ノリッチに引っ越したのは今から2年弱前のことですが、こちらに来るなり驚かされたことがありました。当地の新しい税理士さんから「この辺りではユーロは取り扱いませんよ」と言われたのです。私の会社の売り上げの3分の1はユーロです。このため、ビジネスにとって良い場所を選んだのだろうかと不安を覚えずにはいられませんでした。私の主な顧客である日系企業がこの地域にあまりないのは事実です。でも、地域内には食品加工や風力発電など、イングランド東部の産業を反映する企業があります。
また、ノリッチはロンドンへのアクセスが至便です。こうしたことから、最近日本の保険会社に買収されたロンドンの会社から仕事を受けて、先月ベルギーへ行ってきました。
この出張中にはブルッヘを訪れてきました。ノリッチに似た側面があることに興味を覚えたからです。どちらも中世に栄えた川沿いの港町で、地元で作られた衣類の貿易が盛んでした。けれども産業革命に乗り遅れ、川の流れが淀んだ後は貿易も衰退しました。現代の産業には相違点があり、ブルッヘが主に観光経済で成り立っているのに対し、ノリッチには多様な産業があり、保険や他の専門サービス業界に入り込んでいます。
ブルッヘは、1988年に当時のサッチャー首相がさらなる欧州統合に反対する有名な演説をした場所です。この演説にちなんでブルッヘ・グループという名前を冠した団体が、最近ではイギリスのEU離脱を求める運動を展開するようになりました。
EU離脱派は、離脱こそが政治や規制に対する欧州からの干渉に終止符を打つ手段であると考えています。しかし、普通のイギリス人には、イギリスの国境を守り、特に欧州からのさらなる移民の流入を食い止める手段だと説明したほうが理解されやすいでしょう。
イギリス東海岸の他の港町は、ノリッチほど景況が芳しくありません。失業率が高いにもかかわらず、欧州から多数の人が流れ込んで、作物の収穫や食品の加工に携わっています。EU離脱を支持しているイギリス独立党は、この地域に強い支持基盤を有しています。彼らは、欧州からの移民がイギリス人の職を奪っていて、賃金を抑え込み、学校や病院に負担をかけているという見方を訴えています。
では、イギリスがEUを離脱することになった場合、日系企業はどうすべきなのでしょうか。おそらく、イギリスが業界の中心地である、あるいはイギリス市場そのものに魅力があるという理由でイギリス拠点に投資してきた企業は、今後もイギリスに留まるでしょう。しかし、イギリスを拠点に欧州全域の事業を展開している企業は、移転したり今後の投資を大陸欧州に傾けたりすることを検討するかもしれません。
欧州が過去40年にわたって追求してきた共通市場の形成と移動の自由を受けて、ほとんどの多国籍企業は組織構造を統合してきました。イギリスは、欧州本社機能のハブになることで、直接雇用と間接雇用の両方を生み出し、恩恵を受けました。が、この結果、ロンドンの事業経費は高騰し、雇用は東へ流れるようになりました。イギリス東部だけでなく、ポーランドといった国にまで及んでいます。私自身もポーランドでコンサルタントを雇い入れようとしている最中ですが、皮肉なことに、候補者のほとんどはイギリスで働いた経験を有しています。
Pernille Rudlin著 帝国データーバンク・ニュースより
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