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EU離脱

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Category: EU離脱

7年後の在英日系企業 ― 新たな第3フェーズ

エグゼクティブ・サマリー

EU離脱を決めたイギリスの国民投票から7年が経過し、日系企業の長期計画がもたらすレジリエンスのメリットが明らかになっています。在英日系企業の従業員数は2018/19年以降、減少しましたが、これは主に自動車業界によるもので、ホンダによるスウィンドン工場の閉鎖を端緒としています。自動車以外の製造業は雇用・投資とも安定していますが、イギリスに新たに進出した製造業企業はありません。

卸売業界の従業員数も減少しました。これは、日系企業が欧州の物流・倉庫・コーディネーション機能をEUへと移したためです。金融業界ではイギリスから相当規模の投資引き揚げがありましたが、とはいえ従業員数は安定していると見られます。

EUの日系企業数という点ではドイツがイギリスとほぼ肩を並べるまでになり、また日本からの駐在員数ではイギリスを抜いて最多になりました。

イギリスのEU離脱と新型コロナウイルス感染症の激動が収束した今、日系資本の投資に新たな第3フェーズが浮上しつつあります。これはむしろ、気候変動、エネルギー、防衛および安全保障をめぐる地政学的な懸念を見据えたフェーズです。イギリスはこの局面において重要なパートナーになると見なされていますが、これら産業への長期的な政策コミットメントを強化する必要があり、それには大型投資と地元コミュニティの支持を取り付けるだけでなく、EU・アフリカ・中東と確実に協業し同調を図っていくことが求められます。

目次

在英日系企業の従業員数は2018/19年まで増加の後に減少… 3

日系企業数はドイツがイギリスとほぼ肩を並べるまでに成長… 5

閉鎖した企業数はドイツよりもイギリスで多数… 6

2017年以降に新設された日系企業数はイギリスとドイツが互角… 7

イギリスはなおも日本企業のM&Aターゲットだが、以前よりも規模が縮小… 7

日本からの投資先としてスイスがイギリスを抜き、正味金額で欧州最大に… 8

製造業の雇用は自動車を除いて安定的に推移… 11

イギリスの金融サービス業界は正味ダイベストメントながらも従業員数は安定… 12

日本からの駐在員数はドイツがイギリスを抜いて欧州の最多国に… 13

これらすべてが何を意味するのか? 新・旧トレンドの加速… 15

在英日系企業の従業員数は2018/19年まで増加の後に減少

2023年4月に発行された東洋経済のデータベース[1]によると、在英日系企業の従業員数は9万8,000人で、2015/16年の10万6,000人から減少しました。

ラドリン・コンサルティングのデータベースは、買収を通じて日本の親会社の傘下に入った企業が多く含まれているため、2021/22年の従業員数は約16万人で、2015/16年の15万6,000人からわずかに増加しています。

どちらのデータにも共通しているのは、2018/19年が従業員数のピークで、以降は減少している点です。これはフランスやドイツとは異なるパターンで、両国とも従業員数が2020/21年にピークに達し、その後減少しました。オランダは増減しながらも、全体としては成長基調です。

従業員数を業界別に見ていくと、イギリスの雇用縮小はほぼ完全に自動車業界の減少によるものであることが伺えます。同業界では約1万1,000人の雇用が製造・卸売業務で失われました。

 

日系企業数はドイツがイギリスとほぼ肩を並べるまでに成長

東洋経済は、日本企業の子会社である現地法人が2015/16年時点でイギリスには875社、ドイツには764社あったと推定しています。それが2022/23年にはイギリスが982社、ドイツが975社となりました。

ラドリン・コンサルティングの推定値には、法人化されていない支店が含まれており、また買収の結果として日本企業の子会社になった企業が東洋経済のデータよりも多く含まれています。2023年6月時点で、そうした組織がドイツには1,113社、イギリスには1,151社ありました。

 

閉鎖した企業数はドイツよりもイギリスで多数

ドイツでは2018年以降に閉鎖した企業数が48社、イギリスでは2017年以降に閉鎖した企業数が145社でした。イギリスで正味閉鎖数が最多だったのは卸売業界です。説明として考えられるのは、倉庫・物流業務の重点がEU単一市場へと移動して、在英拠点は欧州の卸売コーディネーション機能を果たさなくなったため、解消されたか支店に転換されたことです。イギリスで閉鎖された日系企業の業界別の内訳は次のとおりです。

  • 自動車 26社
  • サービス 41社
  • 卸売 39社
  • 製造 27社
  • IT 11社
  • 金融 9社
  • 物流 8社
  • 化学 6社
  • 小売 4社
  • 食品 4社

(一部企業は複数の業界に含まれる)

これらの閉鎖の多くは、イギリス市場から撤退したというよりは統合や合併によるものです。

2017年以降に新設された日系企業数はイギリスとドイツが互角

2017年以降にドイツに新設された日系企業は64社、イギリスは63社でした(うち4社はすでに売却または閉鎖されています)。

イギリスに新設された63社の業界別の内訳は次のとおりです。

  • サービス 35社
  • 卸売 14社
  • IT 6社
  • 金融サービス 6社
  • 製造 3社
  • エネルギー 3社(蓄電、再生可能、生産)
  • 物流 1社(複数の日系企業のコンテナ事業の合併後)
  • 自動車 1社(カルソニックカンセイとの合併後に設立されたハイリマレリ)

(一部企業は複数の業界に含まれる)

イギリスはなおも日本企業のM&Aターゲットだが、以前よりも規模が縮小

2017年から2023年現在までの間に日本企業に買収された企業の数は、イギリスで179社、ドイツで79社を把握することができました。これは網羅的な数値ではなく、弊社の調査力がイギリスに偏っている事実を反映している可能性があります。

さらに、これらの買収の多くは、イギリス企業やドイツ企業を直接的に買収するものではなく、米国企業や欧州の他の国に本社がある企業を買収した結果として、そのイギリス子会社やドイツ子会社が傘下に収まったという経緯でした。また、現時点で把握しきれていない最近の買収もあるかもしれません。

