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イギリスがEUを離脱することになれば、多くの多国籍企業が現在イギリスに置いている欧州本社を他の国へ移すだろうと私が最近言った時、ギリシャ系イギリス人の知り合いは、イギリスは一国でも問題なくやって行けると言いました。いわく、負担の多いEUの規制がないほうがよく、ヨーロッパにおける地位が何であれ、イギリスのように革新性に富んだ国には企業が集まってくるというのです。
ギリシャに対するEUの処遇を見てきた後で、この知人の見方は驚きではないかもしれません。EUの規制が多すぎるという不満は、イギリス国内にも以前から渦巻いています。けれども、芝刈り機の音量に対して設けられたEUの基準に見られるとおり、これらの規制はしばしば、イギリスのメーカーに有利なようにと、イギリスの官僚が主張してきたのです。一般にメーカーにとって、EU域内に工場を置くことの利点は、EUの基準に適合していれば28か国のどこでも販売認可が下りると安心できることにあります。
イギリスがEUを離脱すれば、EUの規制に影響を及ぼすことはできなくなるにもかかわらず、至近の最大市場で製品を販売したければ、なおもその規制に従わなければならないことを意味します。私をはじめ残留支持派のイギリス人にとってありがたいことに、野党・労働党の新党首が最近、次の国民投票(おそらく来年)でEU残留を訴えるキャンペーンを展開すると語りました。
これについては、今までいくらかの疑念がありました。キャメロン首相がEU加盟国との交渉で、欧州社会憲章を弱めようとしていると見なされているためです。欧州社会憲章は、労働者の勤務時間、休日、差別などについて保護をもたらしてきた規定です。労働党は、名前が示すとおり、労働者の権利を擁護することを基本理念とする党です。このため、EUに残留するためのキャンペーンを決定し、キャメロン首相がEUとどのような合意を取り付けるかにかかわらず、政権に返り咲いた暁には社会的な譲歩をすべて白紙に戻すとうたっています。
フランスやドイツなどEUの中核国が絶対に妥協しないとしている主要点のひとつが、人の移動の自由です。これが実は、多くのイギリス人がEU離脱を望む大きな理由のひとつとなっているのですが、私にしてみれば、イギリスが革新性を維持できるのは、まさに移動の自由ゆえです。多様性が革新を促すことを示す証拠はいくらでも存在し、ロンドンは間違いなくヨーロッパで最も多様な都市のひとつです。ロンドンかその近郊に会社を置けば、驚くほど幅広い国籍の人材にアクセスし、その人たちの視点やスキルを活用することができます。しかも全員の共通語が英語です。
不運なことに、最近の難民問題が移動の自由に対するコミットメントを弱めていて、EUそのものの終焉を招く可能性すらあります。加盟国は、協調して解決策を見つけるのではなく、折しも現在記念日を迎えつつある2つの世界大戦で学んだ教訓を忘れてしまったかのように振る舞っています。
Pernille Rudlinによるこの記事は、2015年10月14日の帝国データバンクニュースに日本語で最初に掲載されました
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