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日本企業のコーポレート・ガバナンス、特に内部告発に影響する重大な要因として、先輩・後輩の力学があります。先輩・後輩関係は、特に終身雇用を保っている大企業で大きく作用します。
一般に日本の学生が大卒後すぐに国内大企業に就職すると、入社時点で即座に、自分よりも目上に当たる先輩ができます。先輩・後輩の関係は、とりわけ同じ場所から来た者、あるいは同じ場所に属する者の間で構築されます。
つまり、同じ大学の出身者や同じ部署に配属された社員同士が、先輩と後輩の関係を持つようになるのです。あるいは、部署が違っていても、共通の知人や親戚、または同じ出身地といったつながりで、先輩・後輩の関係ができることもあります。先輩はたいていの場合、メンターとなりますが、しかしそれ以上によくあるのが、部署や事業部門の派閥に先輩と後輩が一緒に所属するようになることです。
経営幹部レベルの指名は通常、派閥間の駆け引きや先輩からの後ろ盾に基づいて交渉されます。このため、強力な派閥の後ろ盾があれば、たとえどんなに不適材に見える人物でも、組織から単純に追放したり周辺へと追いやったりするのは非常に困難です。
忠誠と義務を伴う強い仲間意識が先輩と後輩をつなぎとめ、約30年にわたる雇用期間を通じてしっかりと固められていくのです。
ですから、会社の不正行為を告発するのはもとより、重大な過ちを指摘することすら、社員にとって難しいことは容易に理解できます。一般に日本や他のアジア文化では、自分のグループに所属する仲間に面目を失わなせるようなことはしません。先輩の顔を潰すなど、ほとんど考えられないのです。そのようなことが実際に起きるとすれば、先輩・後輩関係に取り返しのつかないダメージが及び、あらゆる感情の渦巻く状況が生じることは間違いありません。
このような世界にあって、経営コンサルティング会社や法律事務所、監査事務所など、外部からアドバイスを提供する専門サービス会社として立ち回るのは容易ではありません。職業人としての自分の行動規範に照らして明らかに修正の必要がある問題を診断したとしても、それを指摘すれば顧客から、社内の微妙な人間関係に波紋を投じることになると警告されるのです。
私が聞いたある若手監査人の話ですが、顧客企業で長年にわたる会計帳簿の虚偽計上が分かったため監査保証の署名を拒んだところ、あなたが署名しなければ会計監査を今まで担当してきた御社の先輩の顔を潰すことになると言われたそうです。それまでその監査法人の先輩たちは、会計報告の矛盾を承知のうえで物議をかもさず署名してきたのでした。
主義や原則に反することに立ち向かったり、正しいと信じることを貫いたりすることは、きわめて勇気のいる行動です。自分を支えてくれている人たちを傷付けると知りながらそれをするのは、愚行以外の何ものでもないと言う人もいるでしょう。
2011年10月31日 パニラ・ラドリン著 Nikkei Weekly
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