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高齢化する労働力への対応

昨年12月、1年半ぶりに日本へ行ってきました。通常は年に1度は日本へ行き、微妙な変化を観察するようにしています。日本に住んでいた期間を含め、過去40年にわってこのような観察を続けてきました。

今回は、日本が少し「元気さ」を取り戻しているように感じられました。2011年と2012年に訪れた時は、全体として陰うつなムードが漂っているように見えたものです。しかし同時に、東京が「スロー」になったようにも感じられました。高齢者の割合が高まっているのは見た目にも明らかでしたが、若者も歩き方が遅くなっていました。スマートフォンを見ながら歩いていることも一因だったかもしれません。

日本の「やさしさ」や文化的な豊かさは、年を取る場所として理想的な国を作り上げています。もちろん、今の高齢者が幸運な時代の高齢者であることは事実です。年金をそこそこもらえて、健康でもあり、長生きを楽しめるからです。

一方、私の世代は、日本だけでなくヨーロッパの多くの国でも、70歳まで引退できないのではないかという見通しに直面しています。少なくともあと20年は働くことになるのです。今やヨーロッパでは、年齢を理由に従業員を差別することは違法です。このため、65歳で自動的に定年退職になるという制度は、イギリスでは廃止されつつあります。

現在50代に差しかかりつつあるヨーロッパの世代は、前の世代のように引退する余裕を持てないでしょう。でも、会社に勤め続ければ、若い世代の行く手を阻んでいるような罪悪感を感じさせられるうえ、リストラの対象になる可能性も多々あります。50歳を過ぎた社員にとって、転職先を見つけるのは容易ではありません。それに、意欲の問題もあります。これから先20年にわたって同じ仕事をし続けるという展望は、特にプレッシャーのきつい、いわゆる現場タイプの職種では魅力的とは言えません。仕事人としての人生の後半は、習得したノウハウや知識について熟考し、次の世代に引き継いでいくことが中心になるべきです。

日本で1990年代から使われてきたやり方、例えば肩たたきや窓際族などの処遇が、この状況に真に対応できていたとは思えません。こうした処遇は、受ける本人にとって苛酷なだけでなく、その反応としてリスクを嫌うようになった若い世代にとっても、好ましいやり方ではありません。若い世代は終身雇用を望んでいますが、野心的な目標を追求したり、外国で働くなどのリスクを取ったりすることには、あまり意義を感じていません。

むしろ好ましいやり方は、仕事人生の後半に突入した従業員が、蓄積したノウハウやスキルを集大成としてまとめあげ、管理職としてではなく教育や研修の機会を通じて日本の若い世代に伝えていく方法を見つけられるよう、サポートすることではないでしょうか。海外で買収した企業の現地採用社員や現地採用管理職も、日本の本社との強力なつながりを感じさせてくれるメンターを付けてもらい、会社の文化や業務手順の理解を導いてもらえるのであれば、歓迎するはずです。先輩・後輩の人間関係や見習い制度といった伝統を21世紀に応用することができれば、日本は、人にやさしく、かつ生産性の高い高齢化社会を創造するパイオニアになれると、私は考えています。
パニラ・ラドリン著 Teikoku Databank News 2014年1月15日号より

パニラ・ラドリン著「ユーロビジョン: 変わりゆくヨーロッパで日系企業が信頼を構築するには」Kindle版とペーパーバックはamazon.co.jpでご注文できます。

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オフィスの場所

8月、ヨーロッパではほとんどの人が2週間から4週間の夏休みを取ります。そこでビジネスが少し静かになるこの時期を利用して、私はオフィスを移転することにしました。といっても、今までのホームオフィスを、自宅の庭の反対側にある建物に移しただけのことですが。この引っ越しは、初めての社員を雇うための準備です。現在オフィスとして使っている自宅内の一室は、2人でシェアするには狭すぎるためです。

このようなオフィスの形態は、日本では珍しいかもしれませんが、イギリスでは最近とみに増えています。イギリスの中小企業の約半数以上(250万社)が、オーナーの自宅で営まれているのです。 オフィスの賃貸料がかからないことはもちろん、もろもろの付帯経費を節約できるメリットがあります。人事の観点からも、スタッフが社員ではなく全員フリーランスとして自宅で仕事をしていれば、はるかに管理が容易で安上がりです。とはいえ私は、右腕になってくれるスタッフが物理的に同じ部屋にいない状態でどこまで事業を成長させられるかという点で、本当に限界に達したという気がしています。

