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カタルーニャの独立をめぐる2017年の住民投票の直前に、出張で同州を訪れました。その後はドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州に行ってきましたが、そこでも最近の連邦議会選挙の結果をまだ消化しきれていない様子が伺えました。これらの出張が、イギリスの直面するEU離脱の問題とも重なって、あることを考えさせました。国レベルだけでなくローカルなレベルのアイデンティティが、ビジネスにとっていかに重要かということです。
スペインの日系企業の多くは、カタルーニャ州に事業拠点を置いています。カタルーニャがスペインで最も経済的に発展した豊かな州のひとつであり、フランスと国境を接し、国際的な港湾も複数あることを考えれば、事業拠点として選ばれるのは不思議ではありません。事実、カタルーニャ州の住民が独立を求める背景には、自分たちの払う税金で国内の他の貧しい地域が支えられていることに対する不満があります。
EU単一市場では、資本、労働力、そして物品とサービスが自由に移動できます。このことは、企業の資本を誘致しようとする国家間の競争だけでなく、国内の地域間の競争も生み出します。EUは、これが人件費、税率、資本コストなどの「底値争い」を招かないように努力しています。厳格な労働基準を制定し、課税逃れを取り締まり、民間投資の誘致を目的として加盟国政府が提供できる優遇策を制限しているのです。
2008年までは、このシステムがうまく機能していました。労働者は労働力が不足している域内の富裕な地域に流入し、資本は富裕な地域(と日本)から人件費の安い地域へと流れ込みました。
自由市場でのこうした流れは、やがてはEU全域の生活水準の均質化につながっていたでしょう。しかし、東欧諸国が新たにEUに加盟するようになり、そこへリーマン・ショックが重なった結果、資本は西欧や北欧の比較的安全な場所へ戻るようになり、これを受けて南欧や東欧の労働者は、職を求めて今まで以上に母国から大量に流出するようになりました。
この結果生じた緊張は、特にドイツに顕著に見られます。移民に反対する政党、ドイツのための選択肢は、先の選挙においても、富裕なノルトライン=ヴェストファーレン州ではほとんど支持を集めませんでした。日系企業の欧州拠点が集中しているのも同州です。しかし、ドイツ東部の旧共産圏では多大な支持を獲得しました。これらの地域では、依然として生活水準が西部よりも低く、不満が募っているうえ、他の東欧諸国からの移民が賃金をさらに引き下げるという不安感が高まっています。
ヨーロッパへの投資を考えている日系企業にとって、この種のローカルな感情は、買収先企業や事業拠点の選定にさらなる複雑さを加えます。とはいえ、日系企業が地元のコミュニティに対するコミットメントを示せば、現地の社員はそれに応え、同様の忠誠心とコミットメントを示してくれるでしょう。このことは、日本の自動車メーカーの工場(イギリスの最も衰退傾向にある地域で過去25年以上も操業してきました)に勤務する従業員のプライドや忠誠心によく表れています。これら工場の従業員は、EU離脱という向かい風を克服して事業を成功させるという固い意志を示しています。
Pernille Rudlinによるこの記事は、2017年11月8日の帝国データバンクニュースに日本語で最初に掲載されました
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