8月、ヨーロッパではほとんどの人が2週間から4週間の夏休みを取ります。そこでビジネスが少し静かになるこの時期を利用して、私はオフィスを移転することにしました。といっても、今までのホームオフィスを、自宅の庭の反対側にある建物に移しただけのことですが。この引っ越しは、初めての社員を雇うための準備です。現在オフィスとして使っている自宅内の一室は、2人でシェアするには狭すぎるためです。
このようなオフィスの形態は、日本では珍しいかもしれませんが、イギリスでは最近とみに増えています。イギリスの中小企業の約半数以上(250万社)が、オーナーの自宅で営まれているのです。 オフィスの賃貸料がかからないことはもちろん、もろもろの付帯経費を節約できるメリットがあります。人事の観点からも、スタッフが社員ではなく全員フリーランスとして自宅で仕事をしていれば、はるかに管理が容易で安上がりです。とはいえ私は、右腕になってくれるスタッフが物理的に同じ部屋にいない状態でどこまで事業を成長させられるかという点で、本当に限界に達したという気がしています。
イギリスに進出する日本企業のほとんどは、バーチャルではなく物理的な事業拠点の開設を望んでいます。ロケーションとしては、製造業であれば、顧客の工場や物流センターの近くかどうかが重要な検討要因となります。イギリスのサービス業であれば、ロンドンへの至便なアクセスがとりわけ重要です。ロンドンには多くの顧客がいるうえ、人脈作りの機会やサポート組織なども多数あるためです。
ロンドン中心部はオフィスの賃貸料がとても高いため、プレステージの高い住所にあることが顧客や社員から期待されている会社(金融業界はこのパターンに当てはまる典型的な企業と言えるでしょう)でもないかぎり、ロンドン郊外かロンドン南東部を取り囲む様々な町に拠点を置くのがおそらく得策でしょう。
幸いなことに、私はすでに南東部に住んでいて、私の町にはユニリーバやエクソンをはじめ多国籍企業が数社存在しています。この辺りの町にはサービス付きのオフィスもあり、使用料は1人につき月200ポンド前後からです。この使用料には、光熱費、家具、受付など、ほとんどの経費が含まれています。
ただし、こうしたオフィスはほとんどがオープンなフロアプランの共有スペースになっていて、産業パークの中にあります。私は、自分自身の生産性にとって良い雰囲気ではないと感じたこと、それに社員になってくれる人にとってもあまり魅力的ではないように思えたことから、この選択肢は選びませんでした。
実際、オフィスの様子やロケーションに対して社員が魅力を感じるか、幻滅するかは、オフィス選びの際のもうひとつの重要な要素です。産業パークは多くの場合、お店やレストランから遠い場所にあって、通勤に車が必要です。イギリス南東部で働く人の多くは電車か車で1時間以上かけてこれらの産業パークに通勤していますが、人気企業はほとんどが、隔離された立地の短所を補うため、レストランやジムなどのすばらしい設備を提供しています。
私の会社では、庭の反対側のオフィスでジムやレストランを提供することはできませんが、せめて本格的なコーヒーメーカーぐらいは用意しようと思っています!
(帝国ニューズ・2013年9月11日・パニラ・ラドリン著)
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