イギリスに進出する日本企業のほとんどは、バーチャルではなく物理的な事業拠点の開設を望んでいます。ロケーションとしては、製造業であれば、顧客の工場や物流センターの近くかどうかが重要な検討要因となります。イギリスのサービス業であれば、ロンドンへの至便なアクセスがとりわけ重要です。ロンドンには多くの顧客がいるうえ、人脈作りの機会やサポート組織なども多数あるためです。

ロンドン中心部はオフィスの賃貸料がとても高いため、プレステージの高い住所にあることが顧客や社員から期待されている会社(金融業界はこのパターンに当てはまる典型的な企業と言えるでしょう)でもないかぎり、ロンドン郊外かロンドン南東部を取り囲む様々な町に拠点を置くのがおそらく得策でしょう。

幸いなことに、私はすでに南東部に住んでいて、私の町にはユニリーバやエクソンをはじめ多国籍企業が数社存在しています。この辺りの町にはサービス付きのオフィスもあり、使用料は1人につき月200ポンド前後からです。この使用料には、光熱費、家具、受付など、ほとんどの経費が含まれています。

ただし、こうしたオフィスはほとんどがオープンなフロアプランの共有スペースになっていて、産業パークの中にあります。私は、自分自身の生産性にとって良い雰囲気ではないと感じたこと、それに社員になってくれる人にとってもあまり魅力的ではないように思えたことから、この選択肢は選びませんでした。

実際、オフィスの様子やロケーションに対して社員が魅力を感じるか、幻滅するかは、オフィス選びの際のもうひとつの重要な要素です。産業パークは多くの場合、お店やレストランから遠い場所にあって、通勤に車が必要です。イギリス南東部で働く人の多くは電車か車で1時間以上かけてこれらの産業パークに通勤していますが、人気企業はほとんどが、隔離された立地の短所を補うため、レストランやジムなどのすばらしい設備を提供しています。

私の会社では、庭の反対側のオフィスでジムやレストランを提供することはできませんが、せめて本格的なコーヒーメーカーぐらいは用意しようと思っています!

(帝国ニューズ・2013年9月11日・パニラ・ラドリン著)

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マーガレット・サッチャーが遺したもの

マーガレット・サッチャーの死がイギリス人の間でなぜあんなにも強烈な憤怒と称賛の感情を巻き起こしたかは、日本の人には理解しにくいかもしれません。首相の地位を退いてからもう23年になるというのにです。

私の世代(1960年代生まれ)は彼女の政権下で育ったため、「サッチャーズ・チルドレン」と呼ばれることがあります。1971年、当時教育相だったサッチャー氏が、7~11歳の児童に無償で支給されていた学校の牛乳を廃止したことを、私の世代はよく覚えています。私も含めて多くの子供が、学校の牛乳は大嫌いでした。毎日午前中の休み時間に支給されていたのですが、飲む頃までには生温かくなっていて、匂いがしたからです。

私は7歳までには日本に引っ越していましたが、牛乳から逃れられたわけではありませんでした。日本の学校でも牛乳が出たからです。しかも、日本の牛乳は低温殺菌牛乳ではなくホモ牛乳だったため、私にはなおさら嫌な味でした。

当時、日本のような異国へ引っ越すなんてとんでもないと言う人はたくさんいました。でも、1972年のイギリスも、決して住み心地の良い場所とは思えませんでした。炭鉱労働者や港湾労働者のストが相次ぎ、非常事態宣言も発せられていたからです。賃金と物価の凍結が発表され、失業者数は1930年代以来初めて100万人を上回っていました。

日本にも、経済問題はありました。オイルショック時のトイレットペーパーの買い付け騒動は、今も記憶に鮮明です。でも、この危機が日本の自動車製造の技術革新を促したことは、今では周知の事実です。私たちが日本へ発つ直前に、ホンダがイギリスへの輸出を開始していました。そして1977年にイギリスに帰ってきた我が家が買った車は、「ダットサン・サニー120Y」でした。

