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2020年はコンタクトレス&ペーパーレス

1960年代の未来予測を見ると、笑えるものがたくさんあるのは確かです。2020年には月旅行……などは、その例です。が、最近体験したいくつかの出来事を経て、なかにはズバリ的中と言えそうなものもあることに気付きました。ペーパーレス・オフィス、硬貨と紙幣の終焉、様々な仕事やタスクの自動化など、何度となく耳にした予測は、私が思っていた以上に早く実現しつつあります。

私の会社の会計記録のために月1回来てもらっていた簿記係の女性から、昨年末、この働き方では割に合わなくなったと告げられました。実のところ、私自身も、クラウドベースの会計ソフト、Xeroを導入して以来、彼女の必要性をあまり感じなくなっていたところでした。Xeroはニュージーランドの会社が開発した製品で、イギリスの中小企業の間で急速に人気を博しつつあります。税務局のウェブサイトの付加価値税還付機能と互換性のあるソフトウェアを使ってすべての財務記録をデジタル形式で管理しなければならないという義務付けが導入されたことが、これを刺激しています。

Xeroは、税務や会計のエキスパートでなくても簡単に使えて、銀行口座からの自動フィードにもリンクさせられます。しかも、領収書や請求書をPDFで受け取った場合はメールで転送すると自動的に記録に変換して帳簿に入力してくれる機能も追加されました。イギリスの税務局は、領収書、銀行口座の明細書、請求書などをデジタル形式で受理してくれるため、もはや紙の書類を簿記係さんに手渡して整理・照合してもらう必要はありません。つまり、紙のファイルはすべて捨ててよいということです。

このため、銀行口座の記録が十分な詳細度で管理されているかぎり、行く先々で領収書を出してもらう必要はなくなりました。近所の小売店のなかには、最近まで5ポンド以上の購入でないとクレジットカードが使えない店がありましたが、今ではすべての店が少額でもコンタクトレスの決済方法を受け付けています。おかげで、最後に現金を引き出したのは数週間前のことです。

最近、地元の女性の交流会に行った時には、これが問題になるかもしれないと思いました。この会合では、毎月、チャリティ抽選会があるからです。でも、ここでもコンタクトレスの装置で支払いを受け付けてくれました。このシステムを導入して以来、抽選チケットの売り上げが大幅に伸びたそうです。

私はデビットカードのコンタクトレス決済で抽選チケットを購入しましたが、他の人はスマホを機械にかざしてAndroid Payで支払っていました。

息子のスマホを私のAmazon Primeアカウントで購入して、その代金を小切手で返してねと咄嗟に言ってしまった時も、古さを露呈してしまいました。息子も18歳になり、自分の銀行口座を持つようになったため、これからはスマホの費用を自分で払いなさいという約束だったのですが、いぶかしげな顔で私のことを見て、どうすればいいんだ、銀行から小切手帳はもらっていないと言ったのです。結局、息子は、銀行のモバイルアプリで払ってきました。

Pernille Rudlinによるこの記事は、2020年2月12日の帝国データバンクニュースに日本語で最初に掲載されました

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東ヨーロッパの30年前と今

ベルリンの壁崩壊の30周年式典を見ながら、1989年のことを思い出しました。当時はロンドンで働いていて、大学卒業後1年の時でした。東欧の若者の勇気を見ているうちに、もっとグローバルでやりがいのある仕事をしたいと思うようになり、PR会社を辞めて、三菱商事に入りました。

幸い、三菱商事で出会った日本人の上司もチャレンジ精神が旺盛でした。事業機会を探しに、一緒にドイツとチェコスロバキアの各地を回りました。が、すぐに時期尚早だということが分かりました。私たちが販路を模索していたホンダ製のオートバイを買うほどの可処分所得ができるまでには、まだ何年もかかりそうでした。西欧の中古バイクを東欧に送り、修理部品を販売するほうが需要がありました。

同様に、東ドイツのガラス工場をイギリスのガラス会社と結び付ける試みも、不成功に終わりました。その工場は、昔風の重厚なカットの色付きクリスタルガラスを作っていて、顧客のニーズがあるからというよりは、自社に技術があるからという理由で、そうした製品を主体としていました。一方のイギリスの会社は、この工場に投資して品質とデザインを向上させるような意気込みはありませんでした。ドイツの工場の幹部を老舗百貨店のハロッズに連れて行き、ガラス製品の売り場を見せましたが、幹部たちは、値段が高いばかりで、自分たちのような職人技が表現された製品ではないと失望したようでした。

