三つの文化を持つ子供
私が6歳の時に両親と一緒に日本に移住しましたが、このことがその後の私の人生に与えた影響の大きさを、両親は当時十分には理解していなかったと思いま す。異文化コンサルタントとして活動する今、日本での子供時代の」経験の大切さをあらためて感じています。専門家の世界で色々な議論がある中、多くの心理 学者や文化人類学者は、人間の人格形成期といわれる年齢層は5-6歳くらいから11-12歳くらいの時期とみています。つまり、この期間に人間性とか、文 化的理解が形づくられるとのことです。
実際、私が仙台と神戸で生活をしたのは、まさにこの時期でした。1970年代の仙台には宣教師や私の家族のような学者しか外国人としておらず、こ の時期の私の経験はまさに強烈そのものだったのです。インターナショナルスクールもなく、白百合小学校初の、セーラー服の金髪少女であった訳です。
通学を始めた数週間は涙ながらの日々でした。休み時間といえば学校中の子供たちが物珍しげに寄って来て、私の髪に触ってみたり、青い目を覗き込ん でみたりするのです。下校時間に私の父母が迎えにきたりする時は、いつも大騒ぎでした。とは言え、その年頃の子供はすぐに環境に順応し、スポンジのように 物事を吸収する上、すぐにまた目新しいことに心を移します。半年も過ぎる頃になると、私の日本語もかなり上達し、ちょっと変わった見かけだけど、私達と同 じよね、と受け入れてくれる友達も出来る様になりました。ある時などは作文で、一等賞をもらったことさえあるくらいで、その時は両親が私の涙の日々からの 成長・順応ぶりに、声を上げて大喜びしたものでした。(はじめの頃の私の苦労や辛い思いを見ていたので、私の成長ぶりに胸が一杯になるくらい嬉しかったの だと思います。)
その後移り住んだ神戸の生活は仙台に比べとても順調でした。国際港都市ゆえインターナショナルスクールもあり、私のように色々な国籍や文化を持つ 子供が沢山いました。ちなみに、後で知った事なのですが、わたしの様な背景を持つ子供はTCKと呼ばれるそうです。これは即ちThird Culture Kidsということだそうで、自分の祖国以外で育ち、それ故に祖国とも、育った国とも故郷としての強い絆を感じない感覚を持つのです。その代わりに彼らに 特有の『第3の文化』なるものを作り上げるのです。そして価値観を共有する他のTCK達と交流しながら、生まれた国と育った国の両方の良いところを取り入 れていきます。また、このTCK達はひと所に腰を落ち着けるよりも、数年毎にそわそわしはじめ何処か他のところに移住したがる傾向があるようです。そうし てやがて落ち着くところが、TCK達のコミュニティーである、ロンドンやブルッセル、スイスなどの国際都市となるのです。
読者の中には、ひょっとしてご自身もTCKでは?と思われる方もおられるでしょう。または、TCKなるお子さんをお持ちの親御さんであれば、ご自 身の選択が、多大な影響をお子さんの将来にもたらしてしまったかと心配されるかもしれません。でも総合的に考えると、私は自分の息子がTCKになることを むしろ望んでいるのです。と言っても、我が息子はこの英国で典型的な英国人に育っていますけれど。
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