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馬との関係が深い英国の友人に馬刺しを食べることを話すと、かつて彼らは、あまりの野蛮さから恐怖におののいたものだ。しかし、近年スーパーで販売されているハンバーガーやラザニアなどに入っている牛肉が馬肉混合である事実を知った時、気付かずに食べてしまった嫌悪感よりも、食品の中に何が含まれているかを把握していないことへの恐れの方が遥かに強かった。
英国人は一般的に馬肉を食べないが、他の欧州諸国の多くでは食品として認識されている。英国人の中流階級者は、ここ十年で、食品の質に高い関心を抱くようになった。料理に関するテレビ番組も多数(日本ほど多くないが)放映され、レストランのクオリティも向上している。問題なのは、サプライ・チェーンが複雑化したことで、食品に含まれる成分(材料)が何で、どこから調達したのかを把握できなくなっている点にある。
このサプライ・チェーン問題は、オランダからルーマニアまでほぼEU全諸国にまたがっており、食べ物の季節感や質の高さにこだわるフランス人やイタリア人を悩ませている。評論家はこの問題を、低価格指向の低所得者層を問題の根源であると非難、また、スーパー間の熾烈な価格競争が、サプライ・チェーンへのプレッシャーへとつながり、品質管理がおろそかになってしまったとしている。スーパー側は自己防衛の手段として、単に顧客の要望するものを提供しただけだと主張し、サプライヤーを非難。
低所得者でも、スーパー側は顧客を裏切りたくないのだ。このためスーパーは農場と卸売間の仲介業者を排除したり、肉類の加工を店内で行うなどの手段を講じている。
日本の自動車メーカーとサプライヤー この流れは、80年代の米国自動車産業に酷似している。米国自動車メーカーは価格競争のため、サプライヤーへ一方的に値下げを強要、結果として品質を妥協した。一方、日本の自動車メーカーは、サプライヤーと相互に協力し手頃な価格で上質な自動車を生産し市場を独占していった。
欧州市場に参入した際も日本の自動車メーカーは自社サプライ・チェーンを欧州に再現した。地元サプライヤーを日本と同レベルに引き上げ、日本国内と同様の生産体制を築いた。それは彼らが品質がもたらす自社ブランドの重みを認識し、それを顧客への責任と考える企業精神にまで及んでいた。
とりわけ、品質の問題が発生すると、日本の自動車メーカーは、顧客に向け公に謝罪を行い、製品をリコールする。問題の根本的な原因がサプライヤーの欠陥であっても、サプライヤーの名前を公に出すことはない。ブランドの所有者である各メーカーが、すべての責任を取る。顧客は誰かに責任を押し付けるような言い訳を聞きたくないことを十分理解しているからだ。日本は独自の食品汚染スキャンダルを経験してきたが、沈静化させてきた。日本企業はサプライ・チェーンをとても上手に管理している。
頻繁に欧州ブランドを買収している小売・食品や、グローバル化を目指して躍進する次世代の日本企業が、信頼のおけるサプライ・チェーンを欧州に築けるか、いまここで試されている。牛肉問題で消費者が商品購入に慎重になっている欧州市場において、それは同時に期待でもある。
パニラ・ラドリン著
日刊帝国ニューズ2013年3月13日より
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