それから30年。今もなお、東と西の間には明らかに雇用と収入の格差があります。ただし、これは主にジェネレーション・ギャップによるものです。東欧の製造業に対しては、多国籍企業が積極的に投資してきました。日本企業も例外ではありません。人件費が安いからです。しかし、英語を話さない非熟練労働者が高齢化する一方で、スキルがあり英語を話す若い労働者は極端に不足しているという問題があります。

2000年代以降に大学を卒業した人たちの多くは、母国がEUに加盟したメリットを謳歌して、西欧でキャリアや学問を追求するようになりました。私も顧客の日系企業でそうした優秀な東欧出身者に出会いました。二人ともリトアニア出身で、見事な英語を話し、人事担当者として非常に良い仕事をしています。

東欧諸国は、様々な給付金や税制優遇で若い労働者を呼び戻そうとしています。日系の人材会社も東欧へ進出して、西欧で働いている日本語話者をリクルートしようとする日系企業を支援しています。

しかし、残念ながら、私が地元の大学で教えた夏期セミナーの日本研究クラスを受講した東欧出身の学生20人ほどを見るかぎり、日系企業への就職意欲はあまりないようでした。ワーク・ライフ・バランスとお堅い企業文化を心配しているのです。

日系企業は、富士通の事例から学べるかもしれません。非製造分野の従業員数でポーランド最大の日系企業となっている同社は、フレックスタイム、医療サービス、教育研修、CSR、スポーツ、法人割引、無料フルーツなどの福利厚生を強調しています。この背景には、業務プロセスや物流、ITサービスのアウトソース先として、ポーランド、ルーマニア、チェコ共和国などの国がホットスポットになりつつあり、人材競争が激化していることがあります。

Pernille Rudlinによるこの記事は、2019年12月11日の帝国データバンクニュースに日本語で最初に掲載されました

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慈善団体の理事の役割

日本からの赴任者によく言われるのが、イギリスでは非営利セクターの存在感が日本に比べてはるかに大きいように見えるという点です。募金イベントを後援してほしいと社員からリクエストされたり、市街地の目抜き通りに慈善団体が店を構えているのを見たりして、そう感じるそうです。イギリスの慈善セクターの年間収入は506億ポンドですが、その半分を支えているのが個人寄付です。残りは、政府の助成金や宝くじ収益、および民間セクターからの寄付で賄われています。

今年、私は2つの慈善団体の理事になりました。ひとつは、ロンドンのジャパン・ソサエティ。もうひとつは、私が住んでいる市で難民や亡命者などの移民がイギリス社会に溶け込めるよう支援している団体です。どちらも法人登記されているため、私は、企業登記局に対して説明責任を負う取締役(director)であると同時に、チャリティ委員会に対して説明責任を負う理事(trustee)ということになります。

イギリスでは、慈善団体の理事と企業の取締役に課される義務は似ていて、寄付者または株主からの資金を守る義務に起因しています。団体や企業が規制を順守していること、慈善目的や事業戦略に則って行動していること、さらにリスクを認識して対応していることを確認しなければなりません。

理事としての責任を理解するために参加したワークショップで、イギリスの非営利セクターは日本だけでなく他のヨーロッパ諸国や米国よりも大きいことを確認しました。ヨーロッパの他の国では、国家が国民を保護する立場にあり、米国では、個人がもっと自立することが求められています。

イギリスの理事にまつわる規制は、17世紀にさかのぼります。国家が提供する保護と個人が自分でもたらす保護の間にあるギャップを、主に教会系の慈善団体が埋めていたのです。しかし、なかには腐敗した団体もあり、本来の受益者にほとんど恩恵をもたらしておらず信用できないと見られるものもありました。そこで、市民が「trustee」すなわち被信託者を指名し、慈善団体が公共の利益のために行動していることを確認させたのです。

