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去年の夏、アドリア海で休暇を楽しんだ時のこと。クロアチアの観光名所、クルカ川の滝へ向かう途中で、ツアーガイドが突然、「クロアチアのバルカン側に入 りました」と言ったのです。バルカンという言葉は、歴史を知っているヨーロッパ人にとって多くのことを意味します。ユーゴスラビア紛争から約20年という だけでなく、第一次世界大戦から約100年。第一次世界大戦は、オスマン帝国やオーストリア=ハンガリー帝国の衰退とともに域内の地域や国家が互いに対立 する小さな地域や国家に分裂していった「バルカニゼーション」が一因となって勃発したとされています。私たちのガイドは明らかに、クロアチアがバルカン諸国というだけでなく地中海諸国でもあり、ゆえに近代ヨーロッパの一員であるということをアピールしようとしていました。
第二次世界大戦後、対立していたバルカン諸国は部分的にソビエト連邦の下で再統一されました。おかげで私の世代のヨーロッパ人のほとんどは、アドリア海が ユーゴスラビアの一部であり、安いけれども快適な保養地だと記憶しています。ユーゴスラビアは、友好的なソビエト衛星国の成功例のひとつとされていまし た。ですから、それが解体して内戦に陥った時、西欧の人はショックを受けたものです。
クロアチアは2013年、EUに加盟した最新の国になりました。旧ユーゴスラビア連邦の他のバルカン諸国であるマケドニア、セルビア、モンテネグロは公式な加盟候補国で、ボスニア・ヘルツェゴビナは「潜在的な加盟候補国」と見なされています。
ギリシャの危機とイギリスの離脱をめぐる国民投票でEU自体の崩壊の危険が取り沙汰されるなか、バルカン半島の候補国は、EU加盟が実際のところどんなメ リットをもたらすのかと案じているに違いありません。最近の歴史があることから、これらの国にとって、経済協力を通じて戦争を防止するというEU本来の狙 いは今も意味があります。
でも、経済協力のメリットはそれほど明らかではありません。EUに遅れて加盟するということは、多国籍企業の大規模な地域投資を逃すことを意味するという ことが、クロアチアの最近の加盟で明らかになりました。バルカン諸国の人口と経済規模は比較的小さいため、これら諸国に子会社を開設するほどの投資を誘う インセンティブはあまりありません。現地代理店を通じて、またはドイツやポーランドの地域拠点から、これらの市場を容易にカバーできるのです。
クロアチアは今も造船業が盛んで、国の輸出高の10%を構成しています。が、国の経済を支える主要産業は、これまでどおり観光業になると認めざるを得ませ んでした。日本からのツアーグループもたくさん来ていました。私たち同様、日本人観光客も、クロアチアの古い街並みの美しさと歴史に魅了され、新鮮な魚介 類に舌鼓を打ち、通りや建物が清潔でよく手入れされていることに感心したことでしょう。何よりも私の印象に残ったのは、出会ったクロアチアの人たちが皆、 とても仕事熱心で、テキパキとしていて、礼儀正しく、誠実で、学もあり、英語も上手で、陽気な人たちだったことです。クロアチア市場は外国投資にとって魅 力的ではないかもしれませんが、クロアチアの労働力は間違いなく魅力的です。
バルカニゼーションという言葉が新しい意味を持つような未来、すなわちバルカン諸国の人たちが欧州の単一市場に貢献し、そこからメリットを受けられる未来 に向かってヨーロッパが進んでいけることを願うばかりです。古くからの定義に基づく解体が敵意に満ちた民俗浄化による国家を生み出し、EUが本来防止しよ うとしたタイプの戦争に再びつながらないことが、私の希望です。
Pernille Rudlin著 帝国データーバンク・ニュースより
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