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最近、弊社の顧客データベースをクラウド・ベースのサービスプロバイダに移行したことで、LinkedInなどのソーシャル・ネットワークとクロス検証できるようになりました。この更新作業を通じて、日系企業の顧客が欧州でどのように組織を編成し、どこに本社を設置しているかに注目してみました。
私の分析は決して統計的なものではありません。また、私自身がイギリスで勤務しているため、イギリス拠点の企業が多いと思います。それを考慮しても、日系企業の欧州本社はイギリスに最も多く、先のデータベースで本社企業96社の例を挙げると、イギリス(53社)、ドイツ(24社)、オランダ(10社)、ベルギー(5社)、フランス(2社)、スイスとポーランド(各1社)と続きます。
もちろん、欧州本社を設置しない日系企業も多数ありますが、欧州で長く事業を展開してきた企業は、財務や調達系の業務や人的資源を欧州に統合する傾向にあります。この流れはイギリスにとっても優位に働いており、ビッグバン以降のロンドンは、金融のみならず、マーケティング・法務・コンサルティングや人材面において確実に欧州のトップ、あるいは世界でも有数なサービスレベルを誇ります。
古くからイギリスは日本からの直接投資を受けてきました。英語、ゴルフ、開放経済などの影響など、その理由は多々あります。一方、ドイツも人気の地で、特に技術系の会社は、ドイツ流のプロセス志向とリスク回避体質に親近感を感じています。また、富士通とシーメンス、デンソーとボッシュのような提携が古くからあったこともプラス要因で、なかでもノルトライン・ヴェストファーレン州は、60年代から日系企業を積極的に誘致してきました。例外的にソニーは当初、ベルリンに拠点を開設しましたが、これは、初代社長の大賀典雄氏がベルリン国立芸術大学を卒業したことから、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団に近い場所を選んだと噂されています。
また、近年ではオランダも人気の拠点国となりました。優遇税制に加え、ベルギーと同様に欧州の物流拠点であることが、その理由です。ただし最近は、これら本社はイギリスに拠点を移す傾向にあるように見えます。キヤノンは、オランダからロンドン近郊のアックスブリッジへ移転しました。最近ボッシュとの資本関係を解消したデンソーも、本社は今もオランダにありますが、欧州事業のキーマンはイギリスをベースに活動していると見受けられます。2009年にシーメンスと袂を分けた富士通の欧州事業は現在、欧州大陸、ノルディック、イギリスとアイルランドの3つに分散しています。
ソニーはベルリンの本社ビルを2008年に売却し、現在は欧州全域の営業・マーケティング業務をロンドン南西のウェイブリッジに統合しつつあります。ただし、ソニーの場合は、欧州の組織を「バーチャル」構造にしようとしているようです。人事の共通業務部門は現在トルコにあり、欧州事業の上級幹部は、各自の希望で拠点を選ぶそうです。この流れは、NTTデータをはじめ情報通信業界の他企業でも顕著に見られます。
このような欧州組織のバーチャル化も、イギリス経済に多大な恩恵をもたらします。あらゆる国籍の上級幹部が、ロンドンとその近郊に住んでいるか、住んでも良いと考えているからです。人口の40%以上が非イギリス出身者で占められているロンドンは、真に世界の首都、グローバルなキャリア発展の地となっているのです。
(帝国ニューズ・2013年4月10日・パニラ・ラドリン著)
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