「本物」の食べものとは何を意味するのか
異文化トレーニングのクラスで私はよく、母国を象徴するものは何ですかと参加者に尋ねます。会話を始めるきっかけになるうえ、多様な文化のバックグラウンドについて話す機会になるからです。国籍はニュージーランドやフランスでも、ガイアナ出身のお母さんが作るカレー、モロッコから移住したお祖母さんの作るタジンといった答えが出てきます。
最近のクラスで、ある日本人の参加者は、ラーメンが最も母国を思い出させると言いました。イギリスでもラーメンを買って作ることはできますが、彼の言うラーメンとは日本の屋台のラーメンで、これは私も同感でした。
イギリスで買えるラーメンは、日清食品の製品ですが、ハンガリーで製造されています。大手スーパーのセインズベリーのウェブサイトで買えるうどんもチェックしてみましたが、3つが中国製、1つがタイ製でした。
日本食はイギリスでも大変人気があり、ケーキやお菓子の料理家が競うコンテスト番組の「Great British Bake Off」でも、日本をテーマにした週があったほどです。参加者の一人は抹茶ケーキを作り、もう一人は醤油を隠し味に使いました。
これがツイッターで論議を呼びました。国際通商省がこの番組を利用して、日英包括的経済連携協定のおかげでイギリスの醤油が安くなると訴えたからです。ところが実際には、この協定がなければWTOの6%の関税が課されるようになるため日本製の醤油が高くなるという意味でのみ、この主張は正しいことが分かりました。先に日英包括的経済連携協定が調印されたため、関税は今後も0%ですが、以前からEUと日本の協定で無関税だった品目です。
そのうえ、イギリスが輸入している醤油の多くは、キッコーマンが工場を持っているオランダ、またはAssociated British Foodsの「Blue Dragon」ブランドの工場があるポーランドから来ています。イギリス・EU間の貿易協定がなければ、これらは6%高くなるでしょう。中国やマレーシアなど他の国から来ている醤油は、6%の関税がかかるとしても、これまでEUが7.7%の関税をかけていたのですから、今後は安くなります。
イギリスにも醤油のメーカーはあります。正田醤油は、イギリス企業のSpeciality Saucesを2000年に買収しました。ウェールズの工場で、醤油、味噌、みりんを製造しています。
ヨーロッパには、日本製の醤油だけが本物の味がすると言う食通がたくさんいますが、明らかに、イギリス人が好きなハイブリッド・カルチャー風の毎日の料理では、コスト・パフォーマンスも重要です。
イギリス人のみならずヨーロッパの人は、貿易協定に「地理的表示」を入れたがります。パルマハムはパルマ産、シャンペンはシャンペン産、スティルトンはスティルトン産でなければならない、という主張です。しかし、日本の屋台のラーメンと同じことで、これらの品目の多くにとって、真にオーセンティックなおいしい体験になるかどうかは、単にどこで生産されたかだけでなく、どこで消費されるかによっても左右されます。その場の雰囲気、気候、そのほかの食べ物といった要因があるからです。私自身、「ギネス」ビールのおいしさが初めて分かったのは、アイルランドの海辺のパブでソーダブレッドにバターを付けてムール貝を食べながら飲んだ時でした。
Pernille Rudlinによるこの記事は、2020年12月2日の帝国データバンクニュースに日本語で最初に掲載されました
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