私の祖父母は、論外だと思ったようです。祖父母は戦争のことを強烈に覚えていて、私たちが日本に引っ越すことにも反対でした。なぜイギリス製の車を買わないかが理解できなかったのです。彼らが乗っていた「トライアンフ・ドロマイト」のメーカー、ブリティッシュ・レイランドは、相次ぐストで打撃を受けていました。

サッチャー氏は大変な愛国主義者でしたが、一方で、勤勉を重んじる自分の価値観を共有する外国投資家に対しては、大きく門戸を開放しました。私たちの世代は、炭鉱の町を破壊し、教育予算を削減し、戦争を挑発したサッチャー氏の批判に明け暮れましたが、その間にも彼女の政権は、日産の初の工場開設を奨励しました。この工場が造られたサンダーランドは、炭鉱と造船所が閉鎖された後、絶望的なまでに新規雇用を必要としていました。

それから30年、今では車を大量生産するイギリス資本企業はなくなりましたが、それでもイギリスでは昨年150万台近い車が生産されて1970年の200万台の記録に近付きつつあり、その86%は輸出されています。ただし、自動車業界の直接雇用はわずか19万5,000件しかなく、1970年の85万件を大きく下回っています。イングランド北部は今も失業率が高く、不況地帯です。これこそが、サッチャー氏の遺産に対する感情の深さを説明しています。彼女の政策は、ビジネスの観点からは正しい政策でしたが、人的コストの問題を未解決のまま置き去りにしたのです。

パニラ・ラドリン著 Teikoku Databank News 2013年8月14日号より
パニラ・ラドリン著 Teikoku Databank News 2013年8月14日号より

パニラ・ラドリン著 Teikoku Databank News 2013年5月14日号より

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ニラ・ラドリン著 Teikoku Databank News 2013年8月14日号より
パニラ・ラドリン著 Teikoku Databank News 2013年8月14日号より
パニラ・ラドリン著 Teikoku Databank News 2013年8月14日号より

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女性管理職が増えれば日本企業のグローバル化に役立つか

数年前、非営利団体J-Win(ジャパン・ウィメンズ・イノベーティブ・ネットワーク)の一行がイギリスを訪れた際の夕食会に招かれて参加してきました。イギリスに1週間滞在して、ブリティッシュ・テレコムや保険大手のエーオンなど様々なイギリス企業を訪問し、グローバル・リーダーシップと多様性を学ぶのが目的のツアーでしたが、一行のうち多くの日本人女性(70人)が会社から支援されて来ていたことには感心しました。この夕食会で、女性管理職が増えれば日本企業のグローバル化に役立つかどうかという質問が上がりましたが、時間不足で十分な議論が交わせませんでした。

この質問に対する私の見解は、「イエス」です。女性管理職(日本人)が増えれば、日本企業のグローバル化に役立ちます。その理由は2つあります。第一に、本社の管理職ポストに女性が増えれば、日本企業や日本の企業文化が西側の企業から「異質」と見られることが少なくなります。そして第二に、より多様性のある日本人の労働力を取り込むために日本企業が実践しなければならない調整によって、「非日本人」の多様なグループもより包含されるようになるためです。調整が必要な部分として私が提案するのは、残業に対する姿勢と自宅勤務です。

ヨーロッパのほとんどの企業は、10年前と比べてもはるかに柔軟な働き方を受け入れるようになっていて、そうした新しい働き方は男性にも活用されています。私の知り合いのイギリス人男性のある管理職は、最低週3日の自宅勤務をして子供の学校の送り迎えをしています。グローバルな職種のシニアレベルの管理職の多くは、電話、ウェブ会議、メールなどを使って世界各地のチームを管理していますが、このように時間や場所を問わない仕事のあり方も、このトレンドに一役買っています。

多くの日本企業が管理職に占める女性の割合の目標値を発表していますが、ノルウェーなどヨーロッパの一部の国では、これをさらに進めて、上場企業に対して一定人数の女性取締役を義務付ける規制を導入しています。ただし、この種のノルマに対しては、多くの企業が抵抗感を示しています。実力ではなく性別のみを理由として女性が昇進していると見られるようになれば、女性をさらに孤立させるだけだという恐れがあるためです。

