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日本のビジネスで最もよく実践されているコンセプトのひとつである「根回し」は、しばしば日本式のコンセンサス構築のやり方だと説明されています。もう少し詳しく説明する場合は、本来の言葉の意味に踏み込んで、植木を植え替える前に根の周りを掘ることと説明することもあるかもしれません。私自身は、トレーニングで根回しについて説明する際、できるだけ鮮明なイメージを描くために、ある程度成長した木を植え替えるに当たって単に地面から引っこ抜けば木が死んでしまうことを指摘するようにしています。この喩えは、日本企業に新しいアイデアを植え付けようとする際に特に当てはまります。意思決定の権限があると思われる人(「木の幹」)にアプローチしてその人から承認を得ても、その意思決定は植え替えの途中で死んでしまう可能性が高いのです。決定から影響を受けるであろう人、決定に興味を抱くであろう人すべての理解や合意を取り付けなかったためです。
コンセンサスを重視する文化があるヨーロッパの国
オランダやスウェーデンのようにコンセンサスを重視する文化があるヨーロッパの国の出身者は、この説明を聞くと次のように反応します。「もちろん、私たちもこの種のコンセンサス構築をしていますよ。常識です」。オランダでは、コンセンサスに基づく意思決定はポルダー・モデルと呼ばれています。ポルダーとは、堤防で守られた海面よりも低い干拓地です。かつてオランダでは、百姓であれ貴族であれ、ポルダーやその近くに住んでいれば、ポルダーをどうやって守るかについてコンセンサスを確立する必要がありました。そして計画を実行するには、全員の参加が不可欠でした。さもなければ、全員に影響が及んだためです。現代ではこの言葉が、賃金や社会福祉、あるいは環境保護をめぐって政府と労組と企業の間で確立する政治的なコンセンサスを言い表すのに使われるようになりました。
根回し=「誰もが責任を持っているが、誰も責任を取ることができない」
ですから、オランダ人も日本人も、コンセンサスに基づく意思決定にかけては長い歴史があると言うでしょう。しかし、『ジャーナル・オブ・マネジメント・スタディーズ』誌に今年発表された研究*では、「コンセンサスという概念の解釈が、日本とオランダの管理職者の間で大きく異なる」と結論されました。日本の会社では、根回しが一連の非公式な話し合い、多くの場合は1対1の会話を通じて行われます。こうすることで、「植え替え」について話し合う会議までにはコンセンサスが出来上がっているのです。このため、会議はどちらかというと形式的で、意思決定を確認する場と言えます。一方、オランダでは、コンセンサスが会議の最中に作られ、その過程では口角沫を飛ばす議論が行われることもしばしばあります。また、日本人の管理職者は、より完全なコンセンサスを求めます。他の部署も含めて全員が同意する状況です。けれどもオランダ人は、「コンセンサスを確立しようとするプロセスを重要だと見なす一方で、どうしても意見の相違が克服できない場合は誰かが意思決定を下す」のだそうです。
このため、この意思決定を下す人が、物事がうまく運ばなかった場合に責任を取ることになります。日本では、意思決定者と会社をリスクにさらさないために、また社員の調和と忠誠を守るために、完全なコンセンサスが必要だと考えます。そして、このように完全なコンセンサスに達するには時間もエネルギーもかかるため、ひとたび決定が下されると後戻りすることはありません。オランダ人にとっては、これが日本企業の病の兆候のように見受けられます。すなわち、「誰もが責任を持っているが、誰も責任を取ることができない」という状況です。
*Comprehensiveness versus Pragmatism: Consensus at the Japanese-Dutch Interface, Niels G. Noorderhaven, Jos Benders and Arjan B. Keizer, Journal of Management Studies, 2007
この記事はパニラ・ラドリン著「ユーロビジョン: 変わりゆくヨーロッパで日系企業が信頼を構築するには」に出てます。Kindle版とペーパーバックはamazon.co.jpでご注文できます。
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