば、たとえ窓が壊れなかったとしても、そのお宅からやはり苦情が出るからです。
パニラ・ラドリン 日経ウイークリー 2013年3月4日より
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