そこで多くのヨーロッパ企業は、女性管理職の割合を義務付ける代わりにメンター制度を導入して、男性と女性の間の人脈作りや女性の昇進を奨励しています。これは、日本企業にとってもメリットのあるアプローチだと思います。既存の「先輩・後輩」の関係を活かしながら、女性だけでなく外国人の社員にも恩恵をもたらせるからです。西洋文化におけるメンタリングとは、メンティー(被育成者)のキャリア開発に特化する傾向があります。でも、私自身は、より広範にわたる先輩・後輩関係のほうが好ましいと思っています。インフォーマルな関係を通じて会社内でお互いの人脈にアクセスし、メンティーが「ファミリーの一員」になったように感じられるためです。

J-Winの女性2人とメンタリングについて話す機会がありましたが、外資系企業から参加していた1人は、アメリカ人男性にメンターになってもらうほうが、日本人男性にメンターになってもらうよりも、はるかに効果的だと感じていました。アメリカ人のメンターは、日本の女性の役割や行動について先入観がまったくないためだそうです。外国人の社員も、日本の企業文化を内側から説明してくれるメンターがいれば、同じように恩恵を受けられるのではないかと思います。

パニラ・ラドリン著 Teikoku Databank News 2014年1月15日号より

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日本にもオペア?

秋はヨーロッパ全域で新学年が始まる季節です。親にとっては、子供のための新しい洋服や文具、スポーツ用品などをすべて買い揃え、名札を付けるのに忙しい季節。同時に仕事のほうでも、長い夏休みから目覚めた顧客への対応で突如として忙しくなるのが、この季節です。

我が家では、7人目のオペアを迎え入れました。「オペア」の語源はフランス語で、外国から来て通常はホストファミリーの家に滞在し、育児や家事を手伝ってくれるお手伝いさんのことです。私たちは過去5年間、オペアのお世話になってきました。息子の学校への送り迎え、宿題の手伝い、家の掃除をこなし、いつでもベビーシッター役を務めてくれるなど、オペアがいなければ夫も私も仕事と子育てを両立するのは無理だったことと思います。

私たちのオペアのほとんどは、ドイツの出身です。EU加盟国の出身者は滞在ビザの問題がなく、違法労働を心配する必要もないため、オペアとして雇う際に最も簡単です。私たちはイギリスにいるので、選べる候補者が多いという点でも恵まれています。ほとんどのオペアは英語を学べる体験を希望しているからです。通常、オペアは18歳前後で、大学入学前に外国に1年間住んで文化を体験し、どの大学に行くか、大学で何を勉強するかを考える時間に使うというのが典型的なパターンです。
私たち親を助けてくれることはもちろんですが、息子が外国人とのコミュニケーションに慣れ、異なる文化や行動に触れられるという点も、私は気に入っています。

日本がグローバルな舞台でさらなる役割を担い、特に2020年のオリンピックを視野に入れて前進するにあたり、日本政府がオペアのような制度を考慮することはあるのだろうかと考えさせられます。現実問題として、日本の住宅の多くは、もう1人が住むには狭すぎるかもしれません。でも、私は18歳の時、広島のあるご家庭に住まわせてもらったことがあり、その体験を今でも良い思い出として大切にしています。そのご家庭では、私の部屋を作るために、息子さんと娘さんを同じ部屋に移さなければなりませんでした。2人にとっては決して歓迎できることではありませんでしたが、最終的には外国人が一時的に家族の一員になったことで全員にメリットがあったと感じてくれたと私は思っています。

そのホストファミリーのお母さんは、時々英語を教える以外には仕事をしていなかったので、私は家事を手伝う必要があまりありませんでした。私がホストファミリーから報酬をもらうのではなく(私たちはオペアに週75ポンドを払っています)、私の両親が私の滞在費をホストファミリーに支払っていました。

日本がオペア制度を導入すれば、子供と家の面倒を見てくれている人がいることに安心して、日本のお母さんが再就職のことをもっと現実的に考えられるようになるというメリットもあるのではないかと思います。これにより、子育て支援を拡大して女性の雇用を促進するという、政府のもうひとつの目標も推進できることでしょう。

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日本の文化とトルコの文化は似てる?

