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先の日本出張で、ある日本の顧客企業からもろもろの文書を託されて帰ってきました。ようやくすべてを翻訳し終えて、その会社のしかるべき海外事業部門に転送したところです。翻訳に時間をかける前に、日本以外の事業部門にこれらの文書の内容がすでに伝わっているかどうかを顧客に聞いてみたところ、伝わってはいないけれども、これらの文書の内容は「きわめて重要」とのことでした。
これは、日本企業の海外事業部門が不満に思う点として幾度となく指摘されている問題です。日本から十分な情報が提供されず、その状況があまりにもひどいため、日本側が故意に何かを隠しているのではないかとすら疑い始める事態が見られます。
日本人社員の間に情報を渇望する姿勢があることについては、この連載で以前に言及しました。日本では、暗示的な知識共有によって、その渇望が部分的に満たされています。オフィス空間に間仕切りがほとんどなく、同僚が机を並べて何年も一緒に働きます。しかも全員が日本語を話す環境ですから、フォーマルに明示的なコミュニケーションを行う必要はありません。よりフォーマルな形式のコミュニケーション方法も、ほとんどの部署に存在します。週間報告書や月間報告書、さらには多くの人が忌み嫌っているA3サイズの計画書や稟議書が、多くの人に回覧されています。
しかし問題は、これらがすべて日本語であることです。これを英訳する面倒な仕事は誰もやりたがりません。もっと優先順位の高い毎日の業務を抱えているためです。翻訳会社に外注するのはひとつの方法ですが、重要な情報は何か、社内文書が真に意味するところは何かを見分けるために、インサイダーの目が必要になることも多々あります。
私自身が至った結論は、日本の事業部門と海外の事業部門の間に意識的なコミュニケーションのプロセスを導入する必要があり、それを誰かの職務責任として認識する必要があるということです。このポストに就く社員は、「海外」グループのような部署ではなく、実際の事業グループの一員であるべきです。さもなければ、情報の背景を理解することができないからです。そうした情報の機微こそが、海外の子会社が最も必要としている情報なのです。
そして、このプロセスの最後のパズルの一片が、組織図を作成して、どの部署とどの部署が、またどの社員とどの社員が「タメ」の関係にあるかを明らかにし、これらの部署同士、社員同士が情報共有する必要があると定めることです。これは、言うは易く行うは難しの作業かもしれません。私の経験によると、日本の大手企業のほとんどは、欧米の大手企業とは非常に異なる組織構造になっているためです。日本では、特定の地域や顧客セグメントを専門とする営業の責任者がいません。マーケティングの責任者もおらず、マーケティングの部署が独立して存在することも稀です。組織がきわめて縦型の構造になっているため、欧米の組織に見られる役職に似たグローバルな職権や機能的な役割を持った社員を見つけるには、各部署に深く踏み入る必要があります。
しかも、日本では個別の社員に対して職務内容を定めて文書化していることがほとんどないため、この作業をさらに難しくしています。とはいえ、しかるべき担当者とチームがひとたび確立すれば、日本以外からの情報を渇望する姿勢と海外の同僚のために役立つことで得られる満足感が、このプロセスを浸透させる要因となるでしょう。
この記事はパニラ・ラドリン著「ユーロビジョン: 変わりゆくヨーロッパで日系企業が信頼を構築するには」に出てます。Kindle版とペーパーバックはamazon.co.jpでご注文できます。
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