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HSBC銀行の昨今の状況を見ていて、買収を通じてグローバル化しようとしている日本企業の課題と重なる点があると思いました。HSBCは今から150年 前、英国とインドのイギリス人実業家によって、香港で商業銀行として設立されました。しかし、スイスのプライベート・バンキング部門が脱税の疑いをかけら れたことで、その記念の年が台無しになりつつあります。
HSBCは、1999年にこのスイスのプライベート・バンクを買収しました。イギリスのリテール・バンクの「ビッグ4」とされたミッドランド・バンクを買 収してから数年後のことでした。その後2003年には、米国の消費者金融機関、ハウスホールド・ファイナンスを買収しています。この多角化に至るまで、同 行は、駐在員の緊密なつながりを通じて各地の事業を管理していました。駐在員は1989年まで全員男性で、香港の「メス」と呼ばれる施設(日本の寮や研修 所に似ています)でジェネラリストとして軍の士官のような研修を受けた後、任を任されて世界各地の「要所」に送られていたのです。
しかし相次ぐ買収の後、ジェネラリストの管理職者が知らない国で知らない事業を管理するのは無理があったため、買収した企業では現地のエグゼクティブが実 務の管理を続けることを許されました。スイスのプライベート・バンキング部門のスキャンダルは、残念ながらこのアプローチの失敗を物語る唯一の事例ではあ りません。HSBCは2年前にも米当局に19億ドルの罰金を支払っています。メキシコで2002年に買収したバンキングおよび金融サービス会社のビタル が、麻薬関連資金のマネーローンダリングを阻止しなかったという咎めでした。
現地の管理職者に任せておくのが危険なのであれば、海外で子会社を買収している日本企業は日本人駐在員による管理を続けるべきなのでは、という疑問が湧い てくるかもしれません。けれども、これは現実的ではなく、解決策でもありません。海外に派遣できる経験豊富な日本人の管理職者は不足していると思われま す。それにHSBCの駐在員と同様で、そのような管理職者はジェネラリストのため、外国の専門的な事業部門で何が起こっているかを理解するのは難しいで しょう。
リエゾンであり通訳でもある日本人駐在員が不在となれば、コンプライアンスとリスク管理を目的とした情報提供を求める日本本社からのリクエストが、現地エ グゼクティブのところにすぐさま山のように舞い込むでしょう。彼らはできるかぎり回答しようとしますが、それに対しての見返りはありません。そのうち自分 が信頼されていないと感じ始め、正しい方向性についても混乱してしまう可能性があります。
HSBCのケースでは、明確な会社の文化を醸成して価値観を徹底し、それをグローバルに伝達するプロセスと、厳格なコンプライアンス・ポリシーを実践する ことが重要だと、多くの評論家やCEO自身が述べています。そのようなシステムが整っていれば、ある程度は現地マネージャーの裁量に任せることができま す。
日本企業では人間関係が非常に重要ですから、この「プロセス」と「価値観」に「人」を加えることを、私は提案します。この3つの要素と実践的なステップについて、今後の記事で詳しく取り上げる予定です。
Pernille Rudlin著 帝国ニュースより
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