また、イギリスと米国の慈善団体に課される規制に重要な違いがあることを、ワークショップの講師が説明してくれました。両国の文化を知っている人には興味深いかもしれません。いわく、米国では結果が重視され、慈善の目標が達成されていれば、どうやって達成されたか、資金がどこから来たかは、さほど問題とされないそうです。これは、米国のビジネス文化にも通じます。法律は守らなければなりませんが、それ以外の道義的責任をどのように果たすかは、各企業の自由です。

一方、イギリスでは、結果だけでなく手段にも責任を負うのが、理事や取締役の役割とされています。裁判になれば、法律に違反したかどうかだけでなく、行動が「合理的」だったかどうかも判断されます。正しいことをすべく十分な努力を講じたのであれば、過ちや監督不行届、目標に達しない結果からは赦免されます。

Pernille Rudlinによるこの記事は、2019年10月9日の帝国データバンクニュースに日本語で最初に掲載されました

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EU離脱の最新情報

ここ数か月ほど、イギリスのEU離脱について書くのを避けてきました。語り尽くした感があったことが、その一因です。同じように日系企業も、警告を出すのを止めたかのようです。強硬離脱という最悪の事態に備える計画は、すでに多くの会社が策定済みで、場合によっては実行している会社もあります。また、公の発言は外交官と政治家に任せるようにと日本政府から指示があったという話も聞きます。

イギリス企業も、沈黙を保っています。下手に口を開けば政府との契約を危険にさらすとジョンソン政権から釘を刺された企業も一部にあるためです。金融サービス業界では(日系企業も含めて)、代替となる在EUの法人がすでに設立されていて、事業許可も得ています。外国為替、債券、株式市場に起こるであろう混沌から利益を手にするチャンスすらあります。

とはいえ、何が起きるかを確実に見通すことは不可能です。ボリス・ジョンソン首相が期限直前になってEUが新しい条件を提示しなかったことを批判し、EU基本条約(リスボン条約)第50条のさらなる延期を要求して総選挙に持ち込もうとするという予想も、本当になるかもしれません。ポピュリズム的な選挙運動を展開して、議会の過半数支持を決定的にしたいと考えることでしょう。その後ろ盾があれば、メイ前首相よりも自信を持ってEUに新しい条件を要求し、EUが譲歩しなければ合意なき離脱だと言うことができます。

問題は、メイ前首相に提示された条件が、期待できる最善の内容だったことです。これは、人の移動の自由を廃止し、欧州司法裁判所の管轄からイギリスを除外し、またEUとの関税同盟をなしにするという、ギリギリの線引きに立った交渉の結果でした。これらの線引きをジョンソン首相が消してしまうわけにはいかないだろうと思われます。

ジョンソン首相の主な狙いは、北アイルランド国境問題をめぐる、いわゆるバックストップ(安全策)条項をなくすことであるように見受けられます。北アイルランドとアイルランド共和国との国境を開放しておく策が見つからないのであれば、北アイルランドを事実上、EUに留める条項です。このバックストップ条項を「離脱協定」から削除して「政治宣言」に入れ、すなわち後で交渉するという小手先の方法もあります。そうなれば、おそらくは現行の2年よりも長い移行期間が必要になることでしょう。

在イギリスの日系企業にしてみれば、イギリスは数か月の混乱の後、数年にわたる移行期間に入ることになるかもしれません。技術的にはEUではなく、ただしそれ以外はすべて今までどおりで、交渉が長引いた後に、強硬離脱に終わるという筋書きです。

そうなれば、日系企業がすでに講じてきた対応策がベストの対応策だったということになります。製造業はサプライチェーンを調整してイギリスを迂回し、金融サービス業はイギリスのスタッフをおおむね維持しながらEUにも本格的な拠点を持つという対処法です。そして、近年イギリス投資を拡大した日系のIT、インフラ、アウトソーシング業界の企業は、公共セクターが重要な市場ですから、EU離脱に伴って必要になる新しい体制で政府の契約を獲得するためにも、口を閉ざしておくべきです。

Pernille Rudlinによるこの記事は、2019年9月11日の帝国データバンクニュースに日本語で最初に掲載されました

 