日 本研究協会の毎年恒例の会議が今年はイスタンブールで開かれるというのを口実に、この7月、初めてトルコを訪れてきました。トルコ訪問は、前々から実現し たいと思っていたことのひとつでした。イスタンブールは文字どおり西と東が交わる場所であり、ヨーロッパとアジアの境目に位置しているという地理的な魅力 もさることながら、私がコンサルティングを提供している日本企業の多くが、最近トルコに事業を拡大しつつあったためです。日本とトルコの二国間貿易は、 2012年に前年比25%増となり過去最高の46億ドルに達しました。2013年時点でトルコに事業所を開いている日本企業は120社に上っています。会議開幕の前日には、トヨタがトルコ工場で新型カローラの生産を開始しました。その晩、私は、ビジネススクール時代の同級生で、今はトルコのプライベート エクイティ会社の社長として成功しているトルコ人の友人と夕食を共にしました。この友人は、トヨタの事業展開のこともよく知っていて、また日本の企業連合 がトルコに原子力発電所を建設すると発表したことに対し、いささかの懸念を抱いていました。

日本企業が、トルコのみならずヨーロッパの他の場所でこの種のインフラ開発プロジェクトを積極化させるのであれば、提携パートナーや地元政府との良好な関 係が不可欠です。私が最近ロンドンで目にしたかぎりでは、駐英トルコ大使と日本のビジネス界の人々の関係は今のところ友好的なように見えました。ただし、 2020年のオリンピック招致をめぐってライバル意識はあったかもしれません。

日本人との仕事経験があるトルコ人数人に話を聞いてみましたが、日本人とトルコ人は上手にコミュニケーションが取れているとのことでした。問題がないということは、私のビジネスにとっては商機があまりがないことを意味するのかもしれませんが、何はともあれ朗報です。

トルコ語と日本語には似た部分があり、同系性を論じる説もあります。どちらも「WYSIWYG(What You See Is What You Get)」の言語、つまり書かれた文字のとおりに読むことができる言語で、各音節が明確に発音されます。英語のように、単語のスペルに発音しない文字が含 まれていたり、スペルを見ただけでは正しい発音が分からなかったりすることがありません。トルコ語は、文法的にも日本語に似ています。動詞が文末に来るこ と、かなりの度合いで曖昧さが許されること、そして主語を省略したりぼやかしたりすることなどです。

また、トルコの人々は、教室で行われるフォーマルな研修よりも、「見習い」式の学習方法に馴染みがあり、日本人の言う「身につける」学習スタイルに似てい ることも分かりました。これらの特徴は、製造業の環境ではポジティブな要因として作用するでしょう。けれども、対等な立場の二者間で経営にかかわるコミュ ニケーションが必要になる状況、例えばインフラ開発プロジェクトの提携パートナー間などの状況では、コミュニケーション・スタイルや意思決定スタイルの違 いがより明らかになる可能性があるのではないかと思えるのです。ということは、トルコにも、やはり私のビジネスの商機があるかもしれません!

パニラ・ラドリン著 Teikoku Databank News 2013年8月14日号より

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イギリスが「ノルウェーのように」なろうとすれば、日本企業が離れる恐れも

2016年、イギリスではEUを離脱するかどうかの国民投票が行われる可能性があります。在英日本商工会議所で講演したセンター・フォー・ヨーロピアン・リフォームのチャールズ・グラント氏の発言で、この国民投票の結果としてイギリスがEUを離脱すると予想しています。

イギリスのEU残留派は、EU離脱派ほど資金繰りが潤沢ではありません。また、あらゆる政治的説得力を駆使してくるEU懐疑派の政治家もたくさんいます。イギリスのメディアもほとんどは、EU離脱を支持する色眼鏡をかけた報道を繰り返しています。
EUがイギリスに残留すべきとする理論は、外国直接投資や経済への影響など、おおむね技術的な視点に立っています。一方、EU離脱派のキャンペーンは、国家としての独立を脅かすといった感情的なアピールをすることができます。