これらの点を念頭に置いて見ていきますが、イギリスで行われた買収179件のうち123件と過半数を占めたのが、2017年から2019年の3年間の案件で、その後は年間25社前後かそれ以下のペースでした。ドイツでも類似したトレンドが見受けられます。

2017年以降に行われた欧州企業の買収のなかでも主だった案件は次のとおりです。

  • 武田薬品が2019年、アイルランドの製薬会社、シャイアー(ロンドン証券取引所の上場企業)を640億ドルで買収
  • 日立製作所が2020年から2022年にかけ、スイスのABBのパワーグリッド事業を110億ドルで買収
  • ルネサスが2021年、米国で設立されイギリスに住所を置いていた半導体会社、ダイアログを59億ドルで買収
  • 三菱商事と中部電力が2019、オランダのエネルギー会社、エネコを44億ドルで買収
  • 大正製薬が2018、ブリストル・マイヤーズ スクイブからフランスの製薬会社、UPSA SASを16億ドルで買収
  • 日立レールが2015年から2019年にかけ、イタリアのアンサルドSTSを15億ユーロで買収
  • ニデック(日本電産)が2017年、エマーソン・エレクトリックのモーター、ドライブ、発電機事業を12億ドルで買収(イギリス・ウェールズのドライブ製造会社、コントロール・テクニクスとフランスのモーター製造会社、ルロア・ソマーを含む)
  • 豊田自動織機が2017年、オランダの物流会社、ファンダランデを13億ドルで買収
  • NECが2018、デンマークのIT会社、KMDを12億ドルで買収
  • 富士フイルムが2019年、米国バイオジェンの保有するデンマーク・ヒレレズの製造子会社を9億3,000万ドルで買収

イギリス企業は過去に日系企業が追求した最大級のM&A案件のターゲットとなってきました。ソフトバンクによるARM買収、日本板硝子によるピルキントン買収、そのほか金融サービス業界の様々な買収がありました。この傾向は、ルネサスによるダイアログ買収を除き、継続していないように見られます。ただし、イギリスの人材斡旋・派遣、ドライブ、タイヤ、食品、紙卸売などの業界で、比較的小規模な買収が行われています。

日本からの投資先としてスイスがイギリスを抜き、正味金額で欧州最大に

前述の大型案件は、必然的に日本から欧州への資本の流れに影響し、結果として投資総額が年ごとに大きく増減しました。

2017年以降の日本からの直接投資の正味累計額では、それまでの最大投資先だったイギリスを抜いてスイスがトップに立ちました。2019年にスイスの卸売・小売業界に多額の投資が流入した理由は、日立によるABBパワーグリッドの買収に関係していたと思われます。スイスとイギリスに次ぐ3位はオランダ、4位はアイルランドでした。

イギリスへの資本の流れは2020年にマイナス、すなわち正味ダイベストメント(投資撤退)となりましたが、これは通信業界によるもので、ソフトバンクに関係している可能性があります。同社の投資活動のかなりの部分がロンドンで行われているためです。また、2018年にはサービス業界が正味ダイベストメントとなりました。この年に同業界では日本企業による子会社の売却という点で目立った動きがなかったため、在英拠点の資産がEU拠点に移転されたためかもしれません。例えば、ソニーが知的財産権の所有法人を変更しました。

製造業では、イギリスの電気機械、食品、化学品への投資が輸送機器(自動車)への投資を上回り、またこれら3分野への投資額は、同期間のドイツと比べても格段の差がありました。

ドイツとイギリスに対する日本からの直接投資の2017年以降の累計額は次のとおりです[1]。

業界 ドイツ イギリス
食品製造 8億ドル 98億ドル
化学品・医薬品製造 31億ドル 71億ドル
電気機械製造 6億ドル 78億ドル
輸送機器製造 93億ドル 8億ドル
通信 6億ドル 453億ドル
卸売・小売 20億ドル 32億ドル
金融・保険 82億ドル -23億ドル
サービス 12億ドル -345億ドル

国別では下図のとおり、アイルランドが化学品・医薬品製造業界で2019年と2020年に多額の資本流入と資本流出を経験しました。これは武田・シャイアーの案件に関係したものと思われます。デンマークの2019年の資本流出は、武田がデンマークの2工場をオリファームに売却したことに関係しているかもしれません。

日本の財務省のデータは、注意して扱う必要があります。機密保持の理由で提供されていないデータが多々あるためです(例えばフランスや金融サービス業界)。

製造業の雇用は自動車を除いて安定的に推移

2019年と2021年に自動車業界でイギリスからのダイベストメントがあった理由は、ホンダのスウィンドン工場閉鎖に伴うものと見られます。2019年2月に発表され、2021年7月に最終的に閉鎖されましたが、この間に同業界の日系サプライヤも20社ほどが在英拠点を閉鎖しました。

自動車業界の日本からの投資が最も流入したのはドイツでした。2019年の大きな流入は、おそらく積水化成によるプロシートの欧州事業買収に関係しています。この案件にはドイツ、ポーランド、チェコ共和国の工場が含まれ、イギリス工場は2021年に閉鎖されました。

イギリスの自動車業界に対する二次的な投資もあったかもしれませんが、このデータには反映されていません。自動車業界の投資先としてベルギーがドイツに次いで2番目となった理由は、ほぼ間違いなくトヨタが欧州事業の統括会社を置いていることによるものです。このため、この金額の一部はイギリスにあるトヨタの工場に流れたはずです。

2018年にはイギリスの自動車業界に比較的大きな資本流入がありましたが、これは日産が2019年にサンダーランド工場で「ジューク」の生産を開始し、その後さらに第3世代の「キャシュカイ」の生産も開始したことに関係している可能性があります。

自動車以外の製造業では、2019/20年まで従業員数が増加し、その後は横ばいとなりました。弊社が調査した日系製造業企業のほとんどは、EU離脱に向けた対応委員会を設置し、様々なシナリオを想定して計画を策定し、投資を行いました。こうしてコストとメリットを分析した結果として、製造業務を閉鎖して他国に移転するよりは居留まって対応策に投資するほうが合理的だと結論したのでしょう。