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職業人としての説明責任

日本企業で行われる無意味な会議の話がトレーニングのワークショップ中に出ると、私はよく自分の経験をシェアしています。日本企業で働いていた時に、経営企画チームを代表して本社での会議に出席しなければなりませんでした。私にはまったく知識のないトピックの会議でした。ただ稟議書を読んで、いっさい発言せず、最後に「了解」とだけ言うよう指示されて会議に臨みました。会議では、赤字工場の開設に携わった2人が、稟議書に書いてあることを一字一句たがわず読み上げ、続いて数億円の損失処理の承認を求めました。明らかに承認済みの話でしたので、出席者は全員「はい、承認します」と言いました。この会議に何の意味があったのか、いまだに分かりません。ある種の罰ゲームだったのかもしれません。人生の貴重な2時間を無駄にしました。

日本企業には説明責任を社内的に示す同様のメカニズムが存在します

でも、考えてみれば、この会議の目的は、社内の説明責任を確立すること、いわば「筋を通す」ことにあったのでしょう。意思決定が下され、行動が取られ、その理由が説明されたという事実形成です。ほとんどの日本企業には、説明責任を社内的に示す同様のメカニズムが存在します。また、問題が生じた際、経営幹部は社外的にも説明責任を負うとされ、ゆえによく見かける謝罪の儀式が行われるのです。

けれども、ここしばらく相次いだ日本企業のスキャンダルには欠けている要素がひとつあり、これは欧米のメディアやエンターテインメント業界のセクハラ事例にも共通しています。それが、職業人としての説明責任です。日本企業がグローバル化して社員も多様化するにつれ、この要素をコーポレート・ガバナンスやコンプライアンスのシステムに取り入れなければならなくなるでしょう。

欧米社会の幅広い職業、例えば弁護士、医師、会計士といった伝統的な職業から、最近では人事、金融、エンジニアリングなどの職業まで、あらゆる分野でその専門職者になろうとするのであれば所属が前提となる職業者の協会というのが存在します。加入に際してその倫理規定に従うことを宣誓し、試験を受けて進級したり毎年一定時間の研修を受けたりすることが期待されています。

説明責任は多様性のある労働力を構築するのに役立つ

国境を越えて専門職の資格を相互に認定するプロセスは複雑ですが、とはいえ専門職の資格を有する社員を雇うようにすれば、多様性のある労働力を構築するのに役立つでしょう。専門職の資格というのは、性別、年齢、障害、人種といった属性に左右されないためです。

また、日本企業にとっては、専門職者を雇うことにより、海外事業の説明責任を社内的にも社外的にも確立しやすくなるはすです。職業人としての説明責任を有している社員は、倫理規定に従わなければ、その職業を営む資格を失います。このため、上司や顧客から非倫理的なプレッシャーがかかる状況でも、それに抵抗する強さができます。

ただし、説明責任とは双方向のプロセスです。社員が社内だけでなく職業者の協会に対しても説明責任を負う一方で、管理職者は今までどおり部下の行動に関して社内的にも社外的にも説明責任を負います。つまり、管理職者は、信頼を育み、達成可能な目標と十分なリソースを提供しなければなりません。

この記事はパニラ・ラドリン著「ユーロビジョン: 変わりゆくヨーロッパで日系企業が信頼を構築するには」に出てます。Kindle版とペーパーバックはamazon.co.jpでご注文できます。

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日本好きだけど日系企業だ働きたくない

センターピープルの2019年6月19日の人事セミナーで行ったパニラ・ラドリンの「日本好きだけど日系企業だ働きたくない」スピーチのスクリーンキャストです。

 


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海外子会社の4つの管理方法

最近の日本出張中にアマゾンのオフィスを訪れ、同社に勤めている友人とランチをしました。入社したのは1年3か月前ですが、過去1年ほどでオフィスが急拡大したため、今では全社員の社歴ランキングの表で上半分に入るようになったそうです。

また、彼を含めて同社の東京オフィスで働いている外国人社員は、ほぼ全員が現地採用で、米国本社から派遣されてくる駐在員はほとんどいないとのことでした。これを聞いて私が思ったのは、業務をモニターする駐在員の管理職者がいない状態で、こんなにも急成長している子会社をアマゾンの本社はどうやってコントロールしているのだろうかということでした。

