ブランドのビジュアル化
私は日本企業が制作した英語の発行物を収集していて、古いものは1910年にまでさかのぼります。日本企業がグローバルなイメージを打ち出そうとする際にどのような表現を使ってきたかを見るためです。三井物産や三菱商事が発行した書籍には、見事なオフィスビル、船舶、鉱山、創業者一族の写真などが多数掲載されています。発信しているメッセージは、規模、堅実、歴史です。
21世紀の日本企業は、これほどの印象を打ち出す必要はなく、事業に人の顔を付けることを好みます。しかし、日本人と外国人が一緒に働いている様子を自然なかたちで示した魅力的な写真はあまりありません。たいていはモデルを使っていて、美しすぎたり、不自然な髪形やひげが見られたりするのです。実際のオフィスで見かけることのない光景も多々あります。全員が1台のノートパソコンの周りに集まって画面を指差しているもの、ガラスの壁に板書しているものなどです。
この問題を回避するひとつの方法は、社員の写真を使うことです。私も日本の商社に勤めていた時に、会社案内や年次報告書に何度か借り出されました。外国人で女性ですから、一人で2つのダイバーシティを表現できる便利さがありました。とはいえ、当時ですら、普段の仕事ではしないことを写真撮影のためにしました。クリップボードを指差したり、ヘルメットを被ったりしたものです。
日本の情報通信会社でマーケティングを担当していた時は、ブランドのバリューである誠実さを伝えるために、社員を使うことにしました。けれども、ほとんどの社員は演技が不得手で、写真やビデオでは非常にぎこちなく見えました。
日本企業のウェブサイトは、無味乾燥で抽象的なデザインを使いがちです。今も堅実と歴史に重点を置いていて、他の多国籍企業のウェブサイトと似通って見えます。まるでグローバルにアピールしようとすると固有性を失ってしまうかのように思われます。
イギリスのブランドも、かつては似た問題を抱えていました。ブリティッシュ・エアウェイズは、「ブリティッシュ」を落として「BA」とし、「世界で最も好まれる航空会社」とうたって、尾翼の国旗も消そうとしましたが、サッチャー首相の激しい反対に遭って、この計画を撤回しました。郵便事業のロイヤルメールも、グローバルな響きのするコンシグニアに改称しましたが、批判を浴びた後、ロイヤルメールに戻しました。
ブランドのバリューやミッションを表現した言葉に関しても、論争が起こることがあります。イギリス人とアメリカ人のネイティブスピーカーは、「ambitious」のような言葉に対して非常に異なる反応を示します。英語のネイティブスピーカーでない人にとっては、「お呼びでない」言語戦争のようなものです。
日本企業は、グローバルなステークホルダー(顧客、社員、コミュニティ)に対して、いかにも日本的な魅力を伝えるビジュアルを恐れず使うべきです。大阪・関西万博の「いのちの輝きくん」がうまいところを突いたと思うのはそのためです。明らかに日本的でありながら、奇妙な生き物のパーソナリティを持っています。デザイナーと手を組んで、この種の擬人化された表現で企業文化を打ち出す日本企業が増えてほしいものだと思います。これならば、英語の言葉や嘘っぽい写真に頼らなくて済むでしょう
Pernille Rudlinによるこの記事は、2020年10月14日の帝国データバンクニュースに日本語で最初に掲載されました
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