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前項で、日本のカスタマーサービスは物づくりに繋がっているのではと申し上げました。通常、物づくりという言葉はサービス産業でなく製造業で使われる言葉で、社会的にもとても重要な概念なので、どうして物作りがカスタマーサービスなの?とお思いの方もおられると思います。ここでこの言葉の意味するのは熟練技能であり、これは手作業を通して名工たることへの誇りを意味します。
幼少期に私は仙台に住んでいたのですが、ある時私達の住む一風変わった異人館を、大工さん達が修理していたことがあります。ある日私が学校から帰ると、休憩時間にその大工さん達は私が収集していた切手で折り紙の鶴を折っていたのです。私は大事な切手収集をだめにされてぶすっとしてしまったのですが、私の両親は大工さんのごつごつした手がこれほど繊細で器用に折り紙を折ることが出来るのを見て驚嘆していました。
私は折り紙を日本の幼稚園で習ったのですが、うまく折れたことが一回もありませんでした。上手に折ろうと思う半面、正確無比に紙を折る我慢強さが足りなかったのだと思います。そのせいか、私は日本のデパートで買い物をする度に、その品々を上手に包装する販売員の器用さには感動しない訳にはいきません。クリスマスプレゼントの包装が苦手な私にとっては、特にこの時季になるとそれを思い出します。
私は幼少期に日本舞踊も習いました。折り紙も勿論の事、茶道や剣道のように日本で広く伝授されている芸事の真髄には、体の動きだけでなく、対象となる物をいかに扱うかが重要視されます。例えば、着物をきれいにたたむとか、また扇子を美しく開く、という事が、実は日本でのカスタマーサービスが品よくきちんとに提供されている背景にあるのだと思います。
このような技術は英国の学校では通常教わりません。その為、英国では贈り物を包装するというサービスは提供されませんし、もしされたとしても、何ともお粗末なものです。実際、包装については通常英国では特別に頼まないとなりませんし、しかも料金がかかります。最近私が訪れた店で、唯一贈り物の包装が無料で、しかも綺麗に仕上げてくれるお店が、ロンドンのJermyn 通りにあるFlorisでした。ここは家族経営で、伝統的な製法の香水を売っています。一見したところ販売員は家族の一員ではないのですが、誇りを持ってとてもいい対応をしてくれたばかりでなく、充分な商品知識を持ち合わせていました。
深い商品知識とそこから生まれる誇り、という点では、もう一つのチェーン店が思い浮かびます。このお店は常にいいサービスを提供するという事で話題の、Majesticというワイン専門販売店です。Majesticはカスタマーサービスが会社のブランドであるとして、そこに大きな力点を置いています。そのため、社員のトレーニングにたくさんの力を注ぐのですが、恐らくこれがMajesticのワイン愛好者を惹きつける理由なのだと思います。そして更には彼らの深い商品知識と誇りあるサービスがお客様に大きな満足をもたらしているのではないでしょうか。
物づくりには双方向性が大切です。提供する側・される側とも、物づくりの宿す技能と知識を深く認識する必要があります。英国の消費者は日本のように、物づくりへの深い認識を養われていない為、サービスを提供する側も自分達の対応に誇りを持てないという結論に至るのだと思います。
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このシリーズは人材紹介会社のセンターピープルのご協力の上提供させて頂いております。
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