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2016年、イギリスではEUを離脱するかどうかの国民投票が行われる可能性があります。在英日本商工会議所で講演したセンター・フォー・ヨーロピアン・リフォームのチャールズ・グラント氏の発言で、この国民投票の結果としてイギリスがEUを離脱すると予想しています。
イギリスのEU残留派は、EU離脱派ほど資金繰りが潤沢ではありません。また、あらゆる政治的説得力を駆使してくるEU懐疑派の政治家もたくさんいます。イギリスのメディアもほとんどは、EU離脱を支持する色眼鏡をかけた報道を繰り返しています。
EUがイギリスに残留すべきとする理論は、外国直接投資や経済への影響など、おおむね技術的な視点に立っています。一方、EU離脱派のキャンペーンは、国家としての独立を脅かすといった感情的なアピールをすることができます。
イギリスの実業界の人々は全般的にEU残留を支持していますが、情熱に欠けるという点では、私もグラント氏と同意見です。また、イギリスがEUを離脱した場合の成り行きついて、ある種の自己満足があるようにも見受けられます。イギリスの企業は、イギリスはノルウェーのようになることができると思っています。何らかの自由貿易圏に属しながら独立を保ち、国としては繁栄できるという考え方です。しかし現実には、ノルウェーは、傍から見るほどEUの政策と無縁ではありません。にもかかわらず、EUの政策策定のプロセスに対して影響力は持たないのです。
私の日本関係のビジネスという視点から言えば、「ノルウェーのように」というのは、イギリスに大変な悪影響を招くと思われます。過去10年間に、70社ほどの私のクライアントにもゆっくりと統廃合の流れが及んできました。そうしたなかイギリスは欧州本社をコーディネートする重要な役割を果たしていて、企業はEU加盟国の人材プールを大いに活用していますが、これはイギリスから、あるいはイギリスへの人の動きを容易にするEUの自由移動政策のおかげです。こうした人材は、日系企業の欧州本社の社員として、あるいはそれらに対して法務、財務、コンサルティングなどのサービスを提供する専門サポート会社の立場で働いています。
日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、ヨーロッパ全域における日系企業の雇用者数は43万7,000人です。群を抜いてその恩恵を受けているのがイギリスで、日系企業に雇われている人数は14万人。ドイツの5万9,000人と比べてもいかに多いかが分かります。
とはいえ、ドイツも日系多国籍企業にとって魅力的な土地です。特にエンジニアリング系の企業にはそれが当てはまります。イギリスが国境を閉ざし、EUへの影響力を放棄したならば、日系企業が欧州本社機能をミュンヘンかデュッセルドルフ又はアムステルダムに移し始めることは簡単に想像できます。
私が話した在英の日本人ビジネス関係者は皆、イギリスにEUに残留してほしいと思っています。しかし、内政干渉のように見られるという恐れから、その立場を声高に言うのは避けているようです。
EU残留のメリットを説得する責任は、私を含め、会社の事業がEU全体にわたっているイギリス人のビジネス関係者の肩にかかってくるでしょう。これは雇用だけでなく、グローバルな舞台におけるイギリスのイメージにもかかわることです。「リトル・イングランダー」風の孤立主義によって、そのイメージにどれだけダメージが及ぶかを考えなければなりません。グローバル経済で役割を果たし、影響力を及ぼし、イニシアチブを取って率いていくことに消極的と思われれば、グローバルな企業のほうからイギリスに留まることなど願い下げだと言ってくるでしょう。
Pernille Rudlinによるこの記事は、2013年9月16日の日経ウイークリーに最初に掲載されました。
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