2011年の東日本大震災の後、節電方法としてクリエイティブな提案が多数出されました。金曜日を休みにして土曜日に働くといったアイデアもありました。こうしたアイデアについての記事を読むにつけ、私は、フレキシブルな勤務形態がようやく日本でも普及するのではないかと希望を高めました。フレキシブルな勤務形態は、女性の再雇用を促す方策として長らく議論されてきましたが、必ずしも普及したとは言えません。職場のダイバーシティを高めるための儀礼的な取り組みとして女性だけを対象に導入するのではなく、重要な社会のニーズを感じてこの種の制度を実践的に運用する日本企業がクリティカルマスに達しないかぎり、社会に広く浸透した働き方になることは決してないと、私は常日頃思ってきました。
自宅勤務ができれば、電力不足の状況にとって明らかにプラスの効果をもたらします。エネルギーを大量に消費する交通機関への負担が減るためです。また、災害に強い社会を作ることにもつながります。仮に日本がまたも大きな震災に見舞われたならば、社員が各所に分散していることで、1カ所のオフィスビルに全員が集まっているという弱さを緩和できます。
長期的に社会にもたらされる恩恵は、女性の職場復帰を促すという明らかなメリット以外にもあります。同僚や会社に気を遣って長時間オフィスに居残ることを良しとする「プレゼンティーイズム」を規範とする状況が、ついに解消されるかもしれません。日本企業にとって、プレゼンティーイズムの自然消滅を受け入れるのは困難です。残業の背後にある基本的な姿勢として、集団志向があるためです。その結果、自分のその日の仕事をすべて終えるということが、決してできません。チームの誰かを手伝うことは常にできるからです。
過去10年ほどの間にイギリスの職場で起こった大きな変化のひとつは、私が「グレーゾーン」と呼んでいる働き方です。スマートフォンのおかげで、朝晩の通勤途中に仕事のメールをチェックできるようになりました。また、小型軽量のノートパソコンや会社のサーバーにリモートからログインできる機能によって、仕事を家に持ち帰るのも簡単になりました。日本企業は、こうした働き方がもたらすセキュリティのリスクを案じています。とはいえ、データを1カ所のハードウェアにまとめておくことにもセキュリティのリスクがあることは認識されるようになっています。
イギリスでフレキシブルな勤務形態が重用されるようになった背景には、タイムゾーンという点で理想的なロケーションにあることが影響しています。朝のうちにアジアから業務を引き継ぎ、午後には北米の同僚にバトンタッチすることができます。朝早くや夜遅くの電話も、自宅からかけられるのであれば、それほど耐え難いものではなくなります。とはいえ、同僚との交流や情報共有という点でバランスを取らなければならないことも認識されています。月曜から金曜までずっと自宅勤務をすれば、業務の効果的な遂行には役立ちません。日本には、北米からアジア経由でヨーロッパへと業務をつなぐ際の溝を埋める橋渡し役になってほしいと思います。ただし、それにはフレキシブルな勤務時間を認める必要があるでしょう。
この記事はパニラ・ラドリン著「ユーロビジョン: 変わりゆくヨーロッパで日系企業が信頼を構築するには」に出てます。Kindle版とペーパーバックはamazon.co.jpでご注文できます。
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