アマゾンはまた、20数年前の創業時のように、すばやく商品を市場に送り出すスタートアップのメンタリティを保つため、社内のプロセスや手順を最小限に抑えようとしています。

3つの海外子会社の管理方法

これまで様々な多国籍企業とその子会社に社内外の両方の立場からかかわってきましたが、海外子会社の管理方法は大きく3つに分けられます。営業力を重視する米国企業は、子会社に数値目標を課してコントロールする傾向にあります。子会社の社員や管理職者が目標を達成すればボーナスを支給し、目標に到達しなければ解雇します。米国本社でない多国籍企業でも、多くがこのシステムを使用しています。数値は誰でも簡単に理解でき、言葉に左右されないからです。

2つ目の管理方法は、米国と欧州の多国籍企業が用いている方法で、コンプライアンスを重視します。規則やプロセス、システムを厳密に導入して、命令系統のヒエラルキーも明確にすることで、誰がどの事業の責任と権限を握っているかを全社員が把握して行動します。

3つ目の方法は、日本企業のほか、「ミッテルシュタント」と呼ばれるドイツの家族経営の企業によく見られます。“家族”がコントロールする、すなわち本社から内輪のメンバーが子会社に赴任して、現地で何が起きているかを監視すると同時に、会社の文化を浸透させようとするスタイルです。

アマゾンの管理方法

東京で会ったアマゾンの知り合いによると、同社は採用過程で厳密なプロセスを踏むことにより、本社の理念に沿った行動を徹底させようとしているとのことでした。採用に際しては、複数の社員による面接を数回行って過去の経験を尋ねることで、候補者のマインドセットを知ろうとします。

しかし、この方法は、買収の結果として海外に子会社ができた場合や過去何十年にもわたって海外の子会社がある場合は、実践が難しいでしょう。日本の本社に浸透している価値観や行動とは異なる文化を持った古くからの社員がすでに大勢いるのです。

それに、十分に現地化して顧客に近い立場で事業展開しているのであれば、その多様性がもたらすメリットもあります。そうした海外子会社の社員に画一的な行動や価値観を押し付けるのは間違いと言えるでしょう。

いずれにしても、これから海外の事業買収や子会社の開設をしようとする日本企業には、グローバルに理解しやすい明確な企業理念と価値観を打ち出したうえで、それに則って海外の社員を採用し昇進させることを、ぜひ心がけてほしいと思います。

 

この記事はパニラ・ラドリン著「ユーロビジョン: 変わりゆくヨーロッパで日系企業が信頼を構築するには」に出てます。Kindle版とペーパーバックはamazon.co.jpでご注文できます。

 

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ヨーロッパで「リーズナブル」とは何を意味するのか

イギリス政府は、EU離脱の交渉で、これまで二度にわたり「リーズナブル」という概念を持ち出しました。イギリスで働いている日本人のマネージャーにとって、この概念を理解することは非常に重要です。会社間や会社と社員の間で係争が起きた場合に調停の基礎をもたらすのが、この概念だからです。

イギリスのリアム・フォックス国際貿易大臣は、昨年8月の訪日中に、日本や他のパートナーに対してEUを説得するよう呼びかけました。「イギリスは、フェアでリーズナブルな条件を提示しました。この提示を却下して合意なき離脱になれば、EUにとっても、イギリスにとっても、イギリスの貿易相手国にとっても、良いことはありません」。

言語学者のアンナ・ヴェジビツカ教授は、著書『English: Meaning and Culture』の「Being Reasonable」という章で、イギリス人がフォックス大臣のような文脈で「リーズナブル」と言う時は、価値判断が暗に含まれていて、相手側が「アンリーズナブル」、すなわち「ばかげている」、「極端」、「無謀」だとほのめかしていると指摘しました。同教授はポーランド生まれのポーランド育ちですが、今はオーストラリアに住んでいて、この言葉のニュアンスがフランス語やドイツ語の同義語とどう異なるかについて、客観的な知識を有しています。EU離脱をめぐるEU側の主席交渉官、ミシェル・バルニエ氏はフランス人ですから、英語の「reasonable」を自然とフランス語の「raisonnable」に翻訳して考えていると思われますが、これは「分別がある」や「理屈で説明できる」ことを意味します。バルニエ氏の補佐を務めるザビーネ・ウェイアンド氏はドイツ人です。「reason」に相当するドイツ語の「Vernunft」には「秩序」の概念が含まれ、正しいプロセスがあることを意味します。「リーズナブル」の概念は、フランス語では否定形が存在せず、フランスの民法で1回使われているのみ、ドイツの法律ではまったく使われていません。

