This post is also available in: 英語
私の夫は、今、単身赴任中です。毎日通勤するには遠すぎる全寮制の学校で働いているためです。一人暮らしのアパートは、かつてサナトリウムだった建物を改築した集合住宅です。第二次世界大戦前に結核患者を隔離するために建てられました。抗結核薬が発見される前は、新鮮な空気に触れて屋外で寝るのが結核の治療法と考えられていました。そのせいで、夫の住むアパートは、大きな窓とドアからひどい隙間風が入ってきます。建物にはセントラル・ヒーティングがありますが、寒いことこの上ありません。
新鮮な空気に触れて屋外で寝るという発想は、実際には結核を治癒する効果はありませんでした。が、部屋の換気を良くすることで、他の人への感染を防ぐことはできました。同様に、屋外で寝ずとも、横になっていることで症状が和らいだのも事実です。
世界中で新型コロナウイルス感染症が拡大していますが、ヨーロッパでかつて結核がどのように対処されたかについて考えみると、各国が疫病に対してどのような歴史を持っているかが、文化の違いになって表れているように思えます。また、今でも医療分野の製品やサービスには、文化の違いが色濃く見られます。
中世ヨーロッパのペストは、ノミによって広まりました。そして、感染した家族、町、時には地域一帯を隔離することで、疫病をコントロールしようとしました。19世紀のコレラやチフスは、汚染された食べものと水が主な原因でしたが、ヨーロッパ北部の国が産業化して公衆衛生が改善し、食べものと水の質が向上したうえ、抗生物質が発明されたことで、押さえ込めるようになりました。
日本では天然痘が多く、少なくとも8世紀からありました。子供が多くかかる病気でした。長い時間にわたって近接していること、とりわけ皮膚の接触によって感染します。このため、日本では主に家族や村のレベルで天然痘が管理されました。
日本人がヨーロッパの人ほど握手や抱擁やキスをしない理由はこの歴史にあるのではないかと考えずにはいられません。また、日本人が今でもハンカチを携帯して、洗った手を拭くのに使っている理由も、ここにあるのかもしれません。ヨーロッパでは、ハンカチは鼻をかむ時に使うものです。
新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、イギリスでは、手を石けんで洗い、手を洗えない時は消毒ジェルを使用し、鼻をかんだり咳やくしゃみをしたりする際はティッシュペーパーで口を覆って即座に捨てるようにという勧告が出されています。また、握手も避けるようにと言われています。もともとイギリス人は、ドイツ人ほど握手はしませんし、イタリア人ほどキスや抱擁をすることもないのですが。
この政府勧告が出た結果として、消毒ジェルはどこも売り切れの状態です。おかげで、インフルエンザは劇的に減少したそうです(イギリスでは毎年数千人の死者が出ます)。もしかすると、イギリス人は、国の医療制度や行政の介入に依存しすぎるようになっていたかもしれません。今になって、自分が主体的に行動しなければならないと気付いて、古いメソッドに戻っているのかもしれません。夫が取った行動も、まさにそれでした。暖を取るために、湯たんぽを買ったのです。昔ながらの方法が、危機の最中に安心感をもたらしています。
Pernille Rudlinによるこの記事は、2020年4月8日の帝国データバンクニュースに日本語で最初に掲載されました
For more content like this, subscribe to the free Rudlin Consulting Newsletter. 最新の在欧日系企業の状況については無料の月刊Rudlin Consulting ニューズレターにご登録ください。