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日本企業や日系企業にサービスを提供している会社にとって、日本企業による買収の波が続いていることが、現時点で唯一の新規事業開拓の機会のように見受けられます。日本の国内市場が飽和した成熟状態にあるうえ、国外の優良企業が安価に買収されている現状を見れば、日本企業が再生と成長の方法として買収を選ぶのは驚きではありません。
欧米企業も、アジア企業に保有されることを受け入れるようになっています。アングロサクソン流の資本主義が引き起こす破壊に疲弊した欧米企業の間では、短期的な株主重視の経営ではなく、より長期的にステークホルダーを重視する姿勢を見直す時なのではないかとする議論が渦巻いています。
もちろん、この議論は以前にも行われたことがあります。1980年代に日本経済が躍進した時代には、日本的な価値観が脚光を浴びました。終身雇用、集団志向、長期的な観点、利益よりも成長を追求する姿勢などです。しかし、1990年代には、その同じ価値観が日本経済の低迷の原因とされました。現在の資本主義の形態に代わるものが本当に必要なのかどうか、儒教的な資本主義がベストの代替なのかどうかの議論は、間違いなく今後も続けられるでしょう。
しかし、その議論が続く間にも、外国企業を買収した日本企業は、独特な日本の企業文化や価値観を適応させるべきかどうか、どのように適応させるべきかという問いへの答えを見つけなければなりません。
とはいえ、選んだ道にかかわらず、多くの日本企業は、重要なツールを使わないがために失敗してきました。そのツールとは、社内コミュニケーションです。その例をひとつ挙げましょう。日本企業に買収されて2か月というイギリス企業でセミナーを開催した時のことです。ある参加者がセミナー終了後に私のところにやってきて、目に涙を浮かべながらお礼を言ってくれました。買収された後、何が起こっているかを深いレベルで説明してくれた人が今まで一人もいなかったというのです。彼女のチームメンバーは、まるで暗闇に置き去りにされたように感じていました。
また、別の会社で開催したセミナーのある参加者は、現地法人の社員がイギリスの業界誌で報じられたニュースを読んで自分たちの会社に関する重要な情報を知ったことがあったと話してくれました。
情報が共有されないことについて日系企業に勤務しているヨーロッパの社員が不満をこぼすのを、私は今まで幾度となく耳にしてきました。日本の同僚に情報を求めたかどうかを聞くと、たいていは求めておらず、向こうから情報を共有してきてくれるものと期待していたという答えが返ってきます。
日本企業の多くは、社内コミュニケーションの部署を有していません。社内広報の責任者から、新しい日本の親会社に自分と同じ役割の人がいないという話をされたこともあります。日本の会社には、「以心伝心」のような伝統的なやり方で社員が会社の戦略や文化を理解していくと考える節があります。もちろん、こうした考え方は、日本で勤務していない社員や日本語を話さない社員には通用しません。にもかかわらず、当たり障りのない社内文書ですら、英語に翻訳すれば重要な企業秘密が漏えいするという恐怖心があるように見受けられます。
会社の価値観や戦略を理解する作業を意図的に社員任せにしておくことが、それ自体、会社の価値観になっているのです。このことをひとたび理解すれば、私もその考え方には賛同できる部分があります。社員を大人扱いしていることを意味するからです。とはいえ、どんなに逆説的であれ、日本企業がグローバル化するなかでこの価値観を守りたいと思うのであれば、それを明示的にコミュニケーションする必要があります。
この記事はパニラ・ラドリン著「ユーロビジョン: 変わりゆくヨーロッパで日系企業が信頼を構築するには」に出てます。Kindle版とペーパーバックはamazon.co.jpでご注文できます。
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