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この記事が発行されるまでには、スコットランドが独立を選んでいるかもしれません。そうなれば、さしづめ「感情が理知を制した」と言えるでしょう。投票1週間前の世論調査では、独立に「イエス」の支持派と「ノー」の反対派がほぼ同数で、迷っている人が多数いました。この決められずにいるという人は、「頭」では独立すべきでないと思っているけれども、「心」が揺るがされている人たちです。グレートブリテン王国となって300年。今また独立して運命を自ら支配するという展望に、心躍るものを覚えている人たちです。
スコットランドとイングランドの企業も、ついに黙っていられない状況になりました。ほとんどは「ノー・サンキュー」の立場ですが、「ノー」は耳障りの良い言葉ではありませんし、その理由は脅迫のようにも聞こえます。独立国スコットランドの未来は不透明です。通貨ポンドを使い続けられるのか、使い続けるとすればどう統制するのかについて、難しい交渉が始まります。EUに加盟できるのか、いつ加盟できるのかに関しても、EUとの交渉を始めなければなりません。
イギリスも来年5月に総選挙を控えていて、保守党はEU離脱か残留かを国民投票にかけると公約しています。EU離脱を唱える独立党が最近の地方選と欧州議会選で躍進したことから、保守党が次期与党となるのであれば、イギリス国民がEU離脱に票を投じる可能性もかなり現実味が増します。
日本のビジネス関係者にとっては、自国の政治経済の安定を覆しかねない行動を国民が支持するとは不思議に見えることでしょう。政治経済の安定があったからこそ、外国投資がイギリスに流入してきたのです。けれども、この安定の歴史こそが、スコットランド人や他のイギリス国民に「なんとかなる」という自信をもたらしています。イギリス人は実利主義を誇りにしていて、最後はどうにか切り抜けられると思っているのです。
スコットランド独立の可能性に備えて、企業は緊急計画を練り始めました。「BREXIT」(British exit of the EU)の可能性にも備えていることは、疑いの余地がありません。スコットランドの首都エジンバラはロンドンに次ぐイギリス第2の金融ハブですが、ロイヤルバンク・オブ・スコットランドですら、スコットランドが独立を選ぶのであればイングランドへの本社移転を考えると表明しました。スコットランドのもうひとつの主要産業、石油業界も、民族主義の波で国有化が起こり得るという展望に戦々恐々としています。民族主義国家の進歩的な政策を支えるための法人税引き上げや信用低下の可能性は、どのセクターも恐れています。
日系企業(と他の外資系企業)がこの問題について立場を表明していないのは驚きではありません。意見を表明しても生産的なことは何もないからです。とはいえ、日系の銀行や建設・土木会社は、スコットランドと他のイギリス各地で社会基盤プロジェクトに投資してきました。スコットランド人の心が独立を選ぶとしても、如才ない合理主義で知られるスコットランド人の頭が最後は打ち勝ち、さらにイギリス人の実利主義がEUとの再交渉で頭角を現して、天変地異は回避できることを望んでいるはずです。
Pernille Rudlinによるこの記事は、2014年6月11日の帝国データバンクニュースに日本語で最初に掲載されました
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