イギリスの実業界の人々は全般的にEU残留を支持していますが、情熱に欠けるという点では、私もグラント氏と同意見です。また、イギリスがEUを離脱した場合の成り行きついて、ある種の自己満足があるようにも見受けられます。イギリスの企業は、イギリスはノルウェーのようになることができると思っています。何らかの自由貿易圏に属しながら独立を保ち、国としては繁栄できるという考え方です。しかし現実には、ノルウェーは、傍から見るほどEUの政策と無縁ではありません。にもかかわらず、EUの政策策定のプロセスに対して影響力は持たないのです。

私の日本関係のビジネスという視点から言えば、「ノルウェーのように」というのは、イギリスに大変な悪影響を招くと思われます。過去10年間に、70社ほどの私のクライアントにもゆっくりと統廃合の流れが及んできました。そうしたなかイギリスは欧州本社をコーディネートする重要な役割を果たしていて、企業はEU加盟国の人材プールを大いに活用していますが、これはイギリスから、あるいはイギリスへの人の動きを容易にするEUの自由移動政策のおかげです。こうした人材は、日系企業の欧州本社の社員として、あるいはそれらに対して法務、財務、コンサルティングなどのサービスを提供する専門サポート会社の立場で働いています。

日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、ヨーロッパ全域における日系企業の雇用者数は43万7,000人です。群を抜いてその恩恵を受けているのがイギリスで、日系企業に雇われている人数は14万人。ドイツの5万9,000人と比べてもいかに多いかが分かります。

とはいえ、ドイツも日系多国籍企業にとって魅力的な土地です。特にエンジニアリング系の企業にはそれが当てはまります。イギリスが国境を閉ざし、EUへの影響力を放棄したならば、日系企業が欧州本社機能をミュンヘンかデュッセルドルフ又はアムステルダムに移し始めることは簡単に想像できます。

私が話した在英の日本人ビジネス関係者は皆、イギリスにEUに残留してほしいと思っています。しかし、内政干渉のように見られるという恐れから、その立場を声高に言うのは避けているようです。

EU残留のメリットを説得する責任は、私を含め、会社の事業がEU全体にわたっているイギリス人のビジネス関係者の肩にかかってくるでしょう。これは雇用だけでなく、グローバルな舞台におけるイギリスのイメージにもかかわることです。「リトル・イングランダー」風の孤立主義によって、そのイメージにどれだけダメージが及ぶかを考えなければなりません。グローバル経済で役割を果たし、影響力を及ぼし、イニシアチブを取って率いていくことに消極的と思われれば、グローバルな企業のほうからイギリスに留まることなど願い下げだと言ってくるでしょう。

Pernille Rudlinによるこの記事は、2013年9月16日の日経ウイークリーに最初に掲載されました。

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日本で会社のノートパソコンを紛失するとどうなるか

会社から支給されたノートパソコンを紛失することは、日本では大問題です。私が知っているある会社では、事の深刻さ(どのようにして起こったか、どのよう なデータが保存されていたか)によって、減給から降格までの処罰が科されます。その社員の上司も、同様の処罰対象となる可能性があります。さらに、その社 員と上司は両方とも、人事部が全社員に配布する通達書で名指しされ、不面目をあからさまに指摘されるのです。

この会社のイギリス子会社のITサポートチームは、多少冗談交じりではありますが、このポリシーを承認しています。時おりの事故や過失は同情に値する一方 で、会社のノートパソコンを社員がいかにぞんざいに扱い、不潔な状態で使っているかを見ると唖然とさせられるというのです。ある社員は、居酒屋で会社の ノートパソコンを3回もなくしたそうです。

このイギリス事業部門では処罰は導入しておらず、強いて言えば社会人としてのプライドが傷付き、不便を味わうことぐらいです。ノートパソコンには厳重な暗 号化技術が使われていて、紛失が報告されれば、即座にイントラネットからブロックされます。金銭的損失という意味では、ほとんどのノートパソコンがどのみ ちバランスシートですぐに減価償却されています。

おそらく、日本で厳格なポリシーが採用される理由としては、セキュリティや金銭的損失の懸念よりも評判に傷が付くという恐怖心のほうが大きいのでしょう。 日本では、ノートパソコンをなくしても多くの場合は警察か会社に直接届け出があるからです。その過程で多くの人がその出来事について知ることになり、最悪 の場合はメディアや顧客の耳にも届きます。

