This post is also available in: 英語
イギリスや他の国で、小売業界に逆風が吹き荒れています。イギリスのスーパー、服飾ブランド、家電店はいすれも、閉店の憂き目を見てきました。Eコマースの破壊的な影響がその原因です。高級スーパーのウェイトローズまでもがアマゾンの買収標的にされているという噂です。
この状況は、日本の小売店やEコマース会社にとって、あらためて海外進出を狙う好機かもしれません。挫折した楽天の代わりに入り込む隙があるのです。明らかにメルカリはそう考えているようで、米国進出をこのほど発表しました。
ただし、単純にオンラインで安く販売するという破壊的なアプローチではなく、日本企業ならではの革新的なサービスを打ち出し、世界に知られる「おもてなし」の価値を届ける方法はないものだろうかと、私は思います。
最近私は、ロンドンのリージェント・ストリートにオープンしたコス(スウェーデンのH&Mと同じ経営母体の中流ファッション・ブランド)の旗艦店に行ってみました。爆買いをしている中国人観光客でいっぱいでしたが、地元の人たちも混じって、山のように試着している光景がありました。決して居心地の良い場所ではなく、商品のほとんどにメイクがこびりついていました。こんな商品を誰が買うのだろうと思ったところで、地元客は店で試着した後、オンラインで買っているのだということに気付きました。
であれば、店員さんには、良いサービスを提供しようとか陳列棚を美しく見せようといったインセンティブはないはずです。セールスのコミッションやお客様からの感謝の言葉は期待できず、売り上げに貢献しているという直接的な感覚はほとんどないからです。しかし一方で、一等地に店を構えた小売店が純粋なオンラインの会社と競うならば、実店舗での体験が今まで以上に重要です。
この点は、地元企業の女性経営者ネットワークに参加した際にも強調されていました。この会の講演者は、女性向けの高級ファッション・ブランドを立ち上げた経営者でした。イタリア製ウールを使用したテイラーメードの色鮮やかなドレスを500ポンドという価格帯で販売しています。非常にパーソナルなサービスを提供していて、実際、お客様は彼女と1時間半過ごすために多少のプレミアムを払ってもいいと考えているのだと、この女性は説明していました。
この会の参加者は彼女のブランドの固定客になるほど裕福ではないかもしれないうえ、店から2時間も離れた場所での会合だったというのに、なぜ無償の講演に応じたのかと考えずにはいられませんでした。しかも、講演の後にキャリアのアドバイスまでしてくれました。考えるに、この講演でも話していたとおり、少なくとも最初は相手から何かが返ってくることなど期待せずに、こちらからできることをするという、彼女の価値観を実践する行動だったのでしょう。これは「おもてなし」の深い意味に通じます。「ホスピタリティ」という英語に相当する意味ではなく、自分のことを考えずに相手のために尽くす心。日本のカスタマーサービスが世界に知られる理由でもあります。
スタートトゥデイをはじめ、いくつかの日本のアパレル企業は、パーソナルなサービスをオンラインで再現しようとしています。他業界の日本企業も、日本国外の実店舗とオンラインの両方でこれを実現できるなら、どんなにすばらしいことかと思います。そのための貸店舗物件なら、いくらでも存在しています。
Pernille Rudlinによるこの記事は、2018年6月13日の帝国データバンクニュースに日本語で最初に掲載されました
パニラ・ラドリン著「ユーロビジョン: 変わりゆくヨーロッパで日系企業が信頼を構築するには」にも出てます。Kindle版とペーパーバックはamazon.co.jpでご注文できます。
For more content like this, subscribe to the free Rudlin Consulting Newsletter. 最新の在欧日系企業の状況については無料の月刊Rudlin Consulting ニューズレターにご登録ください。