さらに最近になって、イギリスのジェフリー・コックス法務長官が、やはり「リーズナブル」を使用しました。北アイルランド国境をめぐる通称「バックストップ」案をイギリスが回避できるようにするための調停を提案した際の発言です。交渉が決定的に決裂した場合に、イギリスが代替案を見つけるために「リーズナブル」な努力を講じたかどうかを、欧州司法裁判所とは異なる独立した立場の調停機関に判断してもらうべきだと提案しました。しかし、国際法では、「誠意(good faith)」をもって「最善の努力(best endeavours)」を尽くし、拘束力のある保証に至ることを重視します。

ここまで来たところで、たいていのビジネスピープルなら絶望してあきらめたくなることでしょう。弁護士でもないかぎり、理解が非常に困難になってきます。とはいえ、ビジネスピープルである私たちは、イギリスでビジネスをするために、この概念を理解する必要があります。ですから、私の説明が少しでも助けになればと思うのです。社員に残業のような負担を請け負ってもらおうとする時、あるいはビジネスパートナーと交渉する時、相手がイギリス人であれば、「リーズナブル」は次の3つのことを意味します。(1)リクエストの背後にある理由を分かりやすく説明した。(2)害悪を及ぼす極端なリクエストではない(高すぎる、安すぎるなど)。(3)理由が合理的、論理的、実際的である。これで相手から「リーズナブルだと思います」という反応を引き出したなら、あなたは説得に成功したというわけです。

Pernille Rudlinによるこの記事は、2019年4月10日の帝国データバンクニュースに日本語で最初に掲載されました

パニラ・ラドリン著「ユーロビジョン: 変わりゆくヨーロッパで日系企業が信頼を構築するには」Kindle版とペーパーバックはamazon.co.jpでご注文できます。

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ヨーロッパの人材業界

私の会社では在イギリス日系企業の社員数ランキングを管理していますが、最近ランクインした2社はいずれも人材業界の企業で、トラスト・テックとアウトソーシングでした。両社とも過去4年以内にイギリスで複数の人材会社を買収し、ドイツ、オランダ、ポーランドでも人材会社を買収してきました。

この動きを見ていて、13年前のことを思い出しました。イギリスと東欧で複数の企業を買収した別の日系人材会社のコンサルタントをした時のことです。買収したヨーロッパの企業が互いの連携を高め、統合的な戦略と構造を持つための方法を探してほしいと依頼されました。

しかし、ヨーロッパの人材市場はそれぞれ非常にローカルで、独自の慣習と法令があることがすぐに分かりました。最終的にその会社は、日本でさらに大手に買収され、国内市場を重点とする戦略を取るようになったため、ヨーロッパ市場から撤退しました。

今回ヨーロッパ事業を拡大させた2社の戦略的な意図は、売上高拡大という以外にあまり明確ではありません。海外で事業展開している日系企業の顧客に対して製造およびIT分野の人材を提供するとしていますが、これはヨーロッパよりもむしろアジアでのことと思われます。

ヨーロッパの日系メーカーは製造拠点を東へ移しているため、ポーランド、チェコ共和国、スロバキアなどのほうが需要があるでしょう。

イギリスは現在、エンジニアリングとITの人材が不足していています。EU離脱によってEU加盟国の国籍者がイギリスでの在住許可や労働許可を制約されることになれば、さらに悪化すると見られます。EU加盟国からイギリスへの人口流入はすでに劇的に減少し、医療、建設、食品加工などの業界で労働力不足を引き起こしています。

EU離脱の影響を別にして、イギリスの人材市場で過去10年間に起きた主な変化と言えば、規制強化と法令順守の負担増です。日系の人材会社が突如としてイギリス最大の日系雇用主のランキングに食い込んだ理由は、派遣社員が今の法令では人材会社の社員と見なされるようになり、年金や他の福利厚生の受給資格を有するようになったからです。このため人材会社は、賃金の男女差の報告要件やEUのGDPR(一般データ保護規則)などを順守しなければなりません。

