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どこまでやっても終わりがない仕事のことを、イギリスでは「フォース橋にペンキを塗る」ような仕事だと言います。フォース橋というのは、エジンバラ近郊に19世紀に建造された全長2.5キロ近い鉄道橋です。カンチレバー橋と呼ばれる設計で、非常に特徴ある見た目のうえ、赤い塗装が施されています。片端から塗装していくと、全部終えるまでには最初の頃に塗装した部分にまた塗り替えの時期が来るとされています。
イギリスのEU離脱は、イギリス企業にとって、まるでフォース橋のような状況になってきました。当面の決定事項に対応するための準備をようやく終えたと思ったら、新しい交渉が始まって、また新たな可能性が生じるのです。
私が作成している在英日系企業のデータベースも、やはりフォース橋です。現状を明確に把握したと思うそばから、追加すべきデータが出てきます。政府が提供している無料のオンラインデータベース「Companies House」には、イギリスで法人化されている企業すべてが毎年報告書を提出しなければなりません。一定規模を超えていれば、リスク要因を特定してその緩和策として何をしているかも説明する必要があります。
私はこの報告書を使って、従業員数、売上高、資本金など、他から入手できる情報を照合しています。ですから、イギリスには日系企業(支店を含む)が1,000社以上あり、その従業員数は16万人超、総売上高は1,000億ポンド前後だということが、ある程度の確信をもって言えるのです。また、日系企業がイギリスのEU離脱のためにどのような策を講じてきたかも分かります。
その多くはすでに報道されてきました。物理的に製品を動かしている企業、例えば自動車、製薬、エレクトロニクス業界などの企業は、すでに在庫や倉庫を拡大し、物流の見直しを行いました。金融や製薬のように多数の規制要件の適用対象となる企業は、EU域内の事業拠点を強化して、サービスや製品に関する事業許可をEUに申請しました。
組織構造上の変更も導入されています。大手日系企業の多くは、以前から欧州事業を持株会社体制にして、たいていは持株会社をイギリス、オランダ、ドイツのいずれかに置いてきました。エレクトロニクス業界の企業や商社は、イギリス拠点をEUにある持株会社の支店や「コミッション制のエージェント」に変更することで、契約主体が在EUになるようにしています。また、イギリスに留めておく資本を減らした企業もあります。
これらの対策が即座に雇用に劇的な悪影響を及ぼしているわけではありませんが、長期的にはイギリス企業の影響力を弱め、予算も縮小させると、私は懸念しています。
とはいえ、在英日本商工会議所の新年会のムードは、非常にポジティブでした。スピーチに立った人たちは一様に、日本とイギリスには共通の利益が多数あり、これからも共に前進していかなければならないと訴えていました。在英日本商工会議所の加盟企業数は、過去最高に達しています。食品、小売り、公共事業など、主にイギリス国内市場の開拓を目指して新たに進出してくる日本企業が増えているためです。この新年会でも、2018年に初のイギリス支店をロンドンに開設した青山フラワーマーケットが見事なフラワーアレンジメントを提供していました。
この記事はパニラ・ラドリン著「ユーロビジョン: 変わりゆくヨーロッパで日系企業が信頼を構築するには」に出てます。Kindle版とペーパーバックはamazon.co.jpでご注文できます。
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