日本では、有名企業の社員というのは家族の一員のようなものです。社員が公に不品行を働けば、一族全体が子供を正しくしつけなかったとして面目を失いま す。兄や姉(直属の上司)は、弟や妹をきちんと監視しなかったことでとがめられます。象徴的なおしおきは2、3週間のお小遣いをなしにされることですが、 真の懲罰は、一族の中での評判に対するダメージです。注意の散漫なヤツ、あるいは馬鹿なヤツが一族に不名誉を与えたと見なされるのです。

前出のイギリス子会社のIT担当者と私で、「自分のPC」を会社で使うトレンドが社員のノートパソコンの扱い方にどう影響するかを考えてみました。自分でお金を出して買ったコンピュータやタブレット、携帯電話であれば、もっと注意深く扱うかもしれません。

でも、私の見るかぎり、日本の大手企業は自宅勤務のようなフレキシブルな働き方に消極的です。「自分のPC」のトレンドも、決して歓迎はしないのではない かと思われます。ベストのセキュリティと暗号化技術があるとしても、顧客の機密データが保存されていたかもしれないノートパソコンを社員が紛失して評判に 傷が付くというのは、あまりにもリスクが大きすぎます。

家族の喩えを再び用いるならば、息子が自分のお小遣いで買ったサッカーボールがご近所の窓に当たれば、たとえ窓が壊れなかったとしても、そのお宅からやはり苦情が出るからです。

パニラ・ラドリン  日経ウイークリー 2013年3月4日より

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ブランド名が知られていても、ヨーロッパで日系企業のことはよく知られていないケース

イギリスの「ミツビシ・コーポレーション」で求人があるという話を聞いた時、私は最初、自動車メーカーだと勘違いしました。日本で育って日本の大学に1年通ったのですから、ミツビシ・コーポレーションは三菱商事であって、ミツビシ・モーターズが三菱自動車であることぐらい、知っているべきだったにもかかわらずです。

ロンドンの三菱商事に就職して2年ほど、イギリス製の陶器や靴の日本への輸出に携わった後、私は東京の建材営業チームに転勤になりました。日本で会社が用意してくれたアパートは、家具がいっさい付いていませんでした。日本ではごく当たり前のことです。そこで私は、デパートのマルイで必要なものを買うことにしました。マルイならクレジットカードを作れると聞いたためです。必要なベッドやソファ、冷蔵庫を買い揃えるほどの貯金は私にはありませんでした。

クレジットカードの申し込みカウンターに近付いていくと、店員さんの顔にパニックの表情が走りました。若い外国人の女性は、良い信用リスクとは思われていないためです。私は日本語が話せるから大丈夫だと説明しましたが、なおも彼は、申込書を記入するのに十分な読み書きができるかどうかを心配している様子でした。

ところが、会社の住所を見ようとして私が名刺を取り出すと、そこに印刷されていた3つの菱形のロゴを見るなり、店員さんの表情がパッと明るくなりました。「三菱商事にお勤めなんですね! 上司の方にお電話して、お勤めの状況を確認させていただいてもよろしいでしょうか」。その電話から戻ってきた店員さんは、満面の笑みを浮かべて、テレビ2台と高級な冷蔵庫を売り込もうとしました。

三菱に勤めている間に、もう一度、三菱の名前が魔法を働いたことがありました。ある時、私は、うかつにもパスポートを持たずにロンドンからフランクフルトへ行ってしまったのです。ドイツの国境警察は、決して温かくは迎えてくれませんでした。免許証やクレジットカードなど、身分証明書になりそうな物をいっさい持っていなかったのですから、当然と言えば当然です。でも私は、会社のセキュリティパスを持っていることを思い出しました。

またしても、その場のムードはガラリと変わりました。警察官の一人が冗談すら言うほどでした。「ショウグンをくれたら、通してあげますよ」。当時、三菱のSUV「パジェロ」はヨーロッパで「ショウグン」と呼ばれていました。