業界関係者によると、ヨーロッパの人材会社には単に人材を見つけて紹介する以上のことが求められています。人材不足や多様な人材雇用のプレッシャーがあるため、データから洞察を得て、創意工夫を凝らすことで、顧客企業における役職と職務、および福利厚生や報酬体系の変更を支援し、雇用主としての魅力を高められるようサポートしていく必要があります。

これには、顧客企業に深く介入し、現地市場の人材プールにも精通する必要があります。このように考えていくと、日系の人材会社がヨーロッパの業界にどのような付加価値をもたらせるのか、ヨーロッパ市場から何を学べるのかは、いささか不明です。ということは、やはり売上高拡大だけが買収の目的なのかもしれません。

この記事はパニラ・ラドリン著「ユーロビジョン: 変わりゆくヨーロッパで日系企業が信頼を構築するには」に出てます。Kindle版とペーパーバックはamazon.co.jpでご注文できます。

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信頼

私の仕事の目的を一文で言い表すならば、「文化を越えて信頼を築くこと」と言えるかもしれません。でも、こう言うと、信頼をどのように定義するのか、どうやって築くのかという疑問が自ずと浮上します。

これまでの経験を分析した結果、多国籍企業で信頼を築くには5つの要素が必要と言えそうです。それを順番に説明しましょう。

  1. コミュニケーション

共通の言語を持つことは非常に重要です。でも問題は、西洋人にとって日本語は最も難しい言語のひとつであり、また日本人も英語に対して同じような気持ちを抱いていることです。日本の企業は、外国人社員の日本語学習を支援し、また英語でのコミュニケーションを上達させるべきです。英語を公用語にしたり、最低レベルの英語を社員に求めるだけでは不十分です。経営陣がビジョンと戦略と計画を今よりももっと効果的に英語で伝えられなければなりません。

  1. 共通の関心

共通の関心を見つけ、関心の度合いに違いがあると理解することで、交渉に安定した基礎がもたらされます。このため私はいつも、日本人駐在員にヨーロッパの同僚やパートナーと世間話をするよう勧めています。共通の課題やニーズがあることが分かれば、共通の理解ができ、妥協や合意に至りやすくなるからです。

  1. プロセスと規則

信頼のレベルが低い場合は、法律や規則やプロセスが安全策として必要になります。しかし、日本企業もEUも、時として官僚主義やプロセスにとらわれすぎる嫌いがあります。信頼されるには、規則やプロセスに従っていることを示さなければなりませんが、究極的にはそれだけでは不十分です。どのように物事を進めるか、意図は何なのか、相手に対してどのようにふるまうかも、同じくらい重要です。

  1. 確実性

誰かを信頼するということは、その人が法律を守るだけでなく、言ったことを本当にやってくれると信じられることを意味します。日本企業にとって、これは定義が難しいかもしれません。ファミリーのようなスタイルの企業文化があり、全員の役割が曖昧で、職務上の責任が明文化されておらず、年功序列で動くためです。会社というファミリーのために、誰もが何であれ必要な行動を取るものとされています。家族の一員のためであれば、規則を曲げることもあります。しかし、この曖昧さは、多様な文化が混在する組織では通用しません。

  1. ビジョン

これゆえに、会社がどこへ向かっているのか、どのように見られたいのかに関する明確なビジョンが必要になります。このビジョンを社員に伝えて、チームの一員であるという帰属意識を社員に持ってもらう必要があります。そうすることで、この価値観が指針となって、ビジョンを達成するためにどのように行動すべきかが分かるようになるでしょう。与えられた規則やプロセスの枠内で様々な目標に達することだけがビジョンであって、社員が主体的に会社の価値観に参加していなければ、日本とヨーロッパの両方の企業で起きてきたようなスキャンダルが今後も続き、社会や文化を越えた信頼にとって悲劇的な結果を招くでしょう。

この記事はパニラ・ラドリン著「ユーロビジョン: 変わりゆくヨーロッパで日系企業が信頼を構築するには」に出てます。Kindle版とペーパーバックはamazon.co.jpでご注文できます。

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