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日本企業に最近買収された在イギリス多国籍企業の人事部長が、ショックを受けた話としてこんな体験談をしてくれました。イギリスに駐在員として赴任するこ とになった日本人マネージャー数人に対する社用車の割り当て方法について日本の本社に質問したところ、回答としてマネージャーの名前と年齢だけが返ってき たというのです。
もちろん、日本企業の年功序列に基づく給与と福利厚生制度のことを知っていれば、至極当然の回答です。でも、ヨーロッパの企業では、給与や福利厚生は仕事 上の役割に基づいています。どの階級でどんな仕事をしているかであって、年齢や勤続年数に注意が払われることはほとんどありません。
私の取引先である在ヨーロッパ日系企業のほとんどは、現地の慣習に合った給与と福利厚生の制度を導入しています。でも、日本の人事制度がヨーロッパの社員に影響を及ぼす側面は、駐在員の社用車の等級に限らず、いくつか存在します。
例えば、終身雇用の文化や、会社が社員の面倒を見なければならないという意識です。日本人であれ外国人であれ、日本企業は会社に対する貢献度がきわめて低 い社員ですら解雇に消極的だということに、多くの人が気付くようになりました。この思いやりある姿勢にはヨーロッパの人も同情する一方で、パフォーマンス 管理をやりにくくするという声もあります。成績の悪い社員の存在がいつまでも許されていれば、他の社員のやる気を損ねるからです。
また、日本の人事制度の特異性が国境を越えた人事異動の障害になるという側面もあります。日立が最近、年齢に基づく管理職の給与の設定方法を廃止すると発 表しましたが、その背景にはこの理由があったと言われています。日系以外の多国籍企業のほとんどは、社内公募制度を導入して、世界のどの国であれ社員が社 内求人に応募できるようにしようとしています。これを受けて、詳細な職務記述書だけでなく、統一的な等級制度も必要になります。社員が自分の等級に適した 仕事がどれかを見極められるようにするためです。
日本からの駐在員が、役割に見合った資格とスキルと経験を有しているかどうかとは無関係に、その役職に就いているように見えることは、ヨーロッパの人には非常に不可解です。
私が日本の企業に対して希望するのは、外国勤務の現地社員をもっと日本の本社に送ることです。日立は、過去2年かけて全世界の社員のデータベースを構築し てきました。これはおそらく、日本からだけでなく世界中で社員の異動を可能にする統一的なシステムを持ちたいと思っていることの表れでしょう。そして、そ のような国際的な人事異動は、職能に基づいて決定するのであって、個人的な能力開発のニーズや「誰の番か」だけで決定するのではないようにしたいという意 思の表れなのではないかと、私は思っています。
ただし、日立の目指す方向性を他の日本企業が追随し、グローバル化の道を歩むようになるとしても、社員への思いやりや忠誠は失わないでほしいと思います。 日本企業での勤務にフラストレーションが伴うことは事実ながらも、ヨーロッパの人はなおも日本企業のもたらす長期的な雇用の安定性を好んでいるからです。
Pernille Rudlin著 帝国ニュースより
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