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高校時代に日本の家庭にホームステイをしていた時、外出するたびにホストマザーから行き先を尋ねられたので、それに慣れる必要がありました。自分の家だったら、「出かけてくるね!」とだけ言って、すばやくドアを閉めていたことでしょう。自分の予定に親が介入するなどもってのほかだと思っていたのです。でも、日本のホームステイ先のホストマザーが私に行き先を尋ねる時は、「介入」などという隠れた意図はまったくなく、単に知りたいという気持ちで聞いているのであって、子供のことを気にかけている姿勢の表れにすぎないのだということを、私もすぐに学びました。
日本の企業社会では、隠れた意図は存在するものの、「情報があったほうがいいから情報を求める」という姿勢は続いています。日系企業で働いている日本人以外の社員から、日本人の同僚から聞かれる質問の数がとにかく多すぎるという不満をよく耳にします。重要とは思えないような詳細にまで踏み込んで質問してくるというのです。
こうした不満を口にする外国人社員は、答えれば約束したと見なされることを恐れています。計画の詳細を逐一説明する前に、事業上の理由を整理したり戦略を明確にしたりする余地を与えてほしいと感じています。あるいは、私が高校生だった時のように、何か思惑のある質問なのではないかと疑っているだけのこともあります。
こうした態度に対して日本人の社員が苛立ちを感じている様子も伺えます。彼らにしてみれば、詳細が分かり次第すべて把握して、日本の関係者に報告する必要があるためです。「海外」や「グローバル」の付く肩書きを与えられている社員は、海外事業部門で何が起こっているかを即座に回答できる必要があるのです。現地の市場や文化がどんなに複雑であるかは考慮されません。現地の「ネタ」、すなわち内部の実情に通じていることは、彼らにとって「通貨」に等しいのです。日本人は、どんなことにもうわべと実情があるという考え方に慣れ親しんでいるため、実情を知っていると称する人が実権と知恵のある人だと見なしがちです。
それとは対照的に、欧米人の多くは、自分に直接関係する世界以外のことに対して驚くほど無頓着です。米国的な経営を実践している多国籍企業は、明示的な知識に基づいて物事を進める傾向にあります。グローバルな管理職者に向けて配信される定期的なアップデートのほか、週1回の電話会議などを介して、設定した目標値をどれだけ達成したかが報告され、達成できなかった部分については議論が行われます。この結果、米国的な多国籍企業は、本社に通じる情報網としてあらゆる事業部門に駐在員を置かなければならないと感じている日本の多国籍企業と比べて、本社から海外事業部門に派遣される社員がはるかに少なくなります。
私自身は、日本人以外のスタッフが感じている懸念に同感する部分もあります。日本人の社員同士でカジュアルに共有されている情報は、日本のヒエラルキーで上申され既成事実となって海外のスタッフに降り戻ってくる傾向にあるためです。海外のスタッフは、その計画を約束した覚えもないのに、その未達成を指摘されてしまうのです。また、インフォーマルな情報共有のやり方に馴染んでいる日本の本社のスタッフは、海外の同僚に対して情報を明確に共有することをしません。
情報の流れがうまく機能するには、双方向でなければなりません。ということは、私も高校時代、ホストマザーに今日は何をする予定なのと聞いてみるべきだったかもしれません。私が気にかけていることが伝わり、喜んでもらえたことでしょう。
この記事はパニラ・ラドリン著「ユーロビジョン: 変わりゆくヨーロッパで日系企業が信頼を構築するには」に出てます。Kindle版とペーパーバックはamazon.co.jpでご注文できます。
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