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以前から思っていたことですが、先日、日本エマージェンシーアシスタンスの吉田一正社長の講演を聴きながら、あらためて思ったことがありました。英語の「リスク」に相当する日本語の言葉が存在しないという事実です。吉田社長がプレゼンのスライドで「リスク」の定義を説明した際にも、カタカナで書かれていて、これが外来の概念であることを示唆していました。吉田社長いわく、「リスク(risk)」は危機が発生する潜在性であり、その潜在性が現実になれば「脅威(threat)」、そして有害な事態になれば「危機(crisis)」とのことでした。
でも、「危機」が「リスク」の代わりに使われていることもあり、このため「risk management」と「crisis management」を日本語で区別しようとすると問題が生じます。多くの場合、前者は「リスク・マネジメント」という外来語で、後者は「危機管理」と日本語で語られているように見受けられます。
そこで、なぜ日本語に「リスク」に相当する言葉がないのかを吉田社長に聞いてみたところ、同感といった面持ちで、特に日本は自然災害が多いことを考えると不可解だと語ってくれました。危機が目の前で起きれば対処できるけれども、事前には対処できない日本人のマインドセットに関係があるのではないかと、吉田社長は考えていました。それゆえに、東日本大震災が福島原発事故という人災につながったように、自然災害がさらなる危機に発展しないように予防することにかけては日本人は得手でないという見方でした。
たいていの人は、リスクの評価やリスクへの対応は得意ではありません。個人的にコントロールできない状況(飛行機の墜落やテロ)に直面する可能性をはるかに過大評価し、コントロールできると思う状況(道路の横断やスキー)のリスクははるかに過小評価しています。このため、地震や火山や津波といった大規模な自然災害に定期的に見舞われてきた歴史こそが、日本人を麻痺させるのかもしれません。言わば「まな板の上の鯉」という心境でしょうか。
危機がそもそも発生しないようするための努力は盛んに行われていますが、避けられないリスクに対処するための計画を策定する努力はそれほどでもありません。そして、危機が発生すれば、通常は対処するよりも隠匿されています。日本企業は、間違いが起こった後に導入された再確認と再々確認の手順でいっぱいです。
吉田社長は、日本企業がすべきことについて明確な考えを持っていました。「リスク」を担当する執行幹部を指名することです。しかも、この役職者は、事業部門の管理職から横すべりするような形で指名されるべきではありません。社長に直結するパイプを持ち、事業部門に司令を出せる必要があります。このため、この役職は要職であると社内で認められなければなりません。スペシャリストをこの役職に就けるか、さもなければ将来社長になるうえでこのポストの経験が必須とすべきです。そして、吉田社長の言葉を借りるならば、「逃げ隠れしない」人物でなければなりません。世の中はますますリスクの高い、不透明な世界になりつつあります。グローバルな「リスク」を翻訳する担当者が、日本企業に求められています。
パニラ・ラドリン著 帝国データバンクニューズより
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