三菱自動車と三菱商事は別の会社だなどと説明している場合でないことは明らかでした。わずか数年前に私自身が勘違いして面接に行ってしまったほどなのですから、無理もありません。今考えてみると、三菱のブランドが何を意味するかをよく知らないドイツの警察官にすら、たちまち信頼感を呼び起こしたこの一件は、きわめて興味深い経験でした。

これは20年前の出来事ですが、今でも日本企業がヨーロッパで人材採用する際に、この矛盾が存在していることは否定できないのではないでしょうか。日本企業は一般に好意的に受け止められていますが、何をしている会社かはよく知られておらず、それゆえに、日本企業の社員になることがキャリアの選択として良いことかどうかについて、疑念を抱く人がたくさんいます。

最近になって、ヨーロッパで事業展開している大手日本企業が単に製品の広告ではなく全般的なコーポレート・コミュニケーションに力を入れるようになっているのは、決して驚きではありません。優秀な人材を引き付けるための努力と考えることができます。

パニラ・ラドリン著 The Nikkei Weekly 2013年6月10日号より

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買収した外国企業を「下宿人」ではなく「婿養子」として扱ってみては?

今年第1四半期、日本企業による外国企業の買収件数が前年同期比33%減となりました。円安の影響を受けた一時的な落ち込みだと、私は考えています。とは いえ、最近発表された企業再編を見ていると、外国企業の大型買収を成功させられなかったと見なされた上級幹部が引責辞職を求められている様子がうかがえま す。このことから、必ずしも円安だけではなく、「一度痛い目にあって二度目は臆病になる」の心理が作用している可能性もあります。

日経新聞が大手日本企業148社を対象に行った今四半期の調査では、買収意欲が依然として高い状況が報告されました。回答した企業幹部の42.6%は、国内と国外の両方で買収をしたいと答え、国外では北米とヨーロッパの企業が好まれていました。

日本企業が外国企業の買収を成功させるために1つ気を付けるべき点があるとすれば、日本企業は伝統的な日本の家族のように行動し、買収・統合のプロセスに も家族のように順応するという事実を自覚することでしょう。例えば、日本の家族制度には今でも婿養子という縁組のあり方があり、夫が妻の姓を名乗り、妻の 親の相続人となることがあります。特に家業がある場合に、このような養子縁組が選ばれます。

ただし、日本企業は、買収した外国企業に対して「婿養子」モデルを適用することには消極的です。時には買収は、結婚のようでもあります。外国の大手企業の 株式を保有する長い求愛期間を経て、数年後にようやく完全買収に踏み切るというパターンです。そして、やはり結婚と同様に、このアプローチには両側の努力 とコミットメントが求められます。様々な努力を講じて、新しい価値感と習慣を持った新しい家族を作っていく必要があります。

日本企業による外国企業の買収で比較的よくあるのは、買収した企業を家族の一員としてではなく、下宿人のように処遇するモデルのように見受けられます。下 宿人が品行方正に暮らしていて、深夜に大音量で音楽をかけたり家賃を滞納したりしないかぎりは、自由気ままに暮らすことができます。

北米やヨーロッパの企業は、当初はこのアプローチを歓迎するかもしれません。今までどおりの事業運営が許され、あまり干渉もなく、十分に自治が認められる からです。けれども、下宿人と同様に、いずれは家族の団らんから阻害されていると感じ始め、別の良い下宿先を探すべきだろうかと考えるようになります。あ るいは、金銭問題に直面して家賃を払わなくなり、日本の大家が厳しく処遇する可能性もあります。

北米やヨーロッパの企業が他の企業を買収する際、文化的な側面に少なくとも最低限の注意は払われますが、主な関心はシステム、組織編制、ポリシー、目標数 値の統廃合に置かれます。通常、買収された企業が、新しい親会社にどのように順応しなければならないかを知らないまま放置されることはありません。買収合 意のかなり前に、そのことは明確にされるためです。

このドライなアプローチを日本企業が好まないのであれば、外国子会社とどのようにして婿養子のような関係、あるいは配偶者のような関係を構築するかについて、はるかに多くの思案をめぐらせる必要があるでしょう。

パニラ・ラドリン著 The Nikkei Weekly 2013年4月22日号より

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