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このところ、イギリスのビジネス誌の表紙は、米国の製薬大手ファイザーが目指している英・スウェーデン資本のアストラゼネカの買収を歓迎すべきか、懸念すべきかの議論で持ち切りです。買収提示額は630億ポンドで、成立すれば外国企業によるイギリス企業の買収としては史上最大となります。
イギリス政府は当初、この買収提案を、外国投資の誘致政策が奏功した結果として描こうとしました。けれども、アストラゼネカの元CEO、デイビッド・バーンズ卿は懸念を表明し、ファイザーは「まるでカマキリのように獲物の生き血を吸い取ってしまうだろう」と発言しました。ファイザーは、アストラゼネカを買収した暁には税務上の登記をイギリスに移し、イギリスの低率な法人税と、俗に「パテント・ボックス」と呼ばれる研究開発の税制優遇を利用したいと考えています。
これに対してバーンズ氏は、ファイザーがこれらの税制を利用したいと思うのであれば、イギリス自体に投資すべきであって、買収を通じてやろうとすべきではないと論じています。ファイザーが最後にイギリスのメディアで話題になったのは、2011年、イングランド東部にあった60年以上の歴史を誇る研究所を閉鎖し2,000人近くを解雇した時でした。その数年前には、名古屋と米国の研究所を閉鎖していました。当時、その理由としてファイザーは、研究開発は小さな企業に委託したほうが良いと説明していました。
このトレンドが変わったという話は聞いていませんが、それでもアストラゼネカは先ごろ、ケンブリッジにある新しい研究所と本社に5億ポンドの投資をすると発表したばかりでした。ケンブリッジと言えば、イギリスの科学研究のハブです。ファイザーは、この投資とその関連雇用を最低5年は継続すると説明しています。
しかし、「利益至上主義」のファイザーがする約束など無意味ではないかというのが、イギリスではおおむね一致した見方になっています。米国の食品大手、クラフトも、2010年にイギリスの有名チョコレートメーカー、カドベリーズを買収した際、雇用は削減しないと約束しましたが、まもなく工場1か所を閉鎖しました。
ただし、イギリスが外国企業の買収すべてに閉鎖的だというわけではありません。日本企業ははるかに歓迎されています。投資に際して長期的なコミットメントをすると見られているからです。武田薬品工業によるスイスのナイコメッド買収は雇用削減を招きましたが、これはどんな買収にも付き物の範囲内だったと見られています。が、周囲のコミュニティに大きな影響力を持つ工場や研究所を丸ごと閉鎖するとなると話は別で、ヨーロッパの人々は懸念を抱きます。
2011年にファイザーから解雇されたイギリスの研究者の多くは、小さな新興企業で職を見つけました。しかし、誰もがアントレプレナーになれるわけではなく、解雇のトラウマを乗り越えられるわけでもありません。私のセミナーの参加者に日本企業で働く利点を尋ねると、必ずと言っていいほど、安定性、長期的な視野、社員に対する忠誠といった答えが返ってきます。安定した大手の雇用主というのは、コミュニティの健康にとって重要です。どの国から来た雇用主でも、それは当てはまります。
Pernille Rudlinによるこの記事は、2014年6月11日の帝国データバンクニュースに日本語で最初に掲載されました
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