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イギリスのメディアはここ最近、日本のビジネスの話題を盛んに取り上げてきました。日本で6月1日に「企業統治原則」の適用が開始されたためです。企業統治はイギリスで今もホットなトピックです。23年前に「キャドバリー・レポート」で今の日本の原則と同様の勧告が打ち出され、以来、EUや米国の規制に大きく影響してきました。
イギリス企業の取締役会では社外取締役がいるのが普通になりましたが、多様性がないという懸念は今も払拭できていません。「オールド・ボーイズ・ネットワーク」と呼ばれるものが、取締役の指名においては作用しています。自分と似た人を雇いたいと思うのは、人間の自然な本能です。その結果、公募をせずに人脈を通じて多くの指名が行われています。
企業統治をめぐる別の勧告に、2011年に発行された「デービス・レポート」があります。このレポートでは、FTSE100銘柄の企業に対して2015年までに女性取締役の割合を25%とすること、FTSE350銘柄の企業に対して2013年と2015年時点の女性取締役の割合の目標値を出すことを求めました。今年3月に発行された最新の年次報告書によると、執行幹部以外のポストや社外取締役では女性の割合が増えていますが、社内取締役の割合は依然としてきわめて低い状態です(FTSE250銘柄の企業で4.6%)。
オールド・ボーイズ・ネットワークに加えて、取締役会は、業界で高い実績がある人や財務を専門とする人を指名したがる傾向にあります。けれども女性は、ジェネラリスト的なキャリアを積んできたか、人事やマーケティングの専門家であることが多いのです。IT、金融、エンジニアリングといった、これまで伝統的に男性社会だった業界では、高い地位に上り詰める女性が今も欠如しています。
様々な専門性やバックグラウンドを取り込んで取締役会の多様性を実現するそもそもの目的は、取締役会での議論を活性化して情報の透明性を高めることにあります。それによって企業統治、革新性、リスク管理が向上すると考えられるためです。会社や業界のことを熟知していない人に物事を説明しなければならない状況に置かれることで、不注意な思い込みを発見し、新鮮な見方を持てるようになる可能性があります。
イギリスで事業展開する金融・保険業界の日系企業は、最近、金融規制当局であるPRA(プルーデンス規制機構)から厳しい目を向けられています。PRAは、業界企業で指名される取締役を面接して承認する権限を有しており、また「ボード・パック」と呼ばれる取締役向けの一連の文書や取締役会の議事録を確認する権限も持っています。
最近指名された日本人の取締役は、PRAが尋ねる標準的な質問に答えるのに苦労しました。それは、「なぜこの役職に就くことにしたのですか」という質問です。単に日本の本社から取締役になるよう言われたため、というのが現実だからです。イギリスで行われる取締役会のミーティングは、基本的に事前の根回しで決まっていることを確認するだけの内容です。このため、ボード・パックや議事録はほとんどなく、しかも日本語です。
日本で取締役会の多様性が高まるのに伴って、日本企業がもっと多くの情報を開示し、意思決定の透明性を向上させることが望まれます。そうすれば、海外子会社の取締役会もうまく機能するようになるでしょう。
Pernille Rudlinによるこの記事は、2015年7月8日の帝国データバンクニュースに日本語で最初に掲載されました
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