イギリスの金融サービス業界は正味ダイベストメントながらも従業員数は安定

ラドリン・コンサルティングのデータによると、2017年から2022年にかけて、イギリスの金融業界に対する日本からの投資は累計でマイナスになりましたが、従業員数は比較的安定していました。ただし、これは確認が困難です。日系銀行の大手3社のうち2社が、在英拠点をオランダの欧州本社または日本の本社の支店と位置付けていて、イギリスのみの従業員数が開示されていないためです。

アイルランドは、航空機リースと航空機ファイナンスのハブになっているため、日本の金融サービス業界が2017年以降に最も投資した国になったと見られます。例えば、2020年から2022年にかけて、ジャパンインベストメントアドバイザーの子会社、JPリースプロダクツ&サービシイズがアイルランドにエアバスと合弁でリース事業会社を設立し、航空機数機を取得したことが、2020年の大型投資に寄与した可能性があります。

日本からの駐在員数はドイツがイギリスを抜いて欧州の最多国に

全体として日本からの駐在員はEMEA全域で減少傾向にあり、コロナ収束後も戻っている様子は見られませんが、オランダとアラブ首長国連邦は例外です。

在英(主にロンドンとその周辺)の駐在員数の変化は、欧州の地域本社機能がドイツとオランダに移りつつあることを示していると言えるでしょう。特に金融サービス会社と商社は日本人駐在員の割合が高いため、この傾向が顕著に反映されがちです。

これらすべてが何を意味するのか? 新・旧トレンドの加速

過去7年にわたって在英日系企業に関するデータを集めながら、オープンマインドを保つよう心がけてきました。とはいえ、イギリスのEU離脱はすでに存在していたトレンドを加速させるものだという、全体的な見解を持っていたことは認めます(EU離脱が膨大な時間と労力とリソースの無駄だという見方を別にして)。

そこで、今回このデータを見るに当たり、新・旧のどのようなトレンドが浮上してくるかに注目しました。

拙著『The History of Mitsubishi Corporation in London』[1]ではロンドンの三菱商事が1915年からどのように発展したかを解説しましたが、輸出入の貿易業者から地域コーディネーターへと短期に転換したことが明らかでした。これは事業がグローバル化する際の著名なモデルに従っていました。純粋な輸出事業から現地製造事業へ、そして何らかの多国間事業へと展開し、地域レベルのセンター・オブ・エクセレンスを有するようになるという進化の過程です。

三菱商事のような日本の商社は、直接的に製造業を営むことはありませんが、しばしば製造業に投資しています。1989年に三菱商事がイギリスでプリンセス・フーズを買収したのも、その一例でした。これらの事業は主にロンドンを拠点としていて、その理由は、ロンドンがグローバルにも地域的にも重要なハブだと見ているためです。若手社員が情報収集し、国際政策への影響力の及ぼし方を学ぶうえで、良いトレーニングの場になるのです。

EU離脱が現実になった直後に、在英日系企業の経営幹部が多数集まった会合に出席したことがあります。当時の三菱商事EMEA統括者がスピーチに立ち、イギリスのEU離脱は日系企業にとって逆風になると思うが、同社がイギリスから撤退することはないと明言しました。

私自身、三菱商事で経営企画やコーディネーション業務に携わった経験があるため、同社や他の日本の財界[2]企業にとって在英拠点の価値とは戦略的な価値であるということが、本能的に理解できました。とはいえ、ひとたび離脱してしまえばイギリスのEUでの影響力は弱まり、イギリスが日系企業にもたらす戦略的な価値も失われるのではないかと、私は危惧していました。

2017年以降にイギリスから撤退した唯一の日本の商社は双日で、三菱、三井、住友、伊藤忠、丸紅といった大手ではありません。双日は化学品貿易に注力すると決め、その本社をドイツに置くことにしました。ドイツは伝統的に、この地域内の化学品製造のハブと日系企業から見なされています。

イギリスから撤退した他の地域本社は、グローバル化の最初のフェーズに関係した動きでした。日本から製品を輸入していた卸売業企業でしたが、地域コーディネーションと倉庫・物流の拠点をEUに移しました。これはオランダで日系企業の従業員数と駐在員数が大幅に増加した背景となっています。同時に、日本からの駐在員は欧州全域で減少していて、これは卸売業企業の多くがシニアマネジメントを現地化していることの表れかもしれません。

第2フェーズの企業、すなわちイギリスに製造拠点を開設した企業は、やはりイギリス外へ重点を移し、サプライチェーンを引き連れて行きました。消費者家電の製造業企業はかなり前に撤退していたため、主な懸念は自動車業界でした。前述のとおり、自動車業界による欧州への投資を2017年以降に最も引き付けたのはドイツでした。ただし、買収に伴う単発の資本流入だった可能性はあります。ベルギーへの投資の一部は、トヨタ経由でイギリスに流れる可能性があります。また、トヨタも日産もイギリスから引き揚げる兆候は示していません。

第3フェーズは、地域コーディネーションやセンター・オブ・エクセレンスによる事業展開の段階ですが、イギリスではこれがより色濃く表れるようになっています。ただし、地域コーディネーションの中心的な業務とは製造業務のためにサプライチェーンを管理すること、あるいは日本からの輸入品のために物流と倉庫を管理することであり、これらがイギリスを離れた今、イギリスに残ったのは、地政学的な観点に立つ戦略的な投資家で、業界としてはエネルギー、輸送および通信のインフラ、防衛、さらにバイオ・製薬と半導体の研究開発です。

これらの投資家は、海外の成長市場を求めているわけではなく、1990年代から2010年代の失われた30年間に日本企業がイギリスや他国で買収を行ったのとは異なります。動機となっているのはむしろ地政学的な懸念で、気候変動に関係する要因や、通信、エネルギー、デジタルデータなどの業界で敵対国への依存を低減するニーズに関係しています。

現在のイギリス政府は産業政策にまったく触れようとしませんが、イギリスの多数の政治家がこの新しいフェーズを認識していて、イギリスの課題が日本の課題と重なると気付いていることは明らかです。最近ロンドンで開かれた日英イベントでも、現職と歴代の首相および内閣に対する困惑感が伺えました。日本文化のソフトパワーを伝えるジャパン・ハウス・ロンドンの社外取締役としてある展示会に出席してきましたが、ほぼ完全に再生可能エネルギーに焦点を当てていました。

日本政府は先頃、国内企業が開発・生産する防衛装備の規格を米欧と統一すると発表[3]しましたが、これは補修・維持費の抑制に加え、国内企業の事業機会の拡大を狙いとしていて、まさにこの新しい第3フェーズに重なります。イギリス、イタリア、日本は戦闘機開発プログラムを統合し、次期戦闘機の実証試作機を2027年までに共同開発しようとしています。

これらの活動が必ずしもすべて円滑に運ぶことはないでしょう。例えば、日本の商社は、ロシアのLNG開発プロジェクトから撤退する様子は示していません。エネルギー供給の海外依存に及ぼす影響という点で、これは日本政府との協議の議題になっていたことでしょう。例えば、サハリン2プロジェクトは、日本のLNG輸入の約9%を供給しています[4]。

EU離脱後のイギリスで事業を継続するということは、第1フェーズと第2フェーズの企業にとっては、伝統的な輸出入と製造関連の貿易を維持することを意味しました。これらの企業は、あらゆる対応計画を練り、移転する必要のあるものは十分に前もって移転しました。イギリスに拠点を新規開設した製造業企業はなく、イギリスが単一市場に再加入するまでは、おそらくないでしょう。

第3フェーズの企業にとって、EU離脱後のイギリスで事業を継続していくとは、他の欧州諸国と協力・同調し、かつエネルギー、防衛、通信および輸送インフラ、研究開発といった分野でイギリスが欧州内外に対して有する好ましい影響力を活かしていくことを意味します。これは、第2フェーズの製造分野のプロジェクトのように数千人という雇用を創出してサプライチェーンをもたらすといった大衆受けする影響を及ぼすものではありません。事実、選挙という観点からはマイナスの影響になる可能性があります。原子力発電や風力発電、高速鉄道の開発プロジェクトで見てきたとおり、田園風景を破壊することや巨額の投資が必要になるという事実に対しては、常に反対の声があるからです。これは、日本企業が国内で直面する問題に似ています。

しかも、協業に際しては、単に欧州だけでなく、隣接するアフリカと中東も巻き込む必要があります。言うまでもなく気候変動はグローバルな取り組みを必要とし、1か国だけの環境保護主義などあり得ません。日本政府は過去何十年にもわたり、エネルギー小国であることを案じてきました。これが投資の大半を率いる要因となり、特に日本の商社は海外のエネルギー開発プロジェクトに投資してきました。商社はこれまで、しばしばイギリスの地域本社を通じて、アフリカと中東で水力発電から家庭用ソーラー・システムまで様々な再生可能エネルギーのプロジェクトに投資してきました。

日本企業は他の日本企業との取引を好むため、最初に上陸した企業の砦が確立すれば、サプライチェーンやサポートシステムに含まれる他社が追随します。これが1970~80年代にイギリスに進出した日系自動車業界で起きたことでした。このエコシステムは今もイギリスに確実に存在し、部品サプライヤの多くがエネルギー業界やインフラ業界に製品を供給できます。

この新しい第3フェーズのイギリスへの投資、およびイギリスを経由する投資は、工場の建設・改修にイギリス政府が補助金を出すといった方法で誘致されるものではありません。何年も経ってようやく実る長期的な結果のみに投資する意欲、また政治的なエネルギーを費やして持続可能な政府の政策とコミュニティからの支持を取り付けようとする意欲を示すことで誘致されるでしょう。

このレポートの PDF はここからダウンロードできます

[1] https://biz.toyokeizai.net/en/data/service/detail/id=860&academic=1

[1] https://www.mof.go.jp/english/policy/international_policy/reference/balance_of_payments/ebpfdii.htm

[1] The History of Mitsubishi Corporation in London: 1915 to Present Day, Routledge Advances in Asia-Pacific Business, 2000 https://www.amazon.co.uk/History-Mitsubishi-Corporation-London-Asia-Pacific/dp/0415228727

[2] 財界とは、日本の実業家や財務金融関係者のコミュニティで、特に大きな資本力と影響力、政界とのつながりを有し、世界に対して日本を代表する立場にあると見なされている企業のコミュニティを指します。

[3] https://asia.nikkei.com/Business/Aerospace-Defense-Industries/Japan-to-standardize-arms-with-U.S.-Europe-for-joint-maintenance、2023年6月22日にアクセス

[4] https://www.reuters.com/business/energy/japans-mitsui-says-no-plans-exit-russias-sakhalin-2-lng-project-2023-06-21/

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イギリスのEU離脱から6か月、日本企業への影響

(この記事は帝国ニュースの2021年7月14日号に掲載されました)

イギリスがEUから離脱し、その移行期間が終了して6か月になります。私自身のリサーチと経産省および三菱UFJリサーチ&コンサルティングが最近実施した調査によると、イギリスの日系企業は多くの人が予想したほどの深刻な影響は感じていません。

その一因は、日系企業が2016年の住民投票以来5年以上かけて、入念な準備で最悪の事態に備えてきたためです。経産省の調査では、大手企業(売上高100億円以上、在英日系企業の約60%)は、イギリスの事業拡大に関して中小企業よりもポジティブな見方を持っています。在庫や原材料を蓄え、物流施設や倉庫を大陸に設置し、通関手続きの増加に伴うコストを吸収するためのリソースとネットワークを持っています。今でもイギリスが重要な市場であり、EMEA(ヨーロッパ・中東・アフリカ)全域の地域コーディネーション拠点として便利な場所だと見なしています。

ただし、大手企業の間でも見方にばらつきは見られます。経産省の調査では、日本の自動車メーカーがイギリス市場の先行きを厳しいと見ていたのに対し、化学、製薬、食品、電機メーカーはより肯定的に見ていました。この見方の違いは、従業員数の推移に如実に表れています。日産は2020年末時点の従業員数が前年比11%減でした。ホンダはイギリス工場を7月に閉鎖する計画で、2020年末時点の従業員数は前年比14%減です。イギリスの従業員数が2桁減になった他の企業には、野村証券、三菱電機、コニカミノルタがあります。

ただし、従業員数を正確に把握するのは以前に比べて困難になっています。イギリスのEU離脱の影響のひとつとして、ソニーやパナソニックのような大手がヨーロッパ法人をオランダやドイツに移転したためです。イギリス拠点は法人化された子会社ではなく支店という扱いになったため、従業員数などの詳細をイギリスの政府機関に申告する必要がなくなりました。

みずほや三菱UFJなど金融サービス会社の多くは以前から日本の本社またはヨーロッパ子会社の支店でしたが、ほかにも数社がこのモデルに移行し、また大陸に子会社を開設することで、今後もEUで金融サービスを提供していくための事業許可を確保しています。EUは、金融サービス会社にさらに圧力をかけて、意思決定機能と顧客対応の担当者をEUに移すよう働きかける可能性を示唆しています。

イギリスは今まで以上にサービス産業の経済になりつつあり、これは雇用を拡大させている日系企業にも表れています。NTTはグローバル本社をロンドンに移しましたし、アウトソーシングはヨーロッパ全域で人材会社の買収を続けています。

経産省の調査では、今後もイギリスの事業を拡大する理由として、英語が使えること、他の多国籍企業があること、そして司法制度の透明性が高いことが挙げられました。地域内の人と事業のネットワークはますます分散しつつありますが、イギリスは今後もそのコーディネーション拠点であり続けると思われます。

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日系企業とイギリスのEU離脱後の物流

2019年9月に帝国データバンクニュースで予測をしました。イギリスが「ハード」なEU離脱をすることになっても、日系企業は十分な備えができているだろうという予測でした。それが的中したようなので、ひとまずはホッとしています。これに際しては、日系の物流会社が重要な役割を果たしたはずです。

日本の自動車メーカーは、イギリスでの生産を停止せざるを得なくなりましたが、これはむしろコロナ禍と半導体不足が理由であって、EU離脱に伴う問題はそれほど関与していません。

JETROが昨年末に行った調査によると、イギリスの日系メーカーがハードなEU離脱に備える対策として取った主な行動は、在庫を増やしておくことでした。イギリスの他の企業も在庫を増やしました。結果として、イギリスやフランスで通関を待つトラックは、懸念されたほど増えていません。ただし、日系企業がほとんど問題に直面していない理由には、サプライチェーンの再構成もあったのではないかと思われます。実際、これはJETROの調査で日系メーカーが取った対策として2番目に多い回答でした。私の見積もりでは、イギリスの日系企業のうち少なくとも30社が、過去2、3年の間にEUのサプライチェーンのハブを大陸に移しました。

イギリスのEU離脱から最も影響を受けているのは、EU市場への販売に依存している中小のイギリス企業です。これまでは、EUにいる顧客に少量の製品でも高いコスト効果で出荷することができ、認証取得や通関の心配をする必要はありませんでした。

今では、ありとあらゆる書類への記入が求められ、食品や家畜を出荷しようものなら、保健衛生の認証を取得しなければなりません。ヨーロッパの物流会社のなかには、イギリスからEUへの輸送を受け付けていないところもあります。書類業務に対応できないという理由です。また、イギリスへの輸入品を積載したトラックを出すことにも消極的です。EUへの帰路に積むものがなければ、コストを正当化できないからです。

これらの状況は、いずれ自然に解消するかもしれません。しかし、日系企業が取った対策の多くは、決して一時的なものではなく、長期的なトレンドであって、イギリスのEU離脱の影響も長期にわたるのではないかと、私は考えています。例えば、外務省のデータによると、イギリスで製品を製造している日系企業の数は、2014年と比べて22%減少しました。イギリスの日系企業の総数は11%減ですから、製造業に減少傾向が色濃く表れているのが分かります。その多くが販社に転換し、またEUにある親会社の支社になった会社もあります。結果として、イギリスにある支社の数は31%増となり、法人化された子会社の数は16%減となりました。支社になった企業には、金融サービス業界の企業も含まれています。EUでの金融取引を継続するためです。

イギリスに新たに進出する日系企業はなおも見られますが、ほとんどはエネルギー業界かライフスタイル関連の事業で、イギリスの国内市場が目当てです。日系の物流会社は、国際輸送の専門ノウハウを持っていますがが、今後は日系企業よりもイギリス企業からの需要を見つけていくことになるかもしれません。

帝国ニューズ・2021年3月10日・パニラ・ラドリン著

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英国における日本企業の歴史 とEU離脱 (ビデオとポッドキャスト)

Pernille Rudlinは、BEERG(Brussels European Employee Relations Group)のTom Hayesと、日本企業がBrexitにどのように対応したかについて話し合っており、マーガレットサッチャーが英国をEUへの日本の玄関口として推進したことによる1980年代初頭から現在に至るまで英国/ EU /日本の貿易関係の進展を追跡しています。ビデオとポッドキャストのリンクは以下の通りです。

BEERG Byte #32 from Derek Mooney on Vimeo.

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トップ30社のイギリス進出日系企業 2021リスト

英国における最新の上位 30 社の日系企業は、2019 年から 2020 年までの従業員数が全体で 1.3% 減少したことを示しています*。 4 月 1 日から 3 月 31 日の会計年度において、従業員数の減少は、COVID-19 のパンデミックが影響を及ぼし始める前にさかのぼります。日産、ホンダ、野村証券など従業員が 10% 以上減少した企業や、NTT やソフトバンクなどの大幅な成長を遂げた企業もあった。

これは、日本の経済産業省 (METI) が 2021 年 3 月に発表した最近のレポートと一致しています。自動車業界の企業が英国市場に対して暗い見通しを持っている一方で、化学、製薬、電気機械、食品などの業界の製造業者は英国での将来の拡大についてはるかに前向きです。経済産業省によると、製造業者は英国の日系企業の約 39% を占めており、残りはサービスおよび卸売業です。サービス部門、特にIT関連は、私たちのリサーチからもポジティブであるように思われます。例外は富士通。富士通はさらに順位を落として、2017年までに英国で4番目に大きい日本人雇用者となりました。

弊社の推定によると、英国のトップ30の日系企業で働く96,000人は、英国で1,000社以上の日系企業で働く176,000人(前年の179,000人から減少)の約55%に相当します。 METI の調査によると、上位 30 社の雇用数がわずかに減少したにもかかわらず、大企業 (METI は 6 億ポンド以上の売上高を持つと定義している) は、セットアップするためのリソースとネットワークを備えているため、小規模な企業よりもはるかに簡単に Brexit を乗り切ることができたことを示しています。 例えば、EU の代理店の設立、大陸に新しいロジスティクスと倉庫のハブを備蓄し、等。

確かに、2019年から2020年にかけて英国から撤退した50社ほどの日本企業は規模が小さく(従業員50人未満)、操業を停止した大企業は通常、完全に撤退するのではなく、在英子会社を支店にしたり、合併したりしている。

何年も前からも申し上げましたように、ブレグジットはいずれにせよ起こっていたトレンドを加速させ、長い間待ち望まれていた整理整頓を引き起こしました。

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*2020 年は 2020 年に終了する年として定義され、1 年のほとんどが 2019 年、つまり 2019 年 4 月から 2020 年 3 月まで、または 2019 年 1 月から 2019 年 12 月までとしています。

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日系企業とアイルランド

ここ最近、年1度ぐらいの頻度でアイルランドに行っています。仕事が主な理由ですが、個人的な理由もあります。仕事という点では、日本企業に買収された現地企業にトレーニングを提供しています。また、米国の親会社を通して日本の会社を買収した企業でトレーニングすることもあります。

個人的な理由というのは、両親がアイルランドに移住したためです。私の親は日本で25年暮らした後、引退後はフランスに住み始めましたが、完全に根を下ろすことはできなかったようです。継父は、父がアイルランド人で、親戚がアイルランドにいます。このため、アイルランドの国籍が簡単に取得できました。イギリスのEU離脱に備える保険の意味もありましたが、医療サービスが無料で利用できるうえ、公的年金も受け続けられます。母は、同じ理由でデンマーク国籍を取得しました。母の父はデンマーク人だったため、これが可能でした。

二人が今住んでいるのは、私の従兄弟も住むコークで、特に米系の技術企業が多数拠点を構えることで知られる土地です。日系企業ではトレンドマイクロやアルプスアルパインがあり、アルプスは約850人の社員が働く電子部品工場を有しています。

コークには、製薬・バイオテク業界の企業も集中していて、これはダブリンと同様です。ダブリンには、アステラス製薬と武田薬品が拠点を有しています。アステラスは社員数400人以上で、原薬や免疫抑制剤を製造する一方、武田は約300人で、がん治療薬や他の医薬品の有効成分を作っています。アイルランドは、EUにとって最大の医薬品輸出国です。

多国籍企業がアイルランドに魅力を感じる理由は、若くて教育水準が高く、英語を話す労働者がいること、そして法人税率が12.5%と非常に低いことです。

特に航空機リース事業は、アイルランドの税制から恩恵を受けてきました。業界のトップ10社のうち9社がアイルランドを拠点としていて、世界中の航空機の半分以上がアイルランドで保有・管理されています。日系企業ではオリックス・アビエーションとSMBCアビエーション・キャピタルが、ダブリンを主要拠点としています。

ただし、節税のためだけにアイルランドを拠点とするのは、長期的には持続可能ではないかもしれません。EU、OECD、そして日本政府が国際税制で協力していて、租税回避の対策を講じつつあるからです。

アイルランドには、言うまでもなく、イギリスのEU離脱というリスクもあります。イギリスは、EUとアイルランドをつなぐ「陸橋」となってきました。アイルランドの貨物の約85%はイギリスに送られ、うち約40%(年間約19万本のコンテナ)がEUに再輸出されています。

ただし、医薬品と電子部品はしばしば空輸されていて、最近になってEUの運輸各社がアイルランドとEUをつなぐ新しい航路の運航を開始しました。このため、貿易摩擦の心配は、おおむねイギリス・アイルランド間の問題に限定されそうです。

このことは、イギリスのEU離脱をめぐって北アイルランドとアイルランドの国境が大きな問題になる一因でもあります。とはいえ、最大の懸念は、ビジネスとは無関係な側面です。私のように家族が両国に住んでいて、開かれた国境がもたらした平和共存を失いたくないという人がたくさんいるのです。

Pernille Rudlinによるこの記事は、2019年11月13日の帝国データバンクニュースに日本語で最初に掲載されました

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日本とイギリスのパートナーシップ

近くの骨董品店で、日本とイギリスのデザインと製造を折衷したような品物を買うことが時々あります。ほとんどは19世紀末から20世紀初頭にかけて、ヨーロッパでジャポニスムが花開いた時期のものです。

昨年購入したミルク瓶には、富士山と木造の帆船、それに茅葺き屋根の家が描かれていました。とてもシンプルな、イギリスの伝統的なミルク瓶の形状で、飾りは金色のハイライト部分を除いてすべて、手作業の絵付けではなく転写印刷で施されていました。

私が興味を引かれたのは、蝶番式の珍しい金属製の蓋が付いていた点でした。この蓋には「クラークの特許品」という刻印がありました。どうやら、イギリスでクラークさんという人が特許を取得した蓋のようです。蓋を閉じたままミルクを充填したり注いだりすることができるデザインでした。

19世紀ですら、日本とイギリスの貿易は、どちらかの国で完全に作られた品物を単に交換する行為ではなかったことが伺えます。イギリス製のミルク瓶の金型が日本に輸出されていたのかもしれません。瓶の絵や金色のハイライトは日本とイギリスのどちらで施されたのでしょうか。金属の蓋はイギリスに到着してから付けられたのでしょうか。はたまた、このミルク瓶は完全にイギリス製で、ただし日本の陶磁器から大きく影響を受けていたということも考えられます。

このような相互作用の長い歴史こそが、現在交渉中の日英自由貿易協定がおそらくはかなり基本的な内容になり、これまで以上に大きなメリットを付加することはないと思われる理由です。それに、この協定は、すばやく成立させる必要があります。イギリスのEU離脱の移行期間が終わる2021年1月31日以降の新たな関税を回避するためです。関税引き下げという点で最も恩恵を受けると思われるセクターは食品と農業ですが、これらの分野は通常、最も困難が多く交渉を長引かせる分野でもあります。このため、この部分が日・EUの経済連携協定から継承されることは当面なさそうです。

イギリスの提案はこれを反映していて、中小企業の輸出を促進すること、日本政府の調達プロセスに参加できるようにすること、そして両国間の自由なデータ移転を可能にすることを強調しています。

政府の調達は、賛否両論の分かれるトピックでもあります。イギリス人の多くは、米国との貿易協定を不安に感じていて、米国の民間医療会社がイギリスの国民保健サービスの民営化を押し進めてしまうのではないかと案じています。また、データ移転に関しても懸念が渦巻いています。イギリスの情報通信インフラに中国からの投資が流れ込んでいる現状などがあるためです。

国連の事務総長は、世界が今、第二次世界大戦以来、最大の危機に直面していると語っています。日本とイギリスにとって、戦後の一時期は、史上最も緊縮財政となった時期のひとつでしたが、一方で多数の革新も見られました。日本ではソニーや本田などの企業が設立され、イギリスでは医療、交通、エネルギーが国営化されて福祉国家が確立しました。

今の危機状況が、日本とイギリスの双方にとってメリットのある新しいパートナーシップをもたらし、社会のインフラとサービス、また技術業界のスタートアップにも恩恵をもたらすことを願いましょう。

パニラ・ラドリン著。帝国ニュース 2020年7月8日より

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製造業の東への移動とドイツ

ドイツは伝統的に、日本からの投資先としてヨーロッパでの地位をイギリスと争ってきました。日本からEUへの投資の約40%は、イギリスに集中しています。が、日本の外務省によると、日系企業の数においては、ドイツがイギリスの1.5倍です(ドイツ703社、イギリス471社)[1]。

この数値の違いは、ドイツとイギリスに投資している業界の違い、さらに買収されている企業の規模の違いから来ている可能性があります。私自身のリサーチによると、イギリスの日系企業は、ドイツの日系企業に比べて従業員数が多くなっています。

これは、主要雇用主である日本の自動車メーカーがドイツには工場を持っていないのに対し、イギリスには日産とホンダとトヨタの工場があることに起因しているかもしれません。日本の自動車部品メーカーは多数ありますが、その多くはドイツ語で「ミッテルシュタント」と呼ばれる中規模の企業です。

製造業はドイツのGDPの約20%を占めていて、日本と似たレベルです。ドイツは常に技術力の高さで知られてきましたし、リスクを嫌いプロセスを重視するドイツ文化の価値観は、日本企業のマインドセットにも合致します。

かたやイギリスのGDPに占める製造業の割合は11%です。イギリス経済の80%はサービス業、特に銀行や保険などの金融サービスで成り立っているのです。サービス業には、イギリスに複数の子会社を持つ日系企業も含まれています。また、ヨーロッパ全域で融資や他の機能を提供している商社、持株会社、サービス会社なども含まれます。

このことは、日本人の在住者数がドイツよりもイギリスに多いことを説明しているかもしれません(ドイツ4万6,000人、イギリス6万3,000人)。欧州地域のリエゾンやコーディネーターとして、日本の本社と連絡する役割を果たしていると思われます。ただし、日本人の在住者数は、イギリスは減っている一方で、ドイツは増えています。

ということは、イギリスは、サービス業のメッカとしての地位をドイツに奪われつつあるのでしょうか。詳しく見ていくと、イギリス在住の日本人が減っている主な要因は、学生や学術関係者が1年前に比べて3,000人減少したことであるように見受けられます。

駐在員の数は、イギリスは2015年から2017年の間に1%減となりましたが、ドイツ、オランダ、およびヨーロッパ東部では同じ3年間に数百人の増加となりました。

イギリスとドイツへの最近の投資を見るかぎり、過去数年のトレンドはなおも続いていると言えそうです。イギリスへの投資は、地域を管轄する持株会社の設立のほか、バイオ、IT、さらにはイギリス市場向けのサービス業の会社の買収などがあります。イギリスの駐車場の運営会社の買収などがありました。ドイツへの投資は主に、電子機器部品や機械関連の卸売業に流れています。イギリスにすでに営業や生産の拠点を有している日本企業が、ドイツに営業拠点を開設するケースも含まれています。製造拠点がヨーロッパの東部へと移動しているのを受けて、販売のハブも一緒に動きつつあります。

[1] 日本とイギリスの省庁や政府関係者は通常、イギリスの日系企業を1,000社前後としています。日本の外務省の2017年の統計では、イギリスに日系企業が986社あるとされました。しかし、これには、支社、事業所、持株会社(多くの場合、どれも同じ子会社が有しています)、さらに日本国籍のイギリス永住者が現地で設立した企業、合弁会社などが含まれています。ここに記した471社とは、日本に親会社のある日系企業の本社、すなわちイギリスにおける主な子会社のみを数えた数値です。

この記事はパニラ・ラドリン著「ユーロビジョン: 変わりゆくヨーロッパで日系企業が信頼を構築するには」に出てます。Kindle版とペーパーバックはamazon.co.jpでご注文できます。

 

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EU離脱の最新情報

ここ数か月ほど、イギリスのEU離脱について書くのを避けてきました。語り尽くした感があったことが、その一因です。同じように日系企業も、警告を出すのを止めたかのようです。強硬離脱という最悪の事態に備える計画は、すでに多くの会社が策定済みで、場合によっては実行している会社もあります。また、公の発言は外交官と政治家に任せるようにと日本政府から指示があったという話も聞きます。

イギリス企業も、沈黙を保っています。下手に口を開けば政府との契約を危険にさらすとジョンソン政権から釘を刺された企業も一部にあるためです。金融サービス業界では(日系企業も含めて)、代替となる在EUの法人がすでに設立されていて、事業許可も得ています。外国為替、債券、株式市場に起こるであろう混沌から利益を手にするチャンスすらあります。

とはいえ、何が起きるかを確実に見通すことは不可能です。ボリス・ジョンソン首相が期限直前になってEUが新しい条件を提示しなかったことを批判し、EU基本条約(リスボン条約)第50条のさらなる延期を要求して総選挙に持ち込もうとするという予想も、本当になるかもしれません。ポピュリズム的な選挙運動を展開して、議会の過半数支持を決定的にしたいと考えることでしょう。その後ろ盾があれば、メイ前首相よりも自信を持ってEUに新しい条件を要求し、EUが譲歩しなければ合意なき離脱だと言うことができます。

問題は、メイ前首相に提示された条件が、期待できる最善の内容だったことです。これは、人の移動の自由を廃止し、欧州司法裁判所の管轄からイギリスを除外し、またEUとの関税同盟をなしにするという、ギリギリの線引きに立った交渉の結果でした。これらの線引きをジョンソン首相が消してしまうわけにはいかないだろうと思われます。

ジョンソン首相の主な狙いは、北アイルランド国境問題をめぐる、いわゆるバックストップ(安全策)条項をなくすことであるように見受けられます。北アイルランドとアイルランド共和国との国境を開放しておく策が見つからないのであれば、北アイルランドを事実上、EUに留める条項です。このバックストップ条項を「離脱協定」から削除して「政治宣言」に入れ、すなわち後で交渉するという小手先の方法もあります。そうなれば、おそらくは現行の2年よりも長い移行期間が必要になることでしょう。

在イギリスの日系企業にしてみれば、イギリスは数か月の混乱の後、数年にわたる移行期間に入ることになるかもしれません。技術的にはEUではなく、ただしそれ以外はすべて今までどおりで、交渉が長引いた後に、強硬離脱に終わるという筋書きです。

そうなれば、日系企業がすでに講じてきた対応策がベストの対応策だったということになります。製造業はサプライチェーンを調整してイギリスを迂回し、金融サービス業はイギリスのスタッフをおおむね維持しながらEUにも本格的な拠点を持つという対処法です。そして、近年イギリス投資を拡大した日系のIT、インフラ、アウトソーシング業界の企業は、公共セクターが重要な市場ですから、EU離脱に伴って必要になる新しい体制で政府の契約を獲得するためにも、口を閉ざしておくべきです。

Pernille Rudlinによるこの記事は、2019年9月11日の帝国データバンクニュースに日本語で最初に掲載されました

 

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ヨーロッパで「リーズナブル」とは何を意味するのか

イギリス政府は、EU離脱の交渉で、これまで二度にわたり「リーズナブル」という概念を持ち出しました。イギリスで働いている日本人のマネージャーにとって、この概念を理解することは非常に重要です。会社間や会社と社員の間で係争が起きた場合に調停の基礎をもたらすのが、この概念だからです。

イギリスのリアム・フォックス国際貿易大臣は、昨年8月の訪日中に、日本や他のパートナーに対してEUを説得するよう呼びかけました。「イギリスは、フェアでリーズナブルな条件を提示しました。この提示を却下して合意なき離脱になれば、EUにとっても、イギリスにとっても、イギリスの貿易相手国にとっても、良いことはありません」。

言語学者のアンナ・ヴェジビツカ教授は、著書『English: Meaning and Culture』の「Being Reasonable」という章で、イギリス人がフォックス大臣のような文脈で「リーズナブル」と言う時は、価値判断が暗に含まれていて、相手側が「アンリーズナブル」、すなわち「ばかげている」、「極端」、「無謀」だとほのめかしていると指摘しました。同教授はポーランド生まれのポーランド育ちですが、今はオーストラリアに住んでいて、この言葉のニュアンスがフランス語やドイツ語の同義語とどう異なるかについて、客観的な知識を有しています。EU離脱をめぐるEU側の主席交渉官、ミシェル・バルニエ氏はフランス人ですから、英語の「reasonable」を自然とフランス語の「raisonnable」に翻訳して考えていると思われますが、これは「分別がある」や「理屈で説明できる」ことを意味します。バルニエ氏の補佐を務めるザビーネ・ウェイアンド氏はドイツ人です。「reason」に相当するドイツ語の「Vernunft」には「秩序」の概念が含まれ、正しいプロセスがあることを意味します。「リーズナブル」の概念は、フランス語では否定形が存在せず、フランスの民法で1回使われているのみ、ドイツの法律ではまったく使われていません。

さらに最近になって、イギリスのジェフリー・コックス法務長官が、やはり「リーズナブル」を使用しました。北アイルランド国境をめぐる通称「バックストップ」案をイギリスが回避できるようにするための調停を提案した際の発言です。交渉が決定的に決裂した場合に、イギリスが代替案を見つけるために「リーズナブル」な努力を講じたかどうかを、欧州司法裁判所とは異なる独立した立場の調停機関に判断してもらうべきだと提案しました。しかし、国際法では、「誠意(good faith)」をもって「最善の努力(best endeavours)」を尽くし、拘束力のある保証に至ることを重視します。

ここまで来たところで、たいていのビジネスピープルなら絶望してあきらめたくなることでしょう。弁護士でもないかぎり、理解が非常に困難になってきます。とはいえ、ビジネスピープルである私たちは、イギリスでビジネスをするために、この概念を理解する必要があります。ですから、私の説明が少しでも助けになればと思うのです。社員に残業のような負担を請け負ってもらおうとする時、あるいはビジネスパートナーと交渉する時、相手がイギリス人であれば、「リーズナブル」は次の3つのことを意味します。(1)リクエストの背後にある理由を分かりやすく説明した。(2)害悪を及ぼす極端なリクエストではない(高すぎる、安すぎるなど)。(3)理由が合理的、論理的、実際的である。これで相手から「リーズナブルだと思います」という反応を引き出したなら、あなたは説得に成功したというわけです。

Pernille Rudlinによるこの記事は、2019年4月10日の帝国データバンクニュースに日本語で最初に掲載されました

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Last updated by Pernille Rudlin